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村人Bの日常   作者: 須野 ユキ
4/5

秋 〜崩壊の日常〜(後編)

今回はけっこう重要な回です。


投稿間隔も3週間→1週間→4日とそこだけは成長が著しいこの頃です(°_°)


てなわけでどうぞ。


しきたりが生活の中心になりつつある、相変わらずの16才今日この頃だが最近はいささか充実・・・というかそれなりにうまくいっているような気がしていた。

毎日はどの1日を切り取ってピックアップして見てもどれも同じような繰り返しの日々だったが、明確に何かをしていた日々だったので退屈だという気持ちにはまるでならなかった。

駐在さんがいなくなったあの日からもう1か月が経とうとしていた。

そうだ、言い忘れていた。同じような日々といいつつもこの1か月でしきたりがなんと3回もあったのだ。ほんといい迷惑である。

魔王にやられるにしてももう少し粘れなかったか、そういう不満はその都度溜まっていく。

もう魔王を倒してこのしきたりが終わるなんていうそんな夢物語は想像の範囲外だった。僕の最近の毎日が充実らしきものに感じるのは淡い期待を捨てて現状を受け入れることをしたのが一番の理由かもしれない。


「おーい、まだ準備してるのかよー、お前置いてこれから一人で行くことにするぞー。」

家の外で生まれたばっかの小鳥みたいにギャーギャーやかましく家の外で叫ぶのは鍛冶屋の息子だ。

「もうちょいで準備終わるから待っててー。」

彼に負けないくらいのボリュームで家の中から反撃する。ここまでの流れはいつもの一連の流れだ。

あ、椅子に座っている父がそんな僕たちのバカみたいな様子を迷惑そうに、顔の中心にしわを集めながらコーヒーを飲んでいるのもいつものことである。

ドタバタとしながら早口で「いってきます。」と言って家を出る。

「ごめんごめん。」

「来る時間いつも同じなのになんでいつも遅れんだよ・・・」

そうブツブツ不満を言いながらも表情は打って変わってニコニコしてるあたりこいつはいいやつだって思う。

「じゃあ、今日も行くか。」

それを合図として僕たちは村の北の方に向かってリズムよく歩き出す。僕の家と彼の家は村の南側にあるので目的地まで若干の距離はあるもののこの時間は楽しくて好きだ。

しきたりのツボの中にはなにかが入ってるらしいという話、10年前からどのくらい身長が伸びたかという話、それから村の外の魔物の話をしている辺りで目的地に着いた。

目の前にあるのは村長さんの家、この村では1番古そうな家で、外壁の一部は欠けていたり色が黒ずんでいたりしているが大きさもこの村では1番で古さよりはむしろその立派さの方が際立つ。

コンコン、といつものようにドアをノックしようとするとその前に勢いよくドアが開いて思わず二人して思いっきりのけぞってしまった。

「あ、お兄ちゃん達! 今日も来てくれたんだ。」

強烈なお出迎えをしてくれたのは駐在さんの娘だ。少し遅れて村長もひょっこり顔を出す。

村長を一言で言うなら活動的で男勝りなおばあちゃん、そんな感じだった。背筋は年齢相応に曲がっていたがその行動と言動の激しさは僕ら若者たちをもとうに凌ぐようなとりあえずすごい人だった。

「ドア開けたままだと寒いから入るんなら早く入っとくれ。」

「はーい、お邪魔しまーす。」

駐在さんの家は僕の家同様にしきたりのせいで元々母親がいなかった。だから今回の件によって駐在さんの娘は自然な形で一人になってしまい、それを見かねた村長が家の前でワンワン泣いていた娘さんの手を黙って引いて自分の家で預かることにしたのだ。

その様子を見ていた僕たちは少しでも駐在さんの娘に元気になってほしくて、こうしてほぼ毎日村長さんの家に出向きたわいもない話をしたり遊んだりしていた。

最初のころはうつむきがちで全然喋ってくれなかったが、毎日通い詰めたおかげなのか、今は時折笑顔も見せてくれて僕ら二人はそんな変化がたまらなく嬉しかった。その様子を村長は遠目で我が子を見るように優しく見守っててくれた。

村長の家はなんだか世界のどこよりもあったかい気がして、この場所だけはなにものにも邪魔されない平和をめいっぱい感じられる場所だった。

気が付くと三人で川の字になって目を瞑っていた。夢見心地で気持ちいいのも束の間、

「お前たち、いつまで寝てるんだ! もう外も暗くなってきたから寝るんだったら自分の家で寝てくれ!」

村長が口調は厳しいが同時に親しみを込めてそう言う。家じゅうには空腹を一気に加速させるような野菜や肉のいい匂いがいつの間にかじわーっと広がっていた。

僕らは隣ですやすやと赤ん坊みたいに寝ている駐在さんの娘を起こさないようにそおっと村長の家を出た。

家の中が心地よい暖かさだった分、帰り道は僕らの体を横切っていく北風が凍えるように寒かった。


何日かしたあくる日、珍しく鍛冶屋の息子が忙しいというのでその日は村長の家に行くのは中止になった。思いがけず暇になり家でダラダラしている。

ガタガタガタッーーー

郵便入れに何か届く音だ。家には僕も父もちょうどいたが、椅子に座ってる父に相変わらず動く気配はないので僕は外に取りに行くとツボが二つ家の前に置いてあった。

ツボを抱え込み、ふいに辺りを見渡すと、隣の隣の家の青年が自分の家の前でぼおーっと立っていた。なにをするでもなく、目に覇気がなくてまるでしきたりの時の勇者の顔みたいだった。

彼はあの一件以降、見かける時はずっとあんな感じだ。村の人は彼を軽蔑の目で見るようになり、はっきりとみんなして拒絶反応を示した。

彼自身さえもまさか本当にあんなことになるなんて・・・と以前までの勢いはまるっきりなくなり、何日も経たないうちに憔悴しきってそれがずっと続いていた。チャームポイントである年下いじめはすっかりそのなりを潜めていた。

そんな彼を見て僕は少しだけ可哀想だという気持ちになったが、同時に駐在さんの娘の顔を思い浮かべると、やはり許せないという憎悪のどす黒い感情が身体じゅうを侵していった。

身体じゅうが真っ黒になってしまう前に僕は青年からはもう目を離し、よいしょよいしょと見た目の割にずっしりとした重さのあるツボをなんとか家の中の所定位置まで運んだ。その間も父に動こうとする気配は感じられない。

少しくらい息子を手伝おうとは思わないのかよ、と口に出そうになったがそこはなんとか抑えた。

「なんで勇者はツボなんて割るんかなー。」

半分くらい独り言のつもりで言ったのだが、即答で父に久しぶりの「さあな。」を言われる残念な結果に終わる。

だがそこで黙ってしまうのはなんだか負けたような気がして

「父さん、足にケガでもしてるの?」

大した意味もなくそういえば足を引きずってたような、と思ってそう言った。

父の目の下が一瞬ピクッと震える。それから少し間を置いて「さあな。」と返ってきた。

それに違和感を覚えたことは確かだったが、あえて追及しようという気にはならなかった。直前に2回も流されているので余計そうだったのかもしれない。どちらかといえば駐在さんの娘だったり、嫌いな青年のことの方が今は頭の中の大部分を占めていた。


「なんだここ・・・、なんか変なとこだなー。」

見たことも来たこともない場所だ。

周りが真っ白でなんか全体的にフワフワしててまるでとても大きい雲の中にいるみたいだ。気を抜いたらどこかに落っこちてしまうような・・・うまく言えないけどなんかそんな感じだ。

これもしかして夢かな、少し周りを歩き回った後になんとなくそう思う。夢を自覚したのははじめてだった。せっかくの夢だし空でも飛んでみようかと思った矢先、目の前になにかが現れる。

肩までかかった艶がかった黒い髪に目元や口のあたりが僕によく似た少し小柄な女性、紛れもなく5才の頃にいなくなった母さんだった。母さんは何も言わずこちらをみながら優しく微笑んでいる。

「母さん・・・会いたかった。」

そう言って一歩づつ僕は近づいていく。たった数mの距離なのにすごい長い間歩いているみたいだった。

やっと目の前になり、震える手を母さんに差し伸べる。

けれどその手が届く前に母さんは音もなく消えてしまった。

「なんで・・・。」

止め処なく喪失感が襲い掛かる。ふと前を見ると母さんがいなくなった奥の方にはさらに4人の人がいた。

駐在さん、駐在さんの娘、鍛冶屋の息子、そして父さん。みんなさっきの母さんのようにこちらに微笑みかけてくる。僕は一人一人に近づいていくが触れようと手を伸ばすとみんな消えていってしまった。

「僕を置いていかないで・・・嫌だ、嫌だ、嫌だ。」

そして最後に父がいなくなってしまった瞬間、意識が遠のいていき気が付くと僕は部屋のベッドの中にいた。

涙が自然と流れていた。夢がなんだったのかは早くも曖昧になっていたが悲しい気持ちだけが身体の中にずっと残っていた。

まだ陽は当分昇ってくる気配もなく外は真っ暗だった。そういえばと、昨日ツボを家の中に持ってくるときに郵便入れの中を確認してなかったことを思い出し、じっとしていられる気分でもなかったので取りに行くことにした。父を起こさないようにと泥棒みたいに慎重に歩いた。

外に出るまで雨が降っているなんて僕は考えもしなかった。郵便入れの中にはしきたり関連のことが書いてある封筒が入っていた。封筒が濡れないようにと急いで家に入る。手紙が僕宛てなのか父宛てなのかは分からないが、気になったのでとりあえず開けてみた。

「(2、3歩左右にじたばたしながら)出かけたいんだが家の鍵が無くて外に出られないんだ。

※ツボが割れていなくて動きの障害になっている場合は無理して動かなくてもよい。 」

ツボとか書いてあるから多分父への手紙なのだろう。それは分かるのだがこれは変更のお知らせなのだろうか、手紙が意図することは全く読めなかった。

特に台詞の部分はともかく、※の後なんて何を言っているのだか特に理解できなかった。

とりあえず父さんはツボの近くに立っているってことかな、足りない頭でそんなことはなんとか予想できた。だがそのひとつの予想から思いもしていなかったことがどんどん派生していった。

ツボの近くにいたら割れたとき危ないんじゃーーー

父さんは足を引きずっているーーー

父さんが歩いているところを最近ほとんど見ないーーー

僕は急いで父さんが寝ている部屋に入った。起こさないように布団をめくって父さんの足を見てみる。

足は僕が思ってたのなんか比じゃないくらいひどい状況で目を背けたくなるほどだった。。

膝から下は足全体に古い傷と新しい傷が重なり合い、ところどころ赤い肉がはみ出していたり傷が膿んだりしていて痛々しいものだった。

今勇者が来たらとても歩けるような状態じゃないのはすぐに分かる。

一歩でも歩いたら足が取れてしまうんじゃないかっていうくらいにつぼによって削られた足はボロボロだった。

しばしなにも考えることが出来なくなってしまい、外で降っている雨の音が僕の中にひとしきり刺さった。

「心配するな。少しすればよくなる。」

父はいつの間にか起きていて、夢のときみたいな微笑みを浮かべながらそう言った。

さすがに父に納得することなんてできなかった。それになんで今まで隠してたのかと、僕はなんで今まで気づけなかったのかと憤りさえ感じていた。

「隠してたわけじゃなかったんだが、まぁ無駄に心配をかけても仕方ないと思ってな。」

僕の考えてることを見越してか父はそう言った。

正直、家族なんだから心配くらいさせて欲しかった。

その後、しばらく僕たちの間にはどうしようもなく気まずい空気が流れる。


そんな空気を切り裂いてくれたのは僕でもなく父でもなくそう、しきたりを告げるアナウンスだった。

来てはいけない時にきてしまったのだ。

「今の父さんにしきたりなんて無理だ!」

僕は半ば叫ぶようにしてそう必死に訴えたが、父は黙って首を横に振る。

「早く準備してこい、話し足りないことがあるならこれが終わった後に聞くから。」

終わった後なんて簡単に言う父のことを僕はもう信じることしかできなかった。

準備が程なくして終わって、自分の部屋を出ると父がもう足の怪我を隠すことなく、ゆっくりと辛そうに

歩いていた。僕は黙って肩を貸した。

父は体全体に汗をかいていて、辛さが手に取るように分かったけれどあえて僕は何も言わなかった。そのまま無言のまま外に出ようとする。

けれど、けれどやっぱり耐えきれなかった。

「必ず無事でいてね。」

それをいう僕の声はおそらく震えていたと思う。

「ああ、当たり前だ。お前こそ無事でな。」

父はこんなときも相変わらずの静かな口調だった。

外は僅かに明るくなってきたが、夜から降り続く雨はその激しさを増して、体に強く打ち付けてきた。BGMはすぐに鳴り始め、あっという間にもうしきたりの雰囲気になる。

僕は泣きそうになるのをなんとか歯を食いしばってこらえて勇者が来るのを待っていた。

そしてあいつはやってきた。こっちの事情なんておかまいなしに相変わらずの無表情でこっちに向かってくる。

僕の台詞が言い終わるとそのまま真っすぐ家に入っていく。心のどこかでスルーして家に行かずにどっか行ってくれと思ったがやはり無駄だった。

ならばせめてツボは割らないで、そう思ったが容赦なくパリンパリンとツボが割れていく。

やめろ、やめてくれ・・・

ガタガタガタンーーー

なにかが倒れる嫌な音が聞こえる。こんな時に、こんな近くにいるのに何もできない自分が本当に最低に思えた。

代われるものなら今すぐ代わりたかった。そんな僕の願いは自分の入っている円の見えない壁によってあっけなく妨げられた。

しばらくして勇者が家を出てくる。なぜか勇者は僕にもう一度話しかけてきた。

「今日はなんて幸せな日なんだ。この幸せを君に分けてあげたいよ。」

いつもは暗号みたいに何も考えずに言うのに、こういう時に限って台詞の意味が浮き彫りになって上手く言葉が出なかった。

勇者が行ってからBGMが止まるまで僕はもう気が気でなかった。父が無事だったらもうそれだけでなんでもよかった。最近は神様にも見切りをつけていたけれど、今だけはもう神様にでもなんでも祈っていた。


BGMが止まった。家のドアにすぐ手をかける。開けるのがものすごく怖かった。

ガチャーーー

いつもより家がとても広く感じる。父はそこにはもういなかった。

「父さん!父さん!いるんなら早く出て来てよ。隠れてなんて・・・」

部屋の中に悲しく声がこだまする。もういないことは十分ってほど分かっていたけどそう言うことでしか僕は僕を保てなかった。

ツボの破片に父の血痕が付いてるのを見て、僕は外に飛び出して宛てもなくむちゃくちゃに走っていた。

降りしきる雨とともに涙が地面に一粒また一粒と落ちていく。走り疲れて立ち止まったところはちょうど平屋のあたりだった。

声にならない声でひたすら叫んだ。怒りが、悲しみが、悔しさが叫んでも叫んでもどんどん溢れ出た。

こんな時は激しく打ち付ける雨が何もかも流してくれるようでこのままずっと浴び続けていたかった。

何時間も僕は飽きることなくうなだれていた。もう空は十分明るくなっている。

ふいに僕の右手を誰かが握る。あったかくてとても優しい手、駐在さんの娘だった。そして左手は村長が握ってくれる。どちらも雨で冷たくなった僕の体にはとても暖かかった。

二人はいつまでもなにも言わずに僕の手を強く強く握っていた。


当初の予定と変わったなんだってゴチャゴチャ言ってましたが次で終わる気がします。


次もよろしくお願いします。

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