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抗えぬ課題−2

 あれって言われても何を指しているのか分からない。


 あれが指すものを考えていると、突然柚美ちゃんは右手を前に突き出し、目を閉じ凛々しい表情を作る。


 カッと目を開き、


「波動弾!」


 気合の入った声がバス内に響き、その後、シーンとした静けさがバスの中に広がる。


 柚実ちゃんの掌からAPが放たれる気配は無い。


 僕と柚美ちゃんと運転手しかいない為、皆が口を閉ざしてしまったら、ただただ静かな空間になってしまった。


 ……それか。


「あー、AP波動弾のことね。柚美ちゃんに見せた事あったっけ?」


 僕は掌にAPを視認できる密度にまで収束させる。


「それですそれ! 模擬戦闘大会で最後に見せてくれたじゃないですか!」


 そうだった。能力で爆発する槍みたいな物を投げてくる一年生に向かって使ったな。


「試合の後、会場にいた人達みんな真似してましたよ」


「それは恥ずかしい」


 手からエネルギーを放つ技とか浪漫あるよね。僕も目を輝かせながら師匠に教わったからな。


「能力じゃないですよね? 先輩は無能力者ですから。どうなってるんですかそれ? 触ってみてもいいですか?」


 本当は僕は能力者だけれど、AP波動弾は無能力者でも使うことが出来る技だ。


 柚美ちゃんがエネルギーの塊に手を伸ばして来たので、慌ててAPを四散させる。


「これ純粋なAPだから、触ったら手吹き飛ぶよ」


 人に向けて放つ時はだいたい、純粋なAPの持つ拒絶し破壊する性質を能力で変異させている。


「そんな危ない技だったのですか……闘技場の障壁穴空いてましたもんね」


 顔を引きつらせながら手を引っ込めた。


 考えるような素振りを見せ、彼女は話を続ける。


「私にはずっと足りないものがあるんです。何だと思いますか?」


 分身転移という優れた能力を持ち、突出した戦闘技術をも持つ彼女に足りないものか。


 うーむ、さっぱりわからない。


「ユーモアとか?」


「火力が無いんです。耐久力のある強力な妖魔と対峙した時、APが切れない限り負ける事はありませんが、倒すのに時間がかかってしまうのですよ」


 耐久力のある強力な妖魔と対峙したら誰でも時間がかかるのではないだろうか。


 大型の妖魔には火力のある技が必要なのはわかる。フェンがいないと正確に妖魔の核を狙うのも難しいからね。


「それで波動弾か」


「はい! 先輩の使ったあの技を見て、停滞していた私の道に光明が差し込みました。どうか私に教えていただけないですかね」


 教える事自体は構わない。だが、問題がひとつある。


「教えてもいいけど、それにあたって心配事が一つあるんだ。なんだと思う?」


「先輩の心配事ですか…………先輩に友達がいない事とか?」


「暴発して君が命を落としても責任取れないってことさ」


 僕に友達がいないとか今関係ないだろ。どう考えても文脈的におかしいでしょ。


 それともユーモアの無い柚美ちゃんの反撃かな? 友達がいないのは君も一緒だよね?


「大袈裟な! 自分のAPなのですから、暴発しても平気に決まってるじゃ無いですか。さては先輩、本当は教えたく無いのですね!」


「…………」


 えっと、そういう感じか……困ったな。つまり彼女は、そういうレベルのAPの訓練を積んだことが無いということか。


 確かに自分のAPで拒絶の性質を受けてしまうなら、人間なんて生まれた瞬間肉体が飛散してしまうだろう。だから、基本的に自分のAPは自身の肉体に対して無害とされている。


 が、それはAPの簡単な基礎を身に付けるまでの話だ。


 これはイメージだが、AP操作技術がレベル一から百まであったとして、危険なくコントロール出来るのは十五レベルくらいまでだろう。それ以降は訓練するのに肉体にダメージを負う危険が伴う。


