表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

幕間 牛頭男の実力行使

 私達耳長族(エルフ)が何故他種族を圧倒する寿命と魔力、そして知性を持つのか、他種族が理解する事は中々難しい。なまじ人間種(ヒューマン)に似た外見をしているだけに、どこからその圧倒的な差が生まれるのか、理解できないのだ。過去に人間がその力の源を探して自らに取り込もうとエルフを解剖したらしいが、内臓に特異なものを見つけることが出来ず、最終的にその人間はエルフの死体を喰らったが目的を達するに叶わず、私達の報復に遭って死んだと言う。


 私たちエルフ自身は何故その差が生まれるのか、特殊な訓練などなに一つ必要なく明確に理解することができる。


 エルフは、地水火風の基本四元素および光闇の二属性の精霊と精神で会話することができる。私達エルフには、精霊は陽の光や風、木々のように常に周囲にある至極自然な存在であり、これらとの遊びの中から基本的な魔法の使い方を自然と身につけて行くのだ。


 人間種(ヒューマン)がエルフを解剖してどこの器官がその魔力の源か調べてもわからないのは物質が魔力と関連しているという思い込みからに他ならない。魔法は精霊と自らと幽世の魔力を練り合わせて行使するものだ。物質と魔力は根源が違うものだから、物質である肉体を解剖しても魔力は出てこない。魔力は、幽世に満ちている根源的な力だ。それを練るのが上手いか下手かという差が、個体差としてあるだけだ。だから同じ耳長族でも、魔力の強い者と弱いものが存在する。


 幽世は人間たちの言う「あの世」ではない。そもそも私たちからすると、幽世もこの現世も同時に存在するものだ。分けて考えること自体に違和感を感じる。「幽世」という言葉は魔力を持たない人間種(ヒューマン)等には幽世側のものは一切認識ができないようなので、それを説明するために生まれたものだ。


 聖教国には聖教魔法を使う人間がいる。彼らの魔法は私たちが精霊と契約して行使するものとは全く異なる。彼ら人間は幽世の力すら使用しない。


 彼らは自身が『神』と呼ぶ『神族』と契約し、物理的な代償を支払う事で対象となる物質に強制的な変化を起こすことを『聖教魔法』と呼んでいる。だから普通の人間が聖教魔法を行使すると、ほとんどの場合身体の重要な器官を代償として失って死亡する。そのような代償行為を受けさせることを前提として飼殺しにしている者が『神官』であり、複数の神官の代償によって創り上げられた兵器が『勇者』だ。


 聖教魔法を人間が使っているのを見るにつけ、あんな術を使うことについて戦慄を覚える。あれは魔法ではない。自殺行為だ。彼らの『神』も我々の知る神族や魔族とは無関係だ。この世界とは全く異なる理の次元から無理矢理召喚し、行使する超常の力だ。


 聖教魔法が私達の用いる魔法への憧憬から生まれたのだろうことは想像できる。「いま足元の火の精霊が怒っている」「肩に乗った風の精霊の囁きによれば」等と言っても、それらの自然の一部を為す彼らを、人間は認識することすらできずに絵本の中のお伽話のように感じるようだ。それはいまそこにあるもの(・・・・・・・・・)であったとしても、知覚できないものは彼らにとって無いのと同じなのだ。


 もちろん、幽世を認識できない者は人間種だけではない。死ぬと魔石を残す種族を魔物と言うが、魔物であれば魔力を行使できるかと言うとそうではない。私達エルフは死んでも魔石など残さないし、魔物であっても魔力を行使できない種族は総じて幽世を認識できない。そう、今、50歩ほどの距離を開けながら追ってきている牛頭族(ミノタウロス)も、その一つだ。


 王都の市街地からも離れた荒れ地と倉庫が交互に立ち並ぶ人気のない道。先ほどまで私を愛してくれた()は、ベッドで寝息を立てているだろう。


「おい。お前。止まれ。」


 これまで物陰に隠れるように私をつけてきていたこいつは、周囲の寂しさを確認してから姿を現した。


 私にこの牛頭男(サカったバカ)の存在を知らせてくれたのは水の精霊だ。だから彼が寝たらすぐに外に出ようと思ってソファで彼が寝るのを待とうとしたが、望外にもまた彼は私を愛してくれた。今でもその悦びと幸福感は体中に満ちている。


「お前がアイツの情婦(イロ)だってことはわかってんだ。おとなしくしてりゃ可愛がってやるよ。尤も、俺に可愛がられておとなしくできるかどうかは保証しないがな」


「・・・・・・・・・・・・・・」


 言葉などない。下等なケダモノに相応しいセリフを垂れ流すこの人か牛の出来損ないは、明らかに劣情を迸しらせている。異常な発汗と発熱している下腹部。その劣情は雌としての私に向けられているものだ。


