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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
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アルマ村2日目⑦

 地下貯蔵庫は寒気を感じる程に冷えていた。

 

 壁と床は大きく切り出した石を並べ、積み重ねて作られている。

 階段を下りてすぐの細い通路を警戒して歩き、角を曲がると広い部屋に出た。

 

 奥の壁際に大樽が十個並んでいる。樽の蓋には“ワイン”と“感謝祭用”と、それぞれ文字の焼き印が押されていて、しっかりと封がされているにも関わらず、近づくと良い香りがした。ワインとハーブと香辛料の混ざった香りだ。例の鶏のハーブ漬け料理の仕込みだろう。

 

 カイは樽の一つ一つをランプで照らし、さらに物陰を調べた。片手には油断無くナイフが握られている。

 何も見つからない。

 目を閉じて耳を澄ましてみる。

 微かにネズミの気配を感じるが、それ以外には何も無い。

 

 試しに端の樽の蓋をナイフで抉じ開けてみた。中身はなみなみと満たされた赤ワインだ。何かが浮かんでいる訳でも無い。

(予想が外れたか)

 

 地下に何らかの生き物が閉じ込められており、それが物音をたてて夜な夜な老人を苦しめていたのでは、と考えた。さらに肉食の邪悪な魔物であれば、鶏が襲われた事の説明もつく。

 

 村に訪れた異邦人が隠し持っていた魔物が解き放たれ、鶏等に被害を負わせた。

 堅牢な地下室のある家が選ばれ、村総出でその地下室に封じ込めた。

 だが床下から響く物音に毎夜苦しめられた老人は耐えられずにダンスを踊る……。そこまで考えてから、カイは頭を振った。

(だめだ。違う)

 この仮説だとコニーが発狂した理由がはっきりしない。老人の様子を見ているだけで血文字を残す事にはならないだろう。魔物を見てしまった、もしくは襲われた? 

 

 いや、寧ろトビーか。トビーの異変が鶏被害に絡んでいる事は十分考えられる。

 魔物に襲われるか邪悪な魔術をかけられ変異した愛犬を見れば、娘ならば十分気が触れる。

 あれこれと考えを巡らせていたカイは、ふとある事を思い出した。

 

 如何なる場合でも、村の窮地に森番が黙ってはいない筈だ。

 大都市ギルドに籍を置いていた元冒険者で、カラックにおいても頼れる存在と知れた、村の為に尽くすケビン・ローランドが。


 ……しかしローランドは何故、アルマ村の狼騒ぎについて何も言わなかったのだろうか。日記には森が平和だと言う事しか書かれていなかった。

 村長が『狼が出た!』と騒ぎ始め、村を杭で囲んだ時に異議を唱えるべきだ。

 もし狼の襲撃が本当にあったのなら、カラック村へ被害が及ばぬ様に積極的に働きかけている筈。

 いくら村長のやる事に口出ししない主義の人物だとしても、一連を通してどこか存在感が無さ過ぎる。もう一度酒場の店主に話を聞いてみるべきか。

 

 何をするにしろ、これ以上ここにいても時間の無駄のようだ。

 カイは諦めて貯蔵庫を出る事にした。ふと足下に目をやる。出入り口付近に植物の束が置かれていた。乾涸びてはいるが、形状から識別は可能だ。

 

 ニンニク、ローズマリー、フェンネル。樽のハーブ漬けの材料だ。口に入れる物を床に直接置くのはあまり好ましくないが、この村の人々は気にしない性格だったのだろうか。そう考えながらつい癖で植物の束をじっと見つめた。

(ん?)

 名を知らない植物が二つある。


 一つ目はギザギザの葉と茎にトゲが付いている物。二つ目はベルの形をした花が穂の状態になっている物だ。

 何かで見た記憶がある。思い出せない。カイはその植物からそれぞれ、葉と花をちぎる事にした。

「!」

 葉をちぎる時に指にトゲが刺さってしまった。しかし傷は小さい。

 カイは特に気にせず、ちぎり取った葉と花を綴り紙に挟むと、出口に向かう為細い通路に戻って行った。



 仕切り直しの為、一旦食事をとる事にした。老人の家では落ち着かないので外に出る。村を見渡した後、やはり井戸のある中央広場に腰をおろした。

 鞄から食料を出して少しずつ齧り咀嚼する。カラック村の雑貨屋で売っている携帯用の焼き締めたパンにはナッツが入っており、少量でも腹持ちが良い。


 パンを食べ終えて皮袋の水を飲もうとした時、指先に強烈な痛痒さを感じた。

 見ると赤く腫れている。先程植物のトゲが刺さった指だ。

(痛みと痒みを伴う赤斑……)

 カイは急に立ち上がり、井戸周辺の家々を見回した。このトゲが何の植物の物なのか思い当たった。だが確信が持てない。医者の家を探さねば。古参の住人は恐らく皆、井戸の近くに住んでいる筈だ。


 カイはコッカーズ家から見て井戸の向こう側、村の入り口から見て中央道の左側に建ち並ぶ家を見て回った。コッカーズ家と同じように鶏飼育場のある家はブリック家。その隣に、探していたサイモン医師の家があった。

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