アルマ村2日目④
二階には部屋が三つ。一つは少年の衣服や玩具が置いてある事から、明らかに小さい男の子が使っていた部屋だと判った。他の二つは娘の部屋だ。
アニー・コッカーズとコニー・コッカーズの部屋は隣同士で、部屋の内部は合わせ鏡のような有様だった。窓の位置、家具の配置、物の置き場所。全てが隣と壁を境目に反転している。置かれている物はほぼ全てが同じだった。
カイは軽い目眩を覚えながら、この奇妙な二つの部屋に何か書き残された物はないか、調べる事にした。
まずは向かって左側の部屋に入る。
一言で言うと年頃の娘の部屋。質素ながらも、精一杯飾り立てようとしている。
窓にはカーテン、丸いテーブルにはテーブル掛け、椅子にはクッションがあり、全てにリボンが縫い付けられていた。椅子の足下には裁縫道具の籠が置いてある。
かつてヘンリー・カーチスが真剣な顔でこう言った。
『何が何でも飾りたがる女は要注意だ。宝石、花。でなけりゃリボン。兎に角リボン。俺たちのような金の無い男にとっちゃ、魔物よりも怖い連中なんだよ』
(自分で作って飾る分には悪い事ではないと思うが……)
カイは女の執念よりも娘の一途な心を感じ、半ば感心しながら装飾された室内を見渡した。
まめで一途で愛情深い娘。この家に降り掛かった災難に、何を思っただろうか。
そして村長の家で起こった事に何か気付いていないか。
最も両親のように書き記す事に興味が無ければそれまでだ。
カイは祈る様な気持ちで部屋を捜索した。
丸テーブルには何も置かれていない。本棚の類いも無かった。ただベッドの下から読み書きの教習本が見つかった。ピーターといい、この村の住人は書物をベッドの下にしまうのが普通なのだろうか。
本を開く。ページの余白に何か書かれていないかと丹念に調べたが何も無い。
教習本の下に重ねてあった木の板——恐らく字を練習する為の黒板代わり——にも何も残されていない。
(だめか)
溜め息をついてそれらを元の場所に戻そうとした時、カイは体勢を崩してベッドに片手をついた。
(?)
何かある。
薄いシーツと上掛けの下に、カサリと音を立てる物がある。それらを纏めて捲ると小さな紙の束が出て来た。
『愛するダニエルへ あいたい』『ダニエル すてきなひと』『あなたのアニー』
どうやら手紙の様だ。どれも短い文章で愛の気持ちが綴られている。
この部屋の主はアニー・コッカーズで間違いない。だとすれば、ダニエルを通じて村長家で起こった事を見聞きしていないだろうか。
カイは期待を込め、手紙を一枚づつ調べていく。しかし文面はどれも皆、同じ様な内容ばかりで、書きかけで止めている物もあった。どうやらこれは手紙の練習をした物らしい。もっと他に隠している物はないか、とベッド周辺を調べたが、何も見つからない。アニー・コッカーズは意中の男しか見えていなかったらしい。
カイは諦めてその隣、コニー・コッカーズの部屋へと向かった。