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帰還-3

 周囲の騎士達は僕の居場所を狭める様ににじり寄ってくる。この間にも次々に騎士が周囲に集い、僕の逃走経路は塞がれて行った。


 これはまずいぞ。


 捕まったら捕まったで、それはそれで良いと思ってしまう自分の意志の弱さが情けない。


 怪盗は自分の意思や信念を曲げたりはしないのだから。


「さぁ、ここまでです戦神殿。私共と一緒に来てください。悪い様にはしませんぞ」


 日向さん達は何をやっているのだろうか。助けに来ないという事は、彼らも僕と同じ様に拘束されているのかもしれない。


 くっ……ここまでか。


「諦めないでください戦神様!」


 廊下の先から強い風が吹き、邪魔な騎士を数人吹き飛ばした。


 これは風属性の魔法ってやつだろうか。


「ソフィア王女!」


「戦神様! こっちです!」


 僕は騎士達の合間をぬってソフィア王女の元へ向かう。


 僕が来るのを確認すると、ソフィア王女は先導するように走り出した。


「助かったよ。もう周りは敵ばかりで、味方は君だけだ」


「任せてください! 私がより良い結果に導きます! こちらへ!」


 何か噛み合って無い気がしないでも無いが、僕を助けてくれたのは事実だ。彼女を信じて付いて行ってみよう。


 能力で僕の背後に木製の壁を作り追手を撒く。本格的に頑丈な壁を作ったら後で処理が大変だと思うので、簡易的なものだ。


 何度か角を曲がるとソフィア王女はとある部屋の扉を開け、中へ入っていった。僕も後に続く。


 中は真っ暗だった。


 後で扉が閉まりカチャッと鍵がかかる音がする。


「ソフィア王女?」


「…………」


 ねぇどうして返事をしないの? どうして鍵を閉めるの?


 次はカチッと音が鳴り薄暗い灯りがついた。目の前に何かの影がある。だが、絶妙に暗くて部屋の様子がよくわからない。目が慣れるまで待とう。


「ひぃっ!」


 影だと思っていたものの正体は無表情でこちらを見て立つソフィア王女だった。驚かせないでくれ。心臓が飛び出るかと思った。


「私思うのですよ……」


 無表情のソフィア王女は続ける。


「他の王女に渡したくないなって。そして、この世界からいなくなってほしくないなと」


「は、ははっ。モテモテで困るなーははっ……」


 僕はガクブルしながら相槌をうつ。


「ですから戦神様を本物の神にして祀ろうかと思いまして」


 何それ怖い。


 本当怖い。


 この世界ヤバい奴しかいない。


 目が慣れてくると正面には祭壇のような物があり、御札がそこらに散らばっていた。僕は逃げる為に扉に近づこうと動く。


「動くなっ!」


「ひぃっ! すみません!」


 ソフィア王女に怒鳴り声で静止させられ、何故か正座で座ってしまった。


「駄目ですよ。儀式が失敗したら死んでしまうかもしれないですからね」


 えっ、死ぬの僕?


 むしろ成功したらどうなるかが知りたい。


「あっ、あの……」


「静かにっ!」


 ソフィア王女にグラスに入っている水を顔に投げかけられ、僕は黙る。


 冷たいよ。辛いよ。怖いよー。師匠助けてよー。


「大丈夫です。清められた聖水ですから。……人間には刺激が強い物ですが」


 全然大丈夫じゃなさそう。勘違いしないでもらいたいが正真正銘僕はただの人間だ。


 もう嫌だ。


 拘束でも何でもされてあげるから騎士達早く部屋に突入してくれないかな。木製の壁なんて余計なもの作らなければ良かった。


「肉体は消え……」


 ピタッ


「魂は滅び……」


 ピタッ…


「落胤となりて……」


 ピタッ…


 ソフィア王女は物騒な呪文を唱えながら僕の顔面に御札をピタピタ貼っていく。


 こんなに怖くて辛い経験をしたのは初めてだ。


 僕はくすぐったくて御札に手をかける。


「気をつけてください御札が取れると死にます」


 どうしても死ぬのね。


 これ実は僕を殺したいだけなのでは?


