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鬼の神−5

【鬼神】


 高速戦闘の中で人間の拳とぶつかり合う度に苛立ちがつのる。


  私の腕が一回り以上小さい貧弱な拳にぶつかり負けてしまう。


 ミシッ……ミシッ


 自身の腕から歪みが生じる音が隠せない。崩壊までのカウントダウンが始まっているのは私の方だった。


 現世には存在しない物質で構成されている私の身体を……神鋼石となった私の身体を生身の人間の拳に砕かれる。


 これでも届かないのか。


 理解不能。


 なんなのだこいつはいったい。


「これで五百発目!」


 人間が声を張り上げると、腹部に蹴りが放たれる。生涯で受けた経験の無い程の重い衝撃が爆発した。


 全力で踏ん張りその場に留まるも、腹部の鋼石化した皮膚がポロポロと割れ落ちる。


 このような暴力の塊が、本当に人間だと言うのか?


「かったいなー。これ痣になって腫れるやつだ」


 人間は呑気に自身の拳を気にする。


 一息つけたのは一瞬だった。再び暴力の嵐が私を襲う。


 嵐の中に反撃を差し込むも焼け石に水だった。速度も力も遥かに私を凌駕している。


 私のような高次元の存在が人間の皮を被っているのだ、と言われた方が理解できる。


 私の言圧を無効化し、他の人間共の縛りも解いてしまった。それだっておかしい。人間に行えるようなことでは無い。


 だが、それが否であることを私にはわかってしまう。神気も殊に強い存在感もありはしない。先程相手していた男の方がまだ覇気を纏っていた。


 数百年前、私の前に立ちはだかった戦神と自称した者も強者だった。だが、それも遥か昔の話。


 この私に敗北を教えてくれたあの男でさえ、今の私なら凌駕している。そう確信を持って現世に降りたはずだった。


 不気味だ。理解不能だ。恐ろしい。


 この私が下等生物ごときに恐怖を感じてしまうのが、腹ただしい。


「次が最後の一発だ」


 人間の掌に青い光が収束していく。拳ほどの大きさになると、青かった光が黒色の闇に変化した。魔力では無い……なんだあのエネルギーは。


 あれは駄目だ。


 無意識だった。


 人間を背にして私はみっともなく逃げていた。屈辱と怒りで頭がおかしくなりそうだ。


 私の心情に関係なく足は止まらない。


 自身に影が降り、上を見上げると、人間が黒い闇を叩きつけるように私に向ける。


そうだ、逃げる意味は無い。この人間は私よりも速い。


「超重量級AP波動弾」


 黒き破壊が私を中心に爆発した。


 神鋼石の鎧が機能している様子はない。衝撃で肉体が周囲に弾け飛び、抵抗なく破壊の渦に飲み込まれた。


「君が消えるのは理不尽なことなんかじゃないよ。自業自得ってやつさ。自身の行いを呪うんだ」





【夢川清人】


 ……やり過ぎた。


 森林だった場所は鬼神との戦いの余波で荒れ地になり、僕の立っているこの場所に至っては谷のようになっている。


 不思議なことに地形が変わっているのだ。


 不思議だなー怖いなー。


 ……これって僕が悪いのかな。


 それは無いか、仕方ないと思うんだ僕は。


 ただのAP波動弾じゃ鬼神を倒しきれ無いかもしれないと思ってしまったんだ。だって滅茶苦茶硬いんだもん。


 僕の手もしばらく使い物にならないよ? 未だにジンジンしてる。


 それに、クロガネを纏わせたAP波動弾がここまでの破壊力を出すとも思わなかった。試した事なんか無かったからね。


 本当試さなくて良かった。


 僕の世界で修行中になんとなく放っていたらテロか何かだとされて、ドナドナされていただろう。


 僕の世界で僕よりもAPの多い人達はこんな力を制御しながら生活しているのかな。大変だなあ。


 城は壊すし森林は破壊するし地形は変えるし、戦神というか破壊神か何かだと思われそう。


 嫌になるね。


 取り敢えず、日向さんと合流しよう。


 エーテル待たせ過ぎたかな。鬼神がタフで時間をかけすぎた。能力も温存出来て女神の涙を使う余裕は充分あるけど。


「私に上からモノを言うな……呪うのは貴様だ」


 声がして振り返ると、徐々に肉体を再生させていく鬼神が現れた。


 しつこすぎる。破壊し尽くしたと思ったのに。


 僕は軽く絶望する。そもそも神だと名乗るこいつを倒す事は可能なのか?


