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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
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出立③

 出立は夜明け前にした。身支度を整え、マントを羽織り、レンジャーが愛用する丈夫なブーツに履き替える。肩掛け鞄には水の皮袋、携帯食料として固く焼き締めたビスケットと干し肉、地図とナイフと革手袋と筆記用具。そして、ハイネマンから受け取った銀貨の袋を腰のベルトにしっかりと結びつける。

 昨日、カイは家に戻るとその銀貨で剣を買った。いつも稽古に借りている、売り物にならない古いショートソード。


『何だよ、相変わらず他人行儀だな』

 そばでアントニオが不機嫌そうに見ていた。

『親父もケチケチしないでこれぐらいタダにしろよ。贈り物だ、とか言ってさぁ』

『いや、俺の希望なんだ、アントニオ。今までお返し出来ないくらい、ここでは御世話になったから』

 息子と養子のやり取りを黙って見ていたワイズ氏に、カイは真っ直ぐな視線を向けた。

『今回の仕事はまとまった報酬が入りそうなので、これを機に独立します。今までありがとうございました。この御恩は一生忘れません』

『お前が立派になって私も嬉しいよ』

 ワイズ氏は深い慈愛に満ちた表情で頷いた。

 

 そうして手に入れた武器をホルダーに差して、出発の準備が完了した。

 裏口から静かに出て行こうとすると、店の見張り番をしていた住み込みの従業員が立っていた。かつては傭兵だったという屈強な姿が、薄暗い中で片手を上げる。

「道中気を付けて」

 普段から寡黙な上に、滅多に言葉を交わさない彼が小声でそう言った。

「……ありがとう」

 カイは小声でそう返すと、そのまま一度も振り返らずにワイズ邸を後にした。


* 


 朝靄の中、山々の雄大な姿が見えて来た。エルヴィン山脈の裾に広がる平地はパセドゥラ平原と呼ばれており、その肥沃な大地と山から湧き出す水の恩恵を受けた大小の村が、そこかしこに点在している。

 

 ここに辿り着くまでは三日かかった。幸いな事に、リルデンからこの付近の都市までは中継地となる幾つかの街を経由して整備された道路が繋がっており、特急の荷馬車に頼み込んで乗せてもらえた。そこから先は村を巡る乗り合い馬車が走っていたので、思ったよりも早く辿り着く事が出来た。仮に徒歩のみで行けばどれほどの行程となったかは計り知れない。カイはこの幸運に心の中で感謝しながら、御者に料金を支払った。馬車はこれからロレイヌと言う村へ行く為に東へ向かう。カイが降りたのはカラック村の入り口前だった。

 

 アルマ村へ向かう前に、食料と水の補充で一度カラックへと立ち寄る事にした。ここでは聞き込み調査も必要となるが、後回しにして山道へと向かう。アルマ村の様子を早く見ておきたかったのだ。

 ありがたい事に、山道はまだ整備されていた。カラック村の住人が定期的に見ているのかもしれない。この山道は傾斜を緩くする為にジグザグに作られている。アルマ村がカラックへ卸していた卵の運搬の為だろう。

 太陽が中天に差し掛かるよりも遥かに早く、カイは目的地に辿り着いた。

 住民全てが消えたと言う、その村に。

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