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鬼の神−3

「何でふてくされてんだよ」


「……」


 地に伏せる鬼神の肉体を前にして僕は無言で答える。


 何の為に危険を犯してまでわざわざ鬼神に近づいたと思っているんだ。命を賭けてまでの覚悟を決めたのに、空振りに終わってしまった。


 消化不良だ。


「理解出来ないな。鬼神を倒して驚異は去ったんだぞ? これで俺達も無事に元の世界に帰れるっていうのに、どこに不満があるんだ」


 色々言ってやりたいが、ふてくされている理由を語った所で、呆れられるのは僕の方なので、黙秘を貫く。


 武器が奪われて悔しがる鬼神の顔が見たかったなどと言って理解してもらえるとは僕でも思わない。こんな時に何を馬鹿なことを言っているんだと、皆のヒンシュクを買うまである。


 分が悪い戦いはしないのが吉だ。切り替えていこう。


「鬼神の体が他の鬼みたいに霧になりませんね。これ第三形態くるフラグじゃないかな」


「縁起でもないこと言うなよ……マジで。これ以上強くなられたらこの世界は終わりだぞ」


「僕は第三形態どころか、あと十八の変身を残してるけどね」


「実力隠し過ぎだろ」


 僕の冗談に日向さんは笑ってくれた。


 十八の変身などもちろん嘘ではあるが、むしろ一度だって変身などできないけれども、鬼神がまだ立ち上がると言うのなら……アレは使わないといけないかな。


 僕の師匠である夢川先生に使用することを禁じられてる技がいくつかある。


『危ないからお前それ人前で使うなよ』


『うんわかった』


 こんなやり取りによって禁じられた技がいくつかある。


 僕は怪盗になる為の謎の修行の最中に、いくつもの技を生み出していた。APを上手に扱うことで、現代の人間には色んなことが出来てしまう。


 加減が上手に出来ない技は基本的に失敗作だ。僕が完全にコントロールしきれている技以外を夢川先生は認めてくれない。


 色んな意味で危険だからだ。


 認められていない技でも場合によってはいくらでも使い方はある。


「やっぱりね」


「もう少し休む時間が欲しかったな」


 鬼神の体が黒い霧に包まれ、ドクンと鼓動する。


 二つに別れていた肉体は空中に浮かび上がり一つになる。一つになった肉体は形を崩し、黒い塊となった。


「神体降臨」


 どこからか声が聞こえた瞬間、雷鳴が轟く。


 視界が真っ白になり、思わず目を瞑ってしまった。


 あまりの雷音に鼓膜が破れるのではないかと思ったが、すぐに音量が落ち着く。


『一定以上の音を遮断したから平気だ。俺の声だけ一方的に送ることもできる』


日向さんが能力で音を抑えてくれた為に僕の耳は守られている。この音の中でも自分の声を届かせることができるとは、便利な能力で羨ましい。


「ーーーー」


 試しに声を出しても雷鳴にかき消される。僕の声は音にならない。


 耳を封じられ、視界を封じられ、APの波動も感じる事ができない。これは詰んでいるのではないだろうか。


 今何かされたら対応出来ない。本当にまずい。気づいたらあの世だったなんて冗談じゃない。


『敵に何か動きがあれば指示を出す』


 頼もしい。僕なんか何も出来ないでいるのに。


 もしかするとこの僕がお荷物になっているのでは無いだろうか?