「いろんなモンが溜まってるから、諸々まとめて解消させてもらうぜ?」


 見た目の膂力で何とかなると思ってるあたりが、低脳すぎて笑える。なぜ私が、こんな夜更けに独りでこんなところまでわざわざ出てきているのか考える力もないようだ。


「あのひとも苦労なさってるのね。」


 こんなバカが部下だなんて。


「おめーは、エルフの中でもとびきりそそるな」


 溜息しか出ない。この牛頭男(クズ)は本当に私を犯せると思っているようだ。


「高位種族が何故、お前たちを見下していたか、知らないっていうのも酷ね」


 魔石にしてしまってもかまわないが、王国では無闇に殺生をすると私たちが罪に問われることがある。これが衆人環境であれば私がこのクズを殺したとしても罪に問われないが、人気のないここでは私を弁護するものはいない。尤も、このクズを(・・・・・)弁護するものも(・・・・・・・)いない(・・・)のだが。


「やっぱり、これのテストをすることにしましょう」


 私が彼の為に作った術具『炎の剣』。彼は戦う力には長けていないようだったので、私が火の精霊と契約して彼の為に誂えたエルフの高位術具。彼の為ならばこれを作ったところで、長老が否を言うはずが無い。


 魔力を練って指輪の核石へ流し込む。核石に宿った炎の精霊は私の魔力に歓喜し、明かりを灯す。温度はちょっと高め程度でいいから、輝色は白にしておきましょう。


「うおっ!?」


 牛頭族(クズ)が突然の発光に目を覆う。予想通りの色と輝度。精霊は上手く魔力を取りこめているようだ。


 さて刀身を出してみましょう。私と牛頭族の距離の半分程度の長さの刀身をイメージする。即座に精霊が魔力を吸い、指輪から牛頭族へ向けて白色の輝く棒状の線が延びる。これが炎の精霊が紡ぎだす炎の刀身。刀身と言っても物理的な剣を受けることはできないが、炎の剣は大抵の金属剣を灼き切ってしまう。


 刀身はイメージ通り。刀身の出現時間にも遅れもないわね。いい感じ。


 動きはどうだろう。刀身をひと回し。


 瞬間的に炎の刀身が横倒しにした円錐を描く。地面を刀身が抉り、ボッと地面が爆ぜる。これもイメージ通りの動き。問題なし。


 しかしもっと細かくて精密な動きもできるだろうか。うん、そうだ、あの角を斬り落とそう。


 牛頭族(ミノタウロス)の頭に生えた牛の角。ミノタウロスの角はそれなりの強度があり、そこらの物理剣なら受け止めることができる。これを斬り落としてみよう。


 大事なのはイメージ。そこのバカな牛の角の一寸上まで刀身を伸ばし、斜めに掌二つ分くらい刀身を下げて引っ込める・・・寸分のズレもなくイメージ通りに刀身は動いて元の長さに戻る。


 ぼとり、と牛の角が落ち、その肩にあたって地面に転がった。


 きっちり斬れている。出力も問題なし。


「なんだ?」


 やはり牛頭。まだ自分の置かれた状況が分かっていない。


 刀身を引っ込めると、光は核石の輝きだけになる。牛頭男も目を細めながら辺りを見回すようになった。漸くこのバカの目も効くようになってきたようね。


「えっ、角?!俺の角?!」


 地面に転がった角を見て、自分の頭部をまさぐり始める。どうやら牛頭族の角は斬り落としても痛みを感じないようだ。それはちょっとまずい。このバカには一通り恐怖心と挫折感を植え付けておかないといけない。あとで調子に乗られて彼に無駄な面倒をかけるわけにはいかない。そうしないためにわざわざ私はここまで来たのだから。


「お前がやったのか?!この俺様の角を!?」


 ほら、バカだから怒りと憎悪が生まれた。この一瞬の間に身体で一番強度のある部分を斬り落としたのだから、彼我の戦力差がありすぎることぐらい解るべきなのに。


「嬲ってやるァ!」


 怒りと性欲に脳を沸騰させた牛頭男の蹄が大地を蹴った。


 痛くないから怖くないのだ。バカだから。ならば痛みを与えるしかない。


「さて、行儀の悪い牛には少しばかり躾をしておきましょうか」


 私に対してこのような行為に及ぶのだから、どうせ似たような余罪があるのだろう。折角だからご自慢のモノを斬り落としておきましょう。斬り落とした時は結構痛いかもしれないが、この牛頭男に泣かされた雌も他に居るだろうから、自業自得よ。


