たかしちゃんと吉良家(3)
次回の更新は1月6日金曜日22時頃更新です。
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「あら、みんないっぱい食べてるわね。バゲットならおかわりあるわよ? 食べる?」
「あ、お母さんおかえり……」
「食べます!!」
「ふふ、ここちゃんはいつも元気ねえ」
ここちゃんよく食べるなあ。私もスポーツできるようになったらここちゃんみたいに食べられるのかな。
うう、おなかいっぱいになってきちゃった。
「たかしちゃん無理しなくていいのよ? 食べすぎは体に良くないものね」
結構残しちゃった……。
初めてのビーフストロガノフ……。あと一口だけ……。
「……あむっ」
ふう、美味しいのに。もっと沢山食べたいのに……。
「うう、ご、ごめんなさい……。ごちそうさまでした……」
「お粗末様でした。気にしなくていいのよ。みんなお腹いっぱいになる量は違うんだもの」
「それにほら、ここが欲しそうな目で見てるよ」
あ、ほんとだ。ふふ、なんだかわんちゃんみたい。
……お手。ううん。なんでもないです。
「たかしちゃんくれるの? くれるの!?」
ふふ、待てしてるみたい。
「ダメなの? くれないの?」
「あ。えっと、えっと。食べていいよ?」
ここちゃんよし!
「え、いいの!? やったー! ありがとむぐむぐ」
「ちょっとここ! 話しながら食べないの!!」
「ふふふ」
ここちゃんったら。可愛いなあ。ダックスフンドみたい。
ふう、慣れてきたら帰るのがもったいなくなってきちゃった。
でももうこんな時間かあ。
「あ、そうだ。たかしちゃんね、お母さんと喋る時すっごくかしこまってるんだよ!」
「そうなの!? ボクはいつも通りかなあ。あ、でもママにボクはやめなさい!って怒られるからたまに私って使う時が……」
「ええ!? ここが私!?」
ええ!?
ここちゃんが私って。ちょっと聞いてみたいなあ。
「あ、違った。使おうと思ったんだけど、こそばゆかったから結局使わなかったんだった」
「なによ! 結局使ってないんじゃない、びっくりした」
「だってボクはボクだしさー。それにママいろいろ言って来るんだもん。もっと女の子らしくしなさいとか、おしとやかにしなさいとか。スカート履きなさいとか。それでスカート履いたら今度は足開いちゃダメって言うんだよ。家の中なのにだよ? 男って言ってもお父さんとお兄ちゃんしかいないのにさ」
「それはここのおかあさんの言う通りよ! だってあんた教室でも足開いてるでしょ!」
うん、ここちゃんいつも……見えちゃってる。
「教室くらいいいじゃんかー」
「結局どこでもじゃないの! 全く」
ここちゃんは恥ずかしくないのかなあ……。
私はお母さんに見られるのも恥ずかしいのに。
「きらきらが僕のママみたいなこと言うー! あ、たかしちゃんのママは? どんななの?」
うにゃ。
「えっと、えっと」
「たかしちゃんのお母さんの声ね! さっき電話からちょっと聞こえてきたんだけど、すっごいそっくりだったよ!」
うう、聞こえちゃってた。
「ええ!! じゃあ若いんだね!! 見てみたいなあ!!」
「ね!お母さん! そっくりだったでしょ?」
「そうね。羨ましい限りだわ。すっごいお若いんでしょ?」
わわわ、きらなちゃんのお母さんまで。
ううう、わ、若くない……と思うんだけど。
それより声そんなに似てるのかな?
うう。
「じゃあさ、じゃあさ! 身長ってどれくらいなの??」
「ううん、その前に年齢が知りたいわ!」
「あ、髪型は? やっぱりポニーテールなの?」
「若さの秘訣は? 何かいい化粧品とか使ってるのかしら」
「たかしちゃんと似てるの?」
うにゃあああ。ど、どうしよううう。
きらなちゃんが2人になっちゃってるよう。
うう。待って待って。
「あー! もうこんな時間!」
わっ、ここちゃん!
