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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第二章 邪教徒と生け贄の少女
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越境

 幾つかの停留地で夜を明かし、幾つかの橋を越えて進み続けたキャラバンは、アゼラとバルデラの国境間近にあるデメイの街に辿り着いた。


 途中の都市や町で何人かが降り、また何人かが乗り込んだ。

 それだけ人が入れ替わったと言うのに、馬車の中では知らない者同士が交わす世間話や、むっつりと黙り込む者の様子が乗り込んだ時と全く変わらず、まるで時間が経っていないかのような錯覚を覚える。 


 カイは馬車を降りて空を仰ぎ、大きく伸びをした。

 デメイは賑やかな街だった。アゼラからバルデラへ、バルデラからアゼラへと陸路を選んで移動する人々にとって、利用し易い関所があるからだ。


 国王フィリップ八世の外交手腕によってもたらされた、バルデラ国との友好関係は数十年に及ぶ。

 過去には長い戦争を繰り広げた時代もあったが、それも百年以上も前の話だ。


 現在は物資の流通や観光などの為に、お互いの国をある条件のもと自由に行き来できる、安全通行条約が結ばれている。

 ある条件とは通行証を持っている事だ。

 二国間の国境線には何カ所も関所が設けられており、通行証を持ってそこを通れば安全に他国へと入る事が出来る。


 関所を通らぬ方法で行く場合、流れの速い危険な川や深い谷、または二国を分断する様に存在している断崖を、見張りの目を盗んで越えなくてはならない。


 関所は移動し易い地形の場所を選んで置かれているので、身体能力に秀でておらず、飛行や転移の魔法も使えない一般人にはそこを通るしか手段は無い。

 しかし通行証は身元を確かにすれば比較的安価に発行して貰え、おまけに他国での災害や盗賊被害の際には救済して貰える事もあるので、わざわざ危険を冒して小金を浮かそうとする者もいない。


 運試しや度胸試しをしたい暇な冒険者なら別かもしれないが、冒険者にはまたギルド証と言う物があり、階級や受けるクエストによってそれが通行証の役目を果たす時もある。

 ハイネマンから与えられた通行証は、貴族がお抱えの商人などに出す類いの物だ。更に貿易に携わる者の特権により、一枚でバルデラだけでなくその先のナディラにもそのまま入れると言う便利な物らしい。


 カイがバルデラ国側の関所の兵士にそれを渡して名を名乗り、

「貴族様の御依頼で、ナディラの特産品を現地で買って来い、と言われたのでバルデラを横断したい」

 と入国理由を告げると、兵士は通行証に目を通し判を押してから、厳かに

「入国を許可する」

 と頷いた。


 カイが兵士の前を通り過ぎる間際、背後で微かに、

「……貴族に仕えるって大変だな~」

 と言う声が聞こえた。

 見るからに(いか)めしい面構えの兵士から漏れた、気の抜ける様な呟きに笑いを堪え、心の中で(同感だ)と密かに返事をして、カイはバルデラへと足を踏み入れた。

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