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鬼の神-4

 暴れ狂うAPが抑えきれず、体内から黒色と白色の波となり漏れ出る。


 自分の立っている足元の地面が軋み、亀裂が入る。


 以前僕は怪盗になる為の謎の特訓の最中、オリジナルの奥義を二つ生み出した。


 一つはAP装置“シロガネ”


 AP装置とは名付けたものの、これは道具では無く技である。自身の体をAP装置と見立てて出力する技術。


 シロガネの効果は自身の硬化。


 強度の上がった身体は中途半端な衝撃では傷一つつかなくなる。


 もう一つはAP装置“クロガネ”


 クロガネは自分のAPに質量を持たせる。


 自身の身体が重くなり、生身の生き物の上に乗ったら軽く潰せるくらいの重さにはなる。正確に測れた機会は無いが初めて使ったときは建物の床をぶち抜いてしまった。


 クロガネは単体では使えない技だ。シロガネを出力した状態でないと自身の体を潰してしまう危険がある。


 そして、APデュアルアクセルとは、複数のAP装置を同時に出力する技術。


 右手と左手で別の作業をするような難しい技術だが、これが出来ないとクロガネとシロガネを同時に使うことが出来ない。


 APを扱った技術においては僕の右に出るものはいないと思っている。僕に出来なくて他の誰に使えようものか。


 二つのAP装置を出力したことによって、副作用が起こる。APの重い圧力が体内にかかり、行き場の無いAPが暴れ狂ったように加速するのだ。


 APの基本として、加速すれば加速するほど身体能力や五感が強化される。


 つまり、コントロール出来ないレベルで僕の身体能力は強化していく。この強化によってクロガネを使った重い身体を動かすことか出来るようになる。


 全ての技術が備わって初めて実戦で使用出来る奥義。


「あと三十秒遅かったら魔力切れで本当に死んでたぞ」


 見るも無残な状態から煙を発しながら体を再生させている日向さんが、恨めしそうに僕に悪態つく。


 僕が来るまでの間ずっと体を破壊されては再生するを繰り返していた訳か。


「何というか、人間やめちゃってるよね」


「自分の飛び出た内蔵見すぎたせいで痛みとグロ映像に耐性ついたわ」


「何ですかそれ、まだまだ余裕そうじゃないですか」


「お前こそ、馬鹿みたいに飛んでった時は終わったと思ったぞ。よく生きていたな」


 ソフィア王女に自分の体を見ない方がいいと言われる程の重体だったみたいだしね。そりゃ心配されるか。


「めちゃくちゃ痛かったです」


「小学生並の感想かよ」


 日向さんは安心したわと言い笑う。


「あとは任せてください」


「ああ、勝てなくてもこの世界が滅ぶだけだ。気にすんな」


 そこは気にするべきだろう。軽く諦め入ってるんですけど。心折られ過ぎたのか。


 隣で日向さんを見下ろすように立っていた鬼神は、僕が近づくと興味深そうにこちらに目をやる。


 ピカピカ光っていて、まるで雷の化身のようだ。


 眩しくて鬱陶しい。


「あれだけのダメージを受けて戻ってくるのか。この男といい、近頃の人間はタフになったものだ。百度は息の根を止めたと思ったが、まだ立ち上がってくる」


「彼はちょっとだけ特殊なんだ。他の皆は普通に死んでしまう」


「そうか、それならば二度と人間が調子づくことが無いよう、徹底して壊し尽くすのが神としての私の義務か」


 先程までの怒りは収まっている様子。日向さんをボコボコにしてだいぶ気が晴れたらしい。


 あの怒りをぶりかえすのは気が進まないなー。でも、言いたいことを抑えるのは僕の精神衛生上よくないからね。


 聞いちゃうよ? 僕は。


「君の義務とかどうでもいいのだけど、一つだけ聞きたいことがあるんだ」


「……」


 鬼は僕の物言いに不快感を顔に出す。