 恐怖でじっと耐える事しかできない。顔に貼られた御札が僕の涙で湿っていく。


「では仕上げと参りましょう」


 とうとう僕は神になってしまうらしい。何を言っているかわからないかもしれないが、僕にもわかりません。わからないけど、とてつもなく嫌です。


 よくよく考えれば、怪盗は神に等しき存在だ。怪盗=神。であるならば、僕は神から神に生まれ変わるに過ぎない。


 ふっ、そう悲観することでは無かったな。


 現実逃避をもって僕は死を覚悟した。


「清人! 大丈夫か!」


「ひなだざんーっ!」


 部屋の扉を壊して日向さんが救助しに来てくれた。


「うわっ汚っ。ビショビショじゃないか」


 日向さんは能力で僕の水分を飛ばしてくれる。


 一緒にソフィア王女に貼られた御札も取れてしまったが、死ぬなんてことは無かった。脅しただけだったようだ。


「もう! もう少しだったのに!」


 ソフィア王女は地団駄を踏む。


「何されていたんだ? ここで」


「わかりません」


 それは一番僕が聞きたい。


 日向さんは水属性の魔法と振動操作の能力を組み合わせて、ソフィア王女の足元を凍結させた。


 これで追っては来れない。頼もし過ぎるよ。


 日向さんは鬼神に消耗させられた魔力も寝たら回復したらしい。聖剣で吸収すると一時的ではなく魔力総量の上限が増えるみたいだ。


 羨ましい限りだ。


「ああーっもう! 戦神様! お元気で!」


 ソフィア王女は最初氷を取ろうともがいていたが、諦めたのか潔く送ってくれた。


「うん、またね!」


 手を振ってその場を去る。儀式はもう勘弁してほしいな。


 儀式部屋を出て一つ目の角を曲がると誰かと接触する。ぶつかった相手は尻餅をついていた。


「勇者カイルか、どうしてここに?」


「いたたた……。君達を探していたんだ。逃げる手伝いをしようと思ってね」


 人間不信に陥っている僕には、簡単に彼を信用することが出来ない。ソフィア王女の様に罠の可能性がある。


「君等がいるせいで、いつまで経っても僕等がちやほやされないんだ。さっさと帰ってほしい」


 そうだよね。皆僕等の事ばかりかまってたもんね。君等あまり活躍してなかったから仕方無いとは思うけど。


 でも私欲に塗れてて逆に信用して良さそう。


「悪かったよ、是非君の手を貸してくれ」


「ああ、任せてくれたまーー」


 カイルの返事が終わらない内に彼の姿が突然消えた。


「邪魔者には消えてもらったわ」


「かっカイルーっ!?」


 カイルがいた場所の後からリーナ王女が現れた。彼女は日向さんが鬼から救出していた王女だ。


 なんてことしてくれるんだ。数少ない味方を即落ちさせやがって。


「清人逃げるぞ! 彼女に触れられたら終わりだ!」


 確か彼女は特定の場所に自分と自分が振れているモノを転移させる魔法を使う。


 僕等が逃走を成功させるにあたって一番危険な相手だった。


 僕等の方が身体能力は上なので、全力で振りきろう。そう思っていたのだが、僕の前を走る日向さんもカイルの様に姿を消した。


 リーナ王女の隣でキョトンッと立つ日向さんを見つける。


「貴方には既に術式を埋め込んだでしょう」


「そう言えばそうだった。すまん清人」


「何を言ってるんですか! この役立たず!」


「助けてやったのにその言い草はなんだ。だが、これもう実質詰んでるよな。諦めようぜ? もう無理だろ」


 冷静に分析している彼に腹が立つ。置いて行ってしまおうか。


 状況は最悪だ。諦めるしか無いのか。何か方法は無いのか。


 一時的に彼を解放してもすぐに魔法で転移させられてしまう。魔法そのものを封じる必要がある。


 そうだ。切り札を使おう。


 僕は彼女に接近する。


「向かってくるとはいい度胸ね」


「エフェクト」


 僕はポケットから取り出した鎖の欠片を能力で首輪の形状にする。その首輪をリーナ王女の首にはめて固定する。


その代わりに僕も彼女に腕を掴まれた。


「なっ! 何をしたの? 魔法が発動しない」


 僕等が牢屋で繋がれている時に使われていた鎖だ。魔力の発動を阻害する性質があるらしい。


 あの時こっそり拝借していたのだ。


「天才かよ。これを見越して持っていたのか?」


「当然!」


 そんな訳無いよね。鬼との戦いで役に立ちそうだから持っていたが、使わずに終わってしまった。まさかこんな所で役に立つとは思わなかったよ。

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