 どう考えてもこの世界に来てから僕よりも日向さんの方が活躍してるんだよなー。


 光が収まったのを瞼の裏で感じ、ゆっくり目を開く。


 そこには神がいた。


 近付いてはいけない。触れてはいけない。見てはいけない。そんな存在感を持つモノがそこにはあった。


 浮き出た血管が脈打ち、赤く熱った体が蒸気を上げている。体を覆っていた電流が周囲に渦巻いていた。


 熱い。いくらか気温が上がった様に感じる。


 近寄っただけでも感電しそうだ。触れただけで火傷するかもしれない。


「神界の肉体を現世に降ろすには、後を引く大きな代償を払う。貴様等のせいでここまでしなければならなくなった。私の邪魔ばかりしおって」


 鬼神は憤怒の表情で僕等を睨み付けてきた。


 背中に冷や汗が流れる。


「私ももう引き返せん。貴様等には暴虐の限りを尽くして地獄をみせてやる」


 瞬きをした。


 緊張から少しだけ長い瞬きだったかもしれない。


 離れた所にいたはずの鬼神が僕の目の前に立っていた。


「あっ」


 僕は声にもならない声を上げる。


 反射で、無意識に体内のAPが加速するのを感じた。次の瞬きをする間もない。人の頭程もある大きさの拳が僕の胸を打った。





「かはっ!」


 全身を襲う激痛で目を覚ました。


 痛い。何か起こっている? のたうち回りそうになるが、体が全く動かない。痛みで思考もまとまらない。


「あ! じっとしててください! 戦神様が目を覚ましました!」


 ソフィア王女が僕の胸に光る手を当てて何かしている。


「ここまで酷いと短時間では私の回復魔法は気休めにしかなりません。動かないでくださいね。自分の体とか見ちゃだめですよ!」


 その台詞って自分の体がグロいことになってる時に言われるやつじゃん。きついなー。


 頭すら動かせないから見れないけどさ。


 それで、何かあったんだっけ?


 疑問に思っていると、エーテルが頭の上から僕の顔を覗き込んでくる。


「ごめんなさい清人さん。全部私のせいだ」


 状況がよく分からないがエーテルが謝ってくるなんて珍しい。


「この世界に飛ばされる事になったのも、回避する方法はいくらでもあったのですよ。私が不注意だったせいで、あなたに大怪我を負わせてしまいました」


 そんなことか。彼女がしおらしいと調子が狂う。


 怪我程度なら女神の涙で…………そうだ。思考がまとまらなくて、こんなことにも気づかなかった。


 女神の涙を使い傷を治す。体内のAPが空になり気怠さに襲われる。激痛よりは遥かにマシだ。


 頭が回るようになり、直前の出来事を思い出す。そっか……鬼神に殴られたのか。


 身体強化間に合っていた気がするんだけどな。その上でここまで致命的なダメージを受けてしまったのか。ソフィア王女の回復魔法が無ければ、このまま目を覚まさなかったかもしれないな。意識がないと女神の涙も使えないしね。


 能力一回分のAPだけを残し、蓄積されたAPをネックレスから抽出する。


 体内にAPが戻り、気怠さも取れる。だが、今日使える能力はあと一回。


 まあ充分なんだけどさ。


「どれくらい僕は寝ていた?」


「五分位ですかね」


 それだけか、あとの祭りって訳じゃなさそうだ。


「日向さんは?」


「鬼神のサンドバッ…………鬼神を相手に奮闘しています」


 ……早く助けに行こう。


 上体を起こしエーテルを見ると、服が擦り剥けた様に裂け、頬には痣ができ、頭から血を流していた。


 どう見ても重症だ。


「頭から血が出てるぞ?」


「え? あー……はい。最近の流行りなんですよ」


「もう少し上手に誤魔化せよ」


 随分とアグレッシブな流行りじゃないか。


 ここにも鬼神が来たのか? その割にはソフィア王女なんかは無傷で何とも無さそうだが。


「戦神様が凄い勢いで飛んで来るのを受け止めようとしてました。当然勢いを殺しきれるはずが無く、一緒に数十メートルは転がってましたよ。おかげで戦神様もギリギリ無事でいられましたね」


 エーテルの代わりにソフィア王女が答えた。


 彼女のおかげで僕は助かったのか。そんな無茶するタイプじゃ無いだろうに。


「らしく無いことするね」


「そうですか? 昔から私はあなたに尽くしてるつもりですけど」


「そんなに付き合い長くないだろ。見せてくれ……傷を治すから」


「嫌です。鬼神がまだ生きているのに