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抗えぬ課題−1

 異世界から帰ってきた三日後のことである。


 僕は犯罪者のごとくバスでとある場所に連行されていた。


 目の前には折り畳み式の机、机上には八割方書き終えた反省文。もちろん僕が書かされているものだ。


 予想はしていたが、日本に帰ってきたら残りの夏休みを自由に満喫出来るという考えは、僕の望みに過ぎなかった。


 理不尽で不本意だが、学校の教師共に迫られた僕はもう大人なので、大人らしく反省文を書く事に同意したのだった。


 二十日間も家出して周囲に心配をかけた事を謝罪しなければならない。本当は家出をしていた訳じゃないけれど。


 反省文なんて、それらしいことを適当に書けばいいが、僕に与えられた課題はこれだけでは無かった。


「それで、清人先輩はどのような言い訳を先生に述べたのですか?」


「異世界転移して勇者と世界を救ってました」


「なるほど、先生方があそこまでブチ切れる訳ですね」


 隣に座るのは、とってもかわいい後輩である天戸川柚美。サイドテールの美少女だ。彼女は身を乗り出して僕の反省文と顔を交互に見る。


 ……顔が近い。


 彼女は僕が逃げ出さない為のお目付け役。


 移動中のバスから逃げ出そうと思うほど不良だった覚えは無いのだが、先生共の僕への信用は地に落ちているようだ。


 そもそも僕はクラスの端でおとなしくしている無害な生徒なはずだ。目を付けられてしまうような立ち位置ではなかったはずだ。


「いや、それが本当なんだってば。事実は小説より奇なりってやつさ」


「仮にもしそれが本当だとして、行方不明の最中、生存報告もせずに学校の校庭でバーベキューなんてよく出来ましたね?」


「自由な内にやりたい事やっておかないと、こうやって拘束されるでしょ? 僕はここまで読んでいた訳だよ」


「流石ですね! 何も考えていなかった訳では無かったのですね。潔くて素敵です!」


 完全に馬鹿にしてますねこれは。


 帰還したことを学校に報告したら色々と騒がれて身動きが取れなくなるかもしれない。だから僕は絶対に外せない用事(OTAK部のバーベキュー)を先に済ませようとしただけだった。


 まさか先生の一人に見つかってしまうとは……。


 昨日の僕は肉を焼くのに夢中だった。心配かけてしまったから、お詫びに最高の状態の焼き加減で皆に食べてもらおうと奮闘していた。だが、何故か周りにいた部員たちはその場から消えていて、行方不明の生徒が一人で校庭でバーベキューをやっているという奇妙な図になってしまったのであった。


 逃げたあいつらを僕は絶対に許さない。


「ふふっ夕方の薄暗い校庭で一人でバーベキューって、ほとんど妖怪ですよね」


 柚美ちゃんはクスクス笑いながら、僕をイジる。


 確かにそんな妖怪いそう。


 一人だけだった先生が応援を呼んだせいで、わらわらと先生達が集まってきて、とんでもない迫力で怒鳴り散らされた。あれはトラウマになっている。


「でも先輩の謎ムーブのおかげで、私と一緒に交流戦に出れることになったのですからまあ結果オーライですね!」


「憂鬱この上ないよ」


 交流戦とは、日本にあるAP技術の名門校四つが集まって、選抜された生徒による試合だ。当然、源流剣高等学校単体の模擬戦闘大会などよりも注目は集まる。


 本来は模擬戦闘大会の上位入賞者から学年毎に一人ずつ指名されるのだが、今年は延期になってしまった為に先生達による会議が行われたらしい。


 模擬戦闘大会で暴れすぎてしまった僕は、多くの先生に推薦されたと聞いた。一人で男子生徒を殲滅してしまったのはやり過ぎだったと思う。


 そこまでの舞台で戦うのは気が重い。例年通りなら強制力は無く辞退したかった。出場したい選手は沢山いるのだ。


 そして先生達の期待を受けて交流戦の選手に指名されてしまった僕は、家出の罰として拒否権を失ったという話。


 今朝は反省文を書きに来ただけだったのに、学校の前には満面の笑みを浮かべた担任の長谷川先生と強キャラ柚美ちゃんの二人がいて、逃げようと後ろを向いたらそこにも柚美ちゃんがいて、気づいたらバスで連行されている。


