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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
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アルマ村2日目⑤

 コニーの部屋もアニーと同じ様にリボンの飾り付けをしていた。

 両方の部屋に置いてあった衣服の大きさから、二人はほぼ同じ年齢と背格好の様だ。名前の響きと部屋の仕様を見ても、この二人を双子だと決めつけてしまって良いと思う。

 そう考えながら捜索していたら、カイの決めつけを決定付ける物が見つかった。

 コニーは詩を書いた紙を紐で纏め、やはりベッドの中に隠していたのだ。


『同じ顔して同じ声 だけど気持ちが正反対 あなたの好きが私のきらい だけど仲良しおもしろい アニーとコニーはおもしろい』

 同じ顔と声。これは間違いなく双子だ。しかしどうやらアニーが愛するものを、逆にコニーは嫌っていたようだ。カイは次を捲る。


『尊敬すべきサイモン先生 子供達に本を配りこう言った 字を書きなさい読みなさい そうすりゃもっと良い人生』

 字の教習本はサイモン医師が配った物らしい。職業にこだわる事無く、子供達の教養に気を使う医者。サイモン医師は好感の持てる人物の様だ。

 そして次のページ。


『かしこいトビーを見てごらん むだ吠え一つもありません 村の誰にも行儀良く 夜はしっかり鶏の番 犬の騎士とは彼の事』

 トビーはコッカーズ家で飼われていた犬だったようだ。犬小屋が見当たらなかったが、鶏の番をしていたという事は作業小屋にでも普段はいたのだろうか。

 騎士とまで表現する程にコニーはトビーを大切にしていたのだろう。

 微かに込み上げるものを押さえて次を見る。

 しかしこの後のページはどれも森の自然について書かれた詩ばかりで、村の出来事が解る物は無かった。

 これ以上部屋を捜索しても何も無さそうだ。

 カイは部屋を出ようと振り返った。

 そのままの姿勢で凍り付く。

 部屋に入る時に後ろ手で閉じた、内開きの扉。

 その時には気付かなかった物がいきなり目に飛び込んで来る。

 扉一面に黒ずんだ文字で詩が書かれていた。



森でせっせと薪作り 小枝は(かま)で焼きましょう 

出て来た灰を土に混ぜ 強い畑を作りましょう 

村のみんなは大騒ぎ ダニエルこっそりかくれんぼ

水やり虫取りさあ大変 感謝祭までもう少し

エルキンスさんごきげんよう お耳の調子はいかがです?

何から何まで問題無し 夜は陽気に踊ってる

樽の中身は大丈夫? とっても上手に漬かってます 

でも かじられないよう気を付けて!

ねずみが見ていてさあ大変 感謝祭まであと少し



「……全部、血で書いたのか……?」

 カイは思わず声に出して呟いた。

 扉の文字は、まるで高級な筆記用具で書いた様に美しい均一の線で、一つの文字も、一行の列も乱れる事無く詩を綴っている。そして黒ずんだそれは、どこからどう見ても血以外には考えられない。

 丹念に、丁寧に、落ち着いた心で書いたのならば。

 取り乱した文字よりも、遥かに狂気を感じさせる。

 カイは努めて冷静に、先程見たコニーの詩集と扉の詩の文字を見比べた。文字に出ている癖が同じだ。扉の詩はコニーが書いた物で間違いない。

(コニー・コッカーズ。一体何を見た? この村で一体何が起きた?)

 カイは扉の詩から気になる言葉を拾って記録した。


こういった村では大抵森の中に設置されている。冬に備えて炭を作る為の共用設備で、台所にある物より大きな物だ。……旅人が焼かれたのは恐らくここだろう。


ダニエルこっそり……

村人が大騒ぎしている横でダニエルが一人姿を隠した。ピーターの書いた人物像の通りに想像すれば、村総出で忙しい時にさぼって何処かへ消えた、となる。

だが村長屋敷で見つかったものを考えると、額面通りに捉える事は出来ない。


エルキンスさん

どう言った人物か解らないが、気になるので記録しておく。詩に書かれる程ならば極親しい間柄か? 体調を気にすると言う事は、老人かもしれない。


 カイは筆記用具を鞄に仕舞うと、普段通りの無表情でコニーの部屋を後にした。


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