 再び刀身が指輪から生まれ、牛頭男の下腹部を一閃する。


 再びぼとりと、怒張した陰部が土にまみれて転がった。


「おっ・・・・」


 全力疾走を始めていた牛頭男の身体は、急に力が抜けて動きが緩慢になり、数歩歩いて地面に両膝をついて動きを停める。そして顔が次第に歪んでいく。痛みが伝わっているようだ。


「~~~~~~~!!」


 叫び、悶えながら地面を転がっている。その姿は牛にお似合いではあるわ。


 『炎の剣』の出来は上々のようだ。イメージ通りに動いて出力も反応速度も問題ない。これなら魔力源の魔石を用意すれば、彼の護身用として十分に力を発揮できるだろう。


「い、痛ぁい!た、たすけてくれ!!」


 数秒前に嬲って犯すと宣言した相手が救けると思っているのだろうか。炎の剣で身体を切断されると、高熱で切断面が焼けるため、出血はほとんどしない。しかしこの牛頭男は切断面を手で掻きむしり、のたうち回って勝手に出血を増やしている。どこまでも頭が悪いのね。


「救ける?そんなことがあると思って?」


 何のために汚い一物を斬り落としたと思っているのか。痛みを与えたのは私と彼に対する心胆からの恐怖を植え付けるためなのに。牛頭男(こいつ)の救いようが無い脳を治療するためではない。


 王国ではエルフも含め知力も魔力も高い上位種族が、建国後もこの者たちのような低俗な連中と共存している。その理由ぐらい考えておくべきだが、低脳な彼らにそんなことを求めるのも無理なのかしら。ならば低脳にもわかるように教えてやらねば。全く私の趣味ではないが、彼の手間を減らすためだから仕方が無い。


 ムタリカ商会(ジィユさん)の知恵を使おう。彼らは効率的に羊皮紙を採取するために、牛や熊や鹿等の比較的大きな身体の大きな動物を飼育し、死なないように(・・・・・・・)皮を剥ぎ、直後に最低限の回復魔法をかけて皮だけ(・・・)を採取する手法を確立している。この手法にはいくつかの利点がある。一つは、動物を潰さずに一頭から何度でも原料の皮を採集することができた上に、最低限の回復魔法なら毛が生えないので工程が短縮され、羊皮紙の大量生産が可能になったことだ。


 最小限となるよう注意して魔力を一滴だけ絞り出すように回復魔法を牛頭男にかけてやる。


 叫びながら泥まみれでのたうち回っていた牛頭男(バカ)は、下腹部の痛みが薄らいだようだ。


「おっ・・・・・俺の×××・・・」


 牛頭男はハアハアと薄汚く喘ぎながら泥まみれの一物を拾った。


「な、なぁ、これつけ直してくれよ。魔法の得意なエルフならできるんだろう?」


 漏れた精液と泥に塗れた性器を私に差し出してきた。底抜けの低脳さね。


「俺と組まないか。俺とおまえなら絶対に無敵の組み合わせだ。夜も昼もいい目見させてやる。絶対損はさせないぜ?」


 やはりまだまだ躾が必要なようね。


 こんどは炎の剣に最大出力を命じる。糸よりも細くなるように太さを絞った青白い刀身が、一瞬のうちにその薄汚い性器に無秩序なな軌道を描く。転瞬、バン、と牛頭男の性器がバラバラに爆発した。


「うっ・・ぇ・・・・?」


 自分の性器が爆ぜた挽肉を顔に貼り付け、呆けている。なぜそうなるのか理解できないようだ。そんなにいい条件を出したつもりだったのだろうか。


 ムタリカ商会の皮剥ぎ作業で生まれたもう一つの利点は、どんなに凶暴な動物でも数回皮を剥がれると抵抗する意欲をなくし、皮を剥がれる時に痛みに叫ぶだけで暴れなくなることだ。


 そうすることで種族としては底辺に近い魔物のゴブリンでも大型動物の皮剥ぎの作業に携われるようになった。


 一般的なゴブリンの寿命は短いものの、繁殖能力が高く頭数だけは豊富で、高い知性は望めないものの単純労働なら教え込むことができる。いまでは世界樹の森の南にあるゴブリンの里は、羊皮紙の一大生産地になっている。突然変異種(ミュータント)でありながら、本来魔物である自分の種族(ゴブリン)を自らの保有する家畜として王国に登録し、里に住む同族の安定を図ったうえで里を豊かにするための産業を繋いだジィユさんは、偉大な方だったのだろう。


 さて、この牛頭男(バカ)は、何回躾をしてやれば大人しくなるかしら。


 私は右手にカマイタチ、左手に回復の魔法を練った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