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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
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アルマ村2日目③

評価とブックマークを付けて頂きありがとうございます! 目を通して頂いてるというだけで励みになります!

 調べれば調べる程、謎が出て来る一方で未だに何も解らない。

 太陽は中天に差し掛かっていたが、食欲が湧かず、水を口に含むばかりだ。

 カイは中央広場の井戸の淵に腰掛けただひたすら村を眺めていた。

 

 村長の薪小屋に隠されていた死体。真っ黒に焼かれ骨と化していたそれは、森番の日記に書かれていた旅人に間違いない。日記によると旅人は村長の屋敷に、新緑の月の二十六日から二十九日まで、少なくとも四日間滞在している。その後何らかの理由で命を奪われ、隠蔽された。そしてその後に起きた狼騒ぎ……。

 

 仮に、村に起きた異変の発端が旅人殺しだとすると、何故殺されたのか理由が解れば、その後の出来事の流れを追って行けるかもしれない。

 だがそれを指し示す物は村長によって消された可能性が高い。

 行き止まりだ。

 

 次はどうするべきか。カイは村を見渡す。

 先程から気になっていた、井戸のすぐ横にある家。丸太を組んだ広い柵と大きな作業小屋がどこよりも立派なその家は恐らく、酒場で聞いたあの家だろう。

 鶏が被害にあった住人、コッカーズ家。

 狼が原因ではないとカイは確信している。では、鶏は一体何に喰われたのか。

 カイは水入り皮袋を仕舞い、立ち上がった。



コッカーズ家

 外から丸見えの鶏飼育場は、手入れが行き届いていたのが良くわかった。

 今でこそ飛んで来た種で生えた雑草が伸び放題だが、こまめに草取りや掃除をしていた様子が地面の状態から見て取れる。小屋も餌箱も清潔にされていた様だ。

 

 そして飼育場の隣には単純な形でしっかりした作りの作業小屋が建っていた。

 作業小屋には入り口が二つある。片方は卵を集める時に飼育場に入る為のもの。もう片方は外に出る為に道に面しているもの。道に面している方は両開きの大きな扉で、道の脇には荷車が置いてあった。両開きの扉に鍵はついていない。

 

 作業小屋に入ると中は少しだけひんやりとしていた。何故か暗くないので上を見上げると、屋根の一部にガラスが嵌められ、そこから光が入る様になっている。

 飼育場に入る扉の近くには蔓で編んだ大きな籠が三つ置いてある。

 

 中央に大きな作業台があり、何度も洗って毛羽立った様な布巾がその角に畳んであった。作業台の横には幾つもの木箱が重ねて置かれており、中には柔らかそうな藁が厚く敷き詰められている。

 蔓製の籠で卵を集めた後、作業台で土等の汚れを落として木箱の中に並べ、荷車に積んでカラック村へと運んでいたのだろう。この家独自のやり方なのかは見当もつかないが、丁寧で真心のこもった仕事ではある。さぞ評判だったに違いない。


 作業小屋を出て家の玄関の前に立つ。表札にはブライアン・コッカーズ、シェリー、アニー、コニー、ディビットの名。

(アニー?)

『今ごろアニーと森の中』

 ピーターの殴り書きにあった名前だ。他の家に同じ名の人物がいないならば、ダニエルは家の用事をさぼってはこの娘と森で会っていたと言う事になる。

 

 家の鍵は開いていた。

 室内に入ると微かに爽やかな香りがした。入り口付近に小さな籠が置いてある。 籠の中には何種類かのハーブが乾いた状態で盛られていた。爽やかな香りはここからしたようだ。

 

 書物で読んだ事がある。古来よりハーブは生薬や肉の臭み消しの他、魔除けの効力もあると言う。(まじな)い師や魔法使い等とはあまり縁の無い農民が、家の入り口に置くのは別段珍しい事ではない。カイの村にいた産婆もほとんど魔女の様な存在だったが、森の魔物除けには呪文ではなくハーブを使っていた。

 カイはハーブの香りを胸一杯吸い込み、家主ブライアンの部屋を探す事にした。


 ブライアン・コッカーズの部屋と呼べる物は、一階にある妻との寝室だけだった。書斎等は見あたらず、唯一食卓に、他の物と比べると格段に座り心地の良さそうな大きな椅子が置いてあった。


 敷かれていたクッションには“大好きなパパへ アニー&コニー”という刺繍がされている。

 一日の半分を鶏の世話と卵の出荷に費やし、日が沈んでから眠りにつくまでの時間はこの椅子に座って、愛する家族の様子を眺める。ブライアンはそれだけで十分に幸せを感じていたのだろう。椅子の背もたれと手摺は、何年もの間ゆったりと身を預けたその証に体の脂が染み込み、艶と丸みを帯びていた。


 その幸せを奪った何かを見てはいないか?

 カイは日記の類いを探したが見つからなかった。

 妻のシェリーも寝室のテーブルに帳簿を置いているだけで、他には何も書き付けてはいない様だ。

 帳簿の中身も卵を売った数の記録だけだった。肝心の鶏が喰われた日付けのページにも、何も書かれていない。この夫婦は字の読み書きにはあまり興味が無かったらしい。

 カイは二階へ上がった。

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