 分身転移を持つ柚美ちゃんから逃げることは無理だ。


 大人は本当に汚い。


「昨日まで私も同じ気持ちでした。ですが、二年生からは先輩が出ると聞いてワクワクしています!」


「そんなに僕が無様を晒す姿が見たいのか」


 他の名門校の選抜者と戦うだなんて、ボコボコにされるに決まってる。夢川家史上最悪の恥を晒してしまうかもしれない。


 安定の正晴出しとけばいいじゃんか。彼ってば実は剣聖なんだぜ? 彼にこそふさわしい舞台ではないだろうか。


 ちなみに三年生枠は無敵の風紀委員長こと橘勇輝だ。彼が出るのは当然だろう。表向き源流剣高等学校最強の生徒なのだから。


「うーん、先輩は本当のところ“どっち”なんですかね?」


 柚美ちゃんは分析するかのような真剣な眼差しで見つめてくる。


「どっちとは?」


「先輩なんて最初は有象無象だと思っていたのですけどね? タカが外れている人間ってのは学生の様な若い人の中にも、極稀に混じっているのですよ。風紀委員長なんかはとてもわかりやすいですよね」


 勇輝先輩の実力隠しを見抜いているのは警戒が必要だ。


「私は目が良いのですよ。なんと言っても探偵の家系ですからね。相手の本質が何となくわかっちゃうんです。後は、優しい雰囲気纏ってる生徒会長さんとか、三年生の仙蓮寺先輩とか隠していても異質なのが丸わかりですね。こんなに混ざっているこの学校は恐ろしいです」


 まずいですねこれは、バレバレじゃないですか。柚美ちゃんには注意するようにOTAK部の皆に言っておこう。


「模擬戦闘大会の動画見ましたよ。試合中は私も自分の相手に集中していたので、後からじっくり見ました」


「僕の動画見返すとかただのファンじゃん。握手する?」


「後で細かいところ聞かせて貰いますが、どう見てもあの戦いは普通じゃないですよね? あれだけの実力持っていながら私の目には先輩の特異性が映らない。それが異常なんです」


 なんだろう。僕の発言は無視されたが、差し出した手を握り、普通に握手された。やっぱりファンだったか。


 この話もう良くない? 反省文続き書いてもいいかな?


 洞察力高い系女子なら触れられたくない部分を察してほしい。


「そう言えば、先輩を含めて皆さん同じ部活でしたね? あの部活はいったい何なのですか? 先輩はどっちなんですか? 何者ですか?」


 どんどん顔が近づいてくる。


「めっちゃ瞳孔開いてて笑える。どれだけ興奮してるの?」


 真正面から柚美ちゃんを見つめ返し、からかう。


「あっ! すみません!」


 彼女はビクッと体を震わせて恥ずかしそうに距離をとった。


「誰かを見る時は同時に自分も見られていることも意識したほうが良いかもね」


 なんかそれっぽいことを言って彼女の勢いを打ち切った。こういう適当なこと言うの僕は結構得意だ。


「すみません……気になったこと放っておけない質でして」


「まあ見たまんまだよ。そこそこは戦えるよ。だけどタカが外れているだとかそんな事はないよ。気が乗らないけど、交流戦頑張ろうね」


「はい! もちろんです!」


 彼女はいつも元気だなー。僕にも分けてほしい。


 残りの文章を書き終えるまでの間、柚美ちゃんは静かにじっとしていてくれた。


「そうだ先輩! 私にあれを教えて下さい!」


 僕が書き終えるのを見計らったのか、またしても興奮した様子で身を乗り出してきた。


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