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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
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アルマ村3日目②

 元の道に出て先へ進むと、森番の小屋から村へと続く道に合流した。


 村に入りブリック家に向かう。相変わらず雑草は高く茂り、風で揺れる物以外の音は聞こえない。

 ブリック家の畑は家の南にある。茨の生け垣がある御陰で何処から何処までが畑なのか、それが解るのが有り難い。伸び放題なので刺に注意が必要だが。


 カイは畑に足を踏み入れ、あの謎掛けを思い浮かべた。


『一番鶏の声のもと 六歩下がれ!世界のへそへ 十歩進め!朝日に背を向け』


 この文章は、歩数で隠した物の在処を示している。書かれた数と方向へ歩みを進めれば見つけられるという仕組みだ。そうなるとまず起点を見つけ出さねばならない。

 起点を示すのは間違いなく『一番鶏の声のもと』と言う文だろう。鶏を飼育している家の子らしい選択だ。カイは鶏の飼育場に目をやった。丸太の柵越しに、整備されていたであろう飼育場と小屋が見える。


(……あれか)

 畑に面した柵の、家に隣接した方の角に、皮を剥いでいない丸木のままの細い柱が立っている。その先端には人の手首から肘くらいまでの長さに切り出した、柱と同じ太さの丸太が横にしてに取り付けられていた。


 止まり木である。ブリック家の雄鶏はあの止まり木の上で、夜明けの到来を知らせていたのだろう。

 まさしく、『一番鶏の声のもと』と言う言葉に相応しい。カイは止まり木の前に立ち、畑を振り返った。


 起点は決まった。次は歩く方向だ。二つ目の文の『世界のへそへ』が方向を示す文ならば、それは何処か? 

 至極単純な事だ。畑が『世界』でその中心が『へそ』。

 しかしそれも隠し場所が始めから畑だと知っていたからこそ、出せた答えだ。知らなかったら見当違いの場所を探したかもしれない。


 畑である事を知るには店主に送られた手紙の内容を見る必要がある。

 そうなると、隠された物を見つける事が出来るのは店主自身か、もしくは店主に信用された者だけ。


 つくづく、信用を得る事が出来て良かったと思いながら、カイは『へそ』を決めるため畑の角へと向かう。そのまま角から対角へと歩いて線で繋ぎ、それを二本交わらせ中心を割り出した。そこが『へそ』だ。

 その地面にショートソードを突き立て、スコップを手に持ち、再び止まり木の前に立つ。そこから六歩。下がれと書いてあるが、歩きにくいので前を向いて中心に向かって小さめの歩幅で六歩進む。


 次は最後の文『十歩進め!朝日に背を向け』。

 これは解り易い。東に背を向けて十歩進めばいいだけだ。また小幅でその通りに歩き、終点の地面に今度はスコップを立てて目印にする。


 ショートソードを地面から抜いてホルダーに戻すと、目印の所に戻って地面を広めの範囲で掘り始める。雑草の根は強く、難儀しながらも根気強く掘り進めて行く。しばらくするとスコップの先端に硬い物が当たった。

 革手袋を嵌めた手で土を掻き出す。

 やがて地面から、頑丈そうな木の箱が姿を現した。



 


カラック村 風と葡萄亭


「そうしたらさ、村長が『うっ』だって! 見た事あるかい!? 村長の『うっ』て顔! ああ可笑しい! ほんと見物(みもの)だったよ!」

「あっはっは! そりゃいいや! 日頃さんざん気取ってっからなぁ~あのおっさん。いい薬になったんじゃねぇの?」

「そうだろう~? あたしもそう思うんだ! あんた解ってるねボブ! さすがあたしが見込んだ男だよ!」

「なに調子いいこと言ってんだよエマ。この前俺の頭にカボチャが詰まってるって言ったのはどこのどちらさんでしたかね?」

「あらぁ~とんと覚えが無いねぇ~きっと空耳って奴だよ?」

「っか~これだよ。オヤジさん、何か言ってやって下さいよ!」

「諦めろ。そいつの減らず口は死んでも治らねぇ」

「まいったねこりゃ」

「ようボブ、ダグさんにエマも。随分ご機嫌だねぇ」

「はいよ! いらっしゃいニック。そうなんだよ~聞いておくれよ!」

「おいエマ、もうやめとけよ。この調子じゃ村中に知れ渡ってそのまま村長んとこまで行っちまうぞ?」

「何だい、村長の話ならさっきダンから聞いてるぜ。『うっ』ってのがすんげぇ傑作だったって?」

「ほらな? もう回ってら。知らねぇぞ~」

「フンだ。怖かないよ!」

「……やれやれ、馬鹿は放っといていい。ニック、注文は何にする?」

「あ、すんません、ダグさん。じゃあ豆のスープと薫製肉のパスタを」

「わかった。待っててくれ」

「はい、どうも……そう言えばボブよ、そもそも村長がそんな目にあったのは何でだよ?」

「何だ、『うっ』の所しか伝わってねぇのかよ。それはあれだよ、ほら、『ええ』の兄ちゃんだよ!」

「……さっきから『うっ』だの『ええ』だの、訳がわかんね」

「だからあれだよ! 旅のな、若い兄ちゃんがな、人から頼まれてアルマ村の様子を見に来たんだよ。で、そいつがよ、『アルマ村に入っちゃいかん!』て威張りやがる村長をこう、上手くやり込めたかなんかしたんだとよ。俺も一昨日そいつと喋ったんだけどな、これがまぁ学者さまみてぇな奴でよ。違うんだけどな」

「おいおい、学者かそうじゃないかはっきりしろよ。……でもアルマ村か。どっかに避難してるって聞いたけどよ。大丈夫なのかねぇ……」

「わかんねぇ。さっき言った兄ちゃんが、いつ頃から狼が出たのか、なんて聞いて来てよ。何か村の様子を見に来たってより、調べに来たって感じでよ」

「ああ、狼騒ぎね。ありゃあ何だったんだろうなぁ? 結局俺ら誰も狼見てねぇし」

「コーヴのおっさんが一生懸命アルマ村だけに(とど)めていたからだって、村長は言ってたけどな」

「あーそうか……だからあんなに火ぃ燃やしてたんだ」

「火?」

「おう、俺そん時、丁度寝ずの番でよ。眠くってぼんやりアルマの方見てたら、あのあたりのどっかから煙がそりゃあもう、もくもく上がっててよ! いつから上がってたか分かんねぇけど一晩中燃やしてたね、ありゃ。風向きのせいで誰も気付いてないかもな」

「うっは、そりゃすげぇや。火ぃ焚いて狼追い返してたってことか。よく山火事にならなかったもんだ」

「俺もそう思った。一瞬で目ぇ覚めちまってよ、みんなを起こすかどうしようかって迷ってたら、ずぅっと煙ばっかりで一向に燃え広がらねぇし、あっちに人もいるだろうし、こりゃ大丈夫かなって……で、そのままずっと見てた」

「はいニック、スープお待ちどう。パスタはもう少し待っとくれ」

「おう、今日も旨そうだね。ありがたく頂くよ」

「おっ? エマの奴、今の話に食い付いて来ねぇな? 珍しい」

「村長の話で満足したんだろ……あー、うめぇー」

「へへっそうだな、そんなもんか」


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