 レベル五十以降は誤れば常に死ぬ可能性がある。だから、自分のAP操作技術に応じて段階的に難しい事に手を出していく。


 僕の感覚だとAP波動弾はレベル七十位の熟練度は必要だ。


 ゲームで例えてみよう。柚実ちゃんの発言が冗談で無いとしたら、僕と彼女のAP技術にはレベル十五の勇者とレベル百の魔王位の実力差がある事になってしまう。


 学生の枠を超えた天才とされている柚美ちゃんが、こんな低レベルな訳あるだろうか? 純粋に教えを乞うように見せて、僕を試しているのかもしれない。


「えっ、違うんですか?」


 キョトンと純粋に疑問を抱いた顔をしている。冗談を言っているようには見えない。


 もしかしてそこまでの技術は必要とされてないのかな。戦闘技術があれば、AP技術などオマケ程度でしかないのかも。


 絶対あった方が良いと個人的には思うけど。


「そこまで言うのなら、様子を見ながらやってみようか。今度時間がある時ね」


「やった! 約束ですよ!」


 柚美ちゃんは喜び、とてもご機嫌そうだ。


「それにしてもAP装置も使ってないのに、視認できる程の高密度のAPを顕現するなんて、人間離れした精密AP技術ですね。私に出来るか心配です」


「人間離れ? それこそ大袈裟だよ。まあ僕の唯一の取り柄だからね。これに関してだけは、僕の右に出るものはいないと思ってるけど」


 怪盗の秘密奥義も基本APを使ったものばかりだ。戦闘技術全てにおいて僕を上回ってる師匠でも、これだけは負ける気がしない。


「…………それは、AP技術に関しては自分を上回る者がいないという意味ですよね?」


「それに関してだけはね。まだ見たこと無いかな」


 僕の側には赤子の頃からいつもAP装置があった。誰よりもAPに触れている時間が長いってのもある。


 僕の答えを聞いた柚美ちゃんは、再び真剣な表情で僕を見る。


「そうですか……。それが答えみたいなものですよね」


「ごめん、何の話?」


「いえ、何でもありません。交流戦が楽しみですね!」


「全く共感出来ない」


 交流戦はジェースリー記念ドームで行われる。このバスは会場近くの宿泊施設に向かっている。


 一般家庭の子供では一生泊まることなど出来ないようなホテルで過ごせるらしい。


 選抜者の待遇はかなりいいと聞く。期待できるのはそこくらいか。


「着くまで暇なので異世界での話を聞かせてくださいよ」


「長くなるけど良い? 労基法違反のブラックギルドに、フリーターの日向さんって人がいてさーー」


 柚美ちゃんは終始楽しそうに話を聞いてくれたので。話してるこっちも最後まで気持ちよく語る事ができた。






 異世界での冒険を語り終えた頃にタイミングよく宿泊施設に到着した。


「凄いですね。二十日間ずっとその妄想を考えていたのですか? 常軌を逸してますね」


「お? やりますか? AP波動弾を体で覚えさせてあげよう」


 別にいいさ。信じて貰えるとは思ってないから。僕が同じ話を人から聞いても同じように思うだろうし。


「お前らいつの間に仲良くなっていたんだな」


 バスから降りると勇輝先輩がエントランス前に立っていた。


「夜道には気を付けろよ」


 僕を人柱にして逃げたのを忘れたとは言わせない。


「会って早々物騒だな。見捨てたのは悪かったって、帝がいち早く気づいて静かに立ち去るよう指示を出してきたんだが、清人が肉焼くのに夢中で気づく気配も無いから仕方なくな」


 気を抜きすぎてた僕も悪いか。だが、こいつらのせいで僕の貴重な夏休みが交流戦で潰れることになった事に違いは無い。


「OTAK部の皆で夏休み削ってお前の事捜索してたんだからな? それくらい受け入れろよ」


 それを言われてしまうと弱い。このおバカ共、海外にまで行こうとしてたもんな。


「もういいよ」


 僕は彼らを責めることを諦めた。いつもならだいたい香奈さんが犠牲になるのがお決まりだったんだけどな。


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