「ねぇ、自慢げに語ってた武器を壊されてどんな気持ちになった? びっくりしたでしょ? 絶対維持の性質があるとか言ってたもんね? 簡単に灰になっちゃったね?」


「殺す」


「なるほど、そういう気持ちか」


 やっとスッキリしたよ。


 鬼神が雷のごとく速度で迫る。さっきはほとんど反応できずに胸を打たれた攻撃だ。


 だが、APデュアルアクセルによって強化された感覚が相手の挙動を完全に把握する。


 鬼神の突き出された拳を、左足を前に出し半身に構えた僕は手刀で弾く。


 弾くだけのつもりだったのだが、僕の手刀はそのまま鬼神の腕を切断してしまった。


 僕も鬼神も一瞬驚いてしまったが、隙は隙なので右手の拳で鬼神の顔面を殴りつける。


 メキメキッと拳に感覚が伝わり鬼神は後方に吹き飛んだ。それも凄い勢いで。


 止まってくれない。木々をなぎ倒してどこまでも転がっていく。


 見失う前に追撃するか。


「倒せそうなので行ってきますね。休んでてください」


「へ? あっ……おう」


 うまく返答してくれない日向さんを置いて僕は鬼神を追った。


 それにしても手応えがなさ過ぎるな。日向さんをいたぶるのに夢中になりすぎて、力を使い果たしていたのかもしれない。


 間抜けな鬼神だね。


 クロガネによって重くなった身体を動かすには充分過ぎるほど身体能力は強化されているようだ。


 まだ勢いが止まらず転がり続ける鬼神にすぐに追いついてしまった。


 動きを止めるために僕は鬼神を踏みつける。地面が軋みめり込むようにして鬼神は止まった。


 切断したはずの腕が元に戻っている。この形態になって日向さんのような完全な再生能力が備わっているのか。


 害悪なバケモノだ。


「僕の友人を百度は殺したと言ったな。それならば、君にはこの世界の人々の痛みも含めてその十倍は苦しんでもらう」


「何だ貴様は! どこにそんな力がーー」


 鬼神が言い終わる前に十発の拳を叩き込む。鬼神の肉体を通して地面が陥没していく。


 少し手を止めると数瞬遅れて破壊された肉体が綺麗に再生する。


「待て! 少しーー」


 間を置かず二十発目、三十発目、四十発目と続けて百発程の攻撃を加えた。


 再び手を止めると、数瞬後には原形も留めていなかった状態から綺麗な肉体に戻っている。ここまで来ると僅かに徒労感に襲われる。


 いったい何度壊せば終わるのだろうか。日当さんを相手にしていた鬼神も似たような感想を抱いていたかもしれないな。


 エーテルにもすぐ戻ると言ってしまっているから、時間をかけるのも格好が悪い。あと九百発殴るのは確定なんだけどね。


「天雷!」


 鬼神の声に呼応して僕の元に雷が降り注ぐ。


 今の僕は雷の軌道を把握できる為に、合間を縫って回避した。雷音だけは未だに煩わしい。


 ちなみに、さり気なく怪盗秘密道具の小型避雷針を使ってみたが、一度の雷撃で粉砕されてしまった。少しだけ悲しい。


 息を荒げながら鬼神は立ち上がる。神といえど疲労は感じているようだ。まあ、神って言うのはただのアイツの自称にすぎないが。


「ふざけるな! どうしてひ弱な種族の中から貴様の様な人間が生まれる! お前は……お前らは本当に人間なのか! お前の様な人間が二人といてたまるか!」


 気になることを言う。まるで僕の様に鬼神を追い詰めた人間が他にいるかのようだ。


「何が戦神だ。この私が神界に逃げ帰るなどと二度としてたまるか。貴様等は絶対に許さん!」


 皆が言った戦神とはやはり実際にいた人物だったのか。詳しい話は聞かされなかったからな。


 そもそも鬼神が現れたのは今回が初めてだという話だったはずだ。以前にも鬼神を追い返しているのでは矛盾がある。


「神鋼石化」


 鬼神の肉体が足から徐々に黒ずんでゆく。


 第四形態は蛇足だと思うの。


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