表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

半妖

まだ夏ということもあって、18時といっても外は明るい。妖や霊に会いそうな時間といっても、そんな雰囲気もない。


が。


雅な和服を着た女性が浜辺に立っていた。

明らかに人ではなく、禍々しい気を放ちながら。


「日照様、遠路はるばる、お越しいただきありがとうございます。」

そう言って浜辺に座し、深く礼をした。

「お主、体の半分を邪気に侵され、ようも正気を保っておれるな。」

般若姫の霊は、黒く禍々しい邪気に覆われていた。

「あは、半妖ですので。」

「半妖とな?」

「はい、母の玉津姫が、妖でしたので。」

そう言って、般若姫は、母親の事を語りだした。


辛亥の変にて、主を失った玉津姫は、命からがら都を逃げ出し、九州の山中で息絶えようとしていた。

既に人の姿を保つことも出来ず、半身は枯れかけの植物と化していた。

「許さん、許さんぞ、人間め。この身果てようとも。」

残る生命力を振り絞り、怨念を練り込んでいく。

意識を失う、その時まで、只管、人間への恨みを反芻した。

そんな玉津姫が、再び意識を取り戻したのは、山の中にある小汚い小屋の中だった。

「はっ・・・。」

起き上がり、当たりを見回す玉津姫。

彼女の目に写ったのは、炭で汚れた一人の男だった。

「なにやつ。」

「心配せんでええ、ここには、おらしかおらん。」

男は、口数が少なく、ただ一人炭焼きで生計を立てていた。

男の看病で、玉津姫は力を取り戻し、完全に人の姿が保てるまで回復した。

「わは、人ではない。怖くはないのか?」

「炭焼きは、植物と共にある。何が怖かろうか。」

「ふっ、おかしな奴じゃ。」

男の優しさに触れ、人への恨みも次第に薄れていった。

やがて二人は恋に落ち、夫婦となった。


「なるほどのう、玉藻の乱の生き残りが居ったのか。」

日照様が言った。

「はい、母は玉藻の配下だったと聞いております。」

「ふむ。」

辛亥の変は、今なお仮説と言われる内乱である。

歴史上の記録には残ってはいない。

しかし、術者の歴史には記録されていた。

玉藻の乱と。

「日照様がご降神されたと聞き、一矢いちのやの子に、頼みました。」

「ほう、市谷は一矢の末裔か。」

そう言って、日照様が、市谷を見ると市谷は礼をした。

一矢の一族は、術者の一族だが、玉藻の乱後に都を離れ名を変えた一族だった。

「わを滅ぼしたのは、一矢と西門にしのかどの者ですので。」

そう言って、般若姫は笑った。

「恨んではおらんのか?」

「彼らとて、命じられてやった事。それにもう大昔の事です。」

「確かにのう。」


「うちの一族は、元は東家に属するとは言っても大昔の事です。伝手も何もなく、それで神原さんにメールをした所存です。」

市谷が経緯を日照様に説明した。

「一矢と西門かあ。それは将人が断る訳はないのう。」

そう言って日照様は、将人を見た。

将人は苦笑いした。

「先生は、確か・・・。」

咲が呟いた。

「ああ、母方の姓が西門だよ。」

将人は、咲に答えた。

「それで、般若姫よ。我に何を望む?」

「邪気を浄化して頂きたく。」

「わかっておるのか?邪気を祓えば。」

「はい。承知しております。」

「そうか、覚悟は出来ておるのじゃの。」

「それにこれ以上、あれの影響を受けては、いくら半妖といえど正気は保てません。」

「わかった。将人、準備をせい。」

「はい。」

日照様に言われ、将人は般若姫の周りに札で陣をしいた。

「西門の子よ、あれが目覚めるのも、そう遠くない。」

「心得ております。」

般若姫に声を掛けられた将人は、そう答えた。

「咲、ついてまいれ。」

日照様に言われ、咲は舞を始める。

般若姫の周りにしかれた陣の外周を二人が舞う。

浄化の舞を。

浄化の舞は、失われた舞。

1000年以上、失われていた舞だが、日照様が降神され現代に蘇った舞の一つである。


般若姫の周りに纏っていた黒く禍々しい邪気が次第に薄れていく。

それと同時に般若姫の存在も薄くなっていった。

「ただの霊となってから、本当に楽しかった。子らが育ち親になり、そしてまた子が生まれ。」

般若姫は薄れていきながら、天を仰ぐ。

「日照様、ありがとうございます。」

般若姫は深く深く礼をした。

ゆっくりとゆっくりと存在が薄れていきながら、やがて消滅した。

最後に朗らかな笑みを浮かべながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