「再生する為の魔力は神界から供給される。肉体のほんの一欠片でもあれば、私は蘇るのだ。目にも残らない程の肉片を確実に破壊し切ることが貴様に出来るか? 先程の技は確かに強大だった。だが、あれ程の衝撃では破壊し切る前に私の肉体は外に弾け飛ぶ」


 そんなに僕の技を凌いだのが嬉しいのか。口数が多い。


「私は永久に戦い続ける事ができる。貴様のエネルギーが尽きた時、完全に私の勝利となる。幾年幾世、いつまで貴様は戦い続けてくれるのか楽しみだ!」


 人間がそんなに長い間戦える訳ないじゃん。鬼神ってのは世間知らずなんだね。


 そして、本当に馬鹿だな。自分で答えを教えてしまうなんて。


「なんだ。第五形態がある訳じゃ無いのか。それならば、本当にただの蛇足だな。時間をかけるだけ無駄」


「そうだ。私にとっては最初からこの戦いなど蛇足のようなものだ」


 僕は再び掌にAPを収束させる。


「はっはっは! 馬鹿が! 何度やっても同じだと言っているだろう」


「要は肉片の一欠片も残さなければ、完全に消し去ることができるんでしょ?」


 僕には師匠である夢川先生に禁じられた技が他にもある。


『危ねえな。それこっち向けんなよ』


『うん、わかった』


こんなやり取りで禁じられた? 技がある。


「無理だ……そんなこと」


 鬼神の歯切れが悪い。


 散々痛めつけたから警戒はされるか。だからどうと言う話でも無いが。


「特別に僕の秘密を教えてあげよう。冥土の土産ってやつさ」


 僕の世界でも知るものは片手で数える程しかいない秘密。別の世界の消えゆく存在に教えても問題無いだろう。


「エフェクト」


 掌に集まっていたAPは、僕の能力によってAPとは関連性も無い全く別のエネルギーに変化する。


 太陽の様に光を放つ球体ができあがった。


「“物質変換及び状態・性質変異”これが僕の持つ能力だ。まあこの世界で言う魔法みたいなものさ」


 言っちゃいました。バレたら夢川先生に殺されるー。


「その程度が何だと言うのだ。それがどうした。私をどうにか出来るような力とは思えないが?」


 想像力が無いなー。確かに何でも出来るって訳じゃ無いんだけどさ。人体には直接使えなかったりするし。


僕の能力は、この世のありとあらゆる物質を別の物質に変え、その状態や性質を自由自在に変異させることができる。


「今この手にあるエネルギーはね。“触れた物質を全て熱量に変える”そういう物なの。僕がそういう物に変えたの」


「は?」


 は? ってなるよね。人から聞いたら僕も絶対そう思う自信がある。攻守万能にして便利さに関しても他の追随を許さない能力。


 石ころを金貨に変えたりも出来る。錬金術師廃業するよ。


 重いのは代償だけ、APの総量が無くなるので使い切ったら二度と能力が使えなくなるどころか、AP装置や身体強化も出来なくなる。


 能力の効果に見合った重すぎる代償だが、僕はネックレスに蓄積されたAPを使って発動する事で代償を無視できる。


 ズルいと僕も思っています。


「原子の塵も残さず、魂の欠片すら残さず、君の全てを熱量に変えてやる」


 技名は夢川先生に初めて見せた時に、彼が考えてくれたものがある。


空亡(そらなき)


 掌を鬼神に向ける


「そんな馬鹿な話あってたまるか! 天雷!」


 空亡は鬼神を飲み込み、僕に降り注ぐ雷までも飲み込む。それだけでは止まらない。光の柱が空に立ち上り鬼神が生み出した暗雲をも飲み込み消し去った。


熱変換効率はかなり悪く設定してある。


それでも


「暑い」


上昇した気温に滅入りながら僕は汗を拭った。


やばい。ネックレスも体内もAP空っぽ。これもまあ……仕方ないよね。


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