びっくりした。
「あら、本当ね。あんまり遅くなりすぎたらお家の人心配しちゃうだろうから、今日はここまでにしておきましょうか」
「はーい」
「はーい」
ふう。またここちゃんに助けられちゃった。
「ねえお母さん! 私たかしちゃん送っていこうと思うんだけどいい?」
「わー! いいなあ! ボクも行きたい!んだけど、そろそろ帰らないと怒られちゃうしなあ。いいなあ」
「家の中には入んないし、送っていくだけだし、抜け駆けしないから大丈夫よ!」
「そっか、じゃあ今度でいいや! ぜったい送っていくだけだからね!」
えええっと、話が勝手に……。
「きらなちゃん……?」
「待っててね、ちょっと準備してくるから」
「あうう」
きらなちゃん来ちゃうのか……。こ、心の準備が。
「2人とも」
「わ、はい」
「綺羅名と仲良くしてやってね。あの子、誰に似たのか昔から突っ走っちゃうとこがあるから……」
ふふ。
「はい! もちろんです!」
「ボクも!!」
「おまたせおまたせ! あれ? たかしちゃんまだ準備できてないの?」
「えっと、あれ? カバン……」
「あ!やっぱりさっきのカバンたかしちゃんのか! ちょっと待ってて、取ってくるね!」
わあ、そんなに走ったら転んじゃ……わないの。
「全くあの子は……」
「僕のカバンはここー」
よいしょっと。
「ご飯ごちそうさまでした。美味しかったです」
「ありがとう。2人とも、またいつでもいらっしゃいね」
「はい!」
「はい!」
えへへ。優しいお母さんでよかった。
「たかしちゃんカバン持ってきたよ! あ……!」
『すぽーん』
わっ!
「あ、わっ」
『べちん!』
ふにゃっ!
「わー!たかしちゃんの顔にー! ごめん! たかしちゃん大丈夫? すっぽぬけちゃった……」
「ううう、大丈夫……」
「もう綺羅名! 危ないでしょ!」
「ごめんなさい……。たかしちゃんごめんね?」
うにゃううう。ううう。
「痛かった? なでなで」
うう、ううう。
「うええええん」
「ああん! たかしちゃん泣いちゃった!!」
「あなたが投げるからでしょ!」
「投げたんじゃなくって手が滑ったんだよ!」
うええん。ううう。
「あああ、たかしちゃんごめんねええ。顔大丈夫? 痛い? 傷とかできてない??」
ううううう。
「たかしちゃんが顔見せてくれないー! どうしよう……たーかーしーちゃーん」
うにゃうにゃ。いててて。うう。びっくりしたあ。
「大丈夫? 大丈夫?」
う、うん。
「うわーよかったー! ぎゅううー! ごめんね?」
「うう。う……うん」
「顔見せて? 傷になってるかもしれないから」
うううう。ずびずび。
「たかしちゃんが顔見せてくれないー!!」
だってだって。お鼻が。うう。
「ほらほら、綺羅名ちょっと離れなさい。はい、たかしちゃん。お顔拭きなさい? よしよし」
「ううう。ありがとう……ございます……」
うう、こっそりこっそり。
ちいいん。ちいいいん。
いてて、うう。
「たかしちゃーん! ごめんねー!! ぎゅー」
ふにゃっ!
「顔は!? 顔は大丈夫!? 怪我してない!?」
あうう。あんまり見ちゃだめえ。
「あー!! よかった! 怪我して……あ!目が赤い!!」
ううん、大丈夫。目が赤いのは泣いてたから。
「よしよし、ごめんね?」
「うん、大丈夫そうね。もう! 綺羅名はもっと気をつけなさい!」
「う……。ごめんなさい……」
「たかしちゃんごめんね? 痛かったでしょう?」
「うう、大丈夫です……」
「こら! 痛かったでしょ! 強がっちゃダメ!」
うにゃ。
「はい」
「痛かった?」
「い、痛かったです」
「よしよし。でも大丈夫そうでよかったわ」
ふにゃあ。
「たかしちゃん避ける練習しないと! ボクなら避けれたよ! こう、シュッって!」
えええ、だって急に……。
「それかこうだよ! こうキャッチ!」
「たかしちゃんにできるわけないでしょ!!」
「えええ! できるって! ねえたかしちゃん!?」
「で、できないよう」
「ええええ!! じゃあ練習しないと!!」
練習って……。お顔にカバン投げるのかな……。
練習、できるのかな。こわいなあ。
「ああ! ボクそろそろ帰らないと!! きらきらママおじゃましました!」
「あ、本当ね。また来なさいね」
本当だ、私も帰らないと。
「はい!」
「たかしちゃん! 私たちも行こっか!!」
「うん」
「綺羅名、振り回しちゃダメよ?」
「はーい」
「本当に分かってるのかしら。全くこの子は」
「たかしちゃん。はい、カバン」
「ありがと」
「いえいえ」
「きらなちゃんのおかあさん。ありがとうございました」
「いえいえ。また来なさいね」
「はい!」
えへへ、よかった。
「さ、行こっか! たかしちゃんち!!」
「きらきら抜けがけはだめだからね!」
あうう、そうだった……。
きらなちゃん送ってくれるんだった……。