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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第二章 邪教徒と生け贄の少女
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テュエルモントの村

 カイを馬小屋に招き入れた人物は、やつれ気味だが生真面目そうで小柄な男だった。男はカイの問い掛けに頷き、体を拭く為の布を差し出しながらこう返した。

「ああ、ここはテュエルモントだ。あんたは何処から?」

「アゼラ国のリルデンから来ました。カイと言います」

 受け取った布でまず馬を拭いてやりながら、カイは答えた。その様子を見た男は苦笑して、もう一枚古布を差し出し、幾分打ち解けた口調で名乗り返した。

「俺はオルセン。カイさん、確かアゼラはずっと東の国だろう? そんな人がどうしてここに?」

「リルデンで便利屋をやっているのですが……貴族様からナディラの特産品を買って来いと言いつけられまして」

「便利屋? 便利屋って何だい?」

「出来る事なら何でも請け負う仕事です。屋根の修理、家の掃除、失せ物探しと、色々やってます。そこに貴族様が……どうせ暇つぶしか何かでしょうが、訪ねていらっしゃいまして」

「……で、こっちの何かを買って来いと?」

「ええ」

 オルセンは曖昧な感じで頷き、「……じゃあ」と今思いついた事を口にした。

「屋根、直してくれないか? ちょうど一カ所雨漏りしてるんだ」



 馬のリラが馬具を外され、藁の上で落ち着いたのを見届けた後、カイは雨具を借りて屋根に上った。

 有り難い事に雨の勢いは先程よりも和らいでいる。

 この家の屋根は真新しい藁葺き屋根で、木材や瓦に慣れているカイにとっては少々手こずりそうな仕事であった。

 

 カイは屋根の上からオルセンに漏っている箇所を尋ねた。オルセンは家の中と外を行ったり来たりしながらカイに指示を出す。

「もうちょっと右だ! そう! その辺り!」

 カイが指示された辺りを見ると、藁を押さえている細い木の枝が一カ所外れていた。そのせいで藁束が少しずれてしまったようだ。カイはずれた箇所をもとに戻し、外れていたその良くしなる(・・・)細枝で固定し直そうと、雨の中で奮闘し続けた。

 オルセンはその様子をしばらく黙って見ていた。

 やがてカイが何とか藁束を固定し終わり「どうですか!」と呼びかけると、家の中に入りまたすぐに戻って来て、笑顔で大きく頷いた。

「大丈夫だ!」

 カイはそれを聞いて安堵の溜め息をつき、うっかり滑り落ちてしまわないよう慎重に屋根から降りた。

 

 



 少女は小さな部屋の隅で膝を抱え縮こまっていた。

 その小部屋には質素な寝台と古ぼけたランプ以外、何も見当たらない。

 ナイフを持った見知らぬ人々は、幸いな事に少女を生かしたままその部屋へと連れて行き、そのまま何もせずに扉を閉めた。

 危害を加えられていないからと言って安心出来る訳は無い。今助かったとしてもその先、自分は一体どうなってしまうのか見当もつかない。だから少女はその部屋でただ小さくなって震えているしかなかった。

 そして思い出したくもない事実を思い出す。

 目覚めた部屋から連れ出される時に少女は見てしまった。

 部屋の奥の台座の上に横たわる者を。

 目を閉じたまま微動だにせず、刃物を持った者達に取り囲まれていた血まみれの兄らしき姿を。

 目から涙が溢れ出て来る。

 悲しみは一時だけ恐怖を凌駕して少女を支配した。なり振り構わず声をあげ泣き続ける少女を、ランプだけがただ照らしていた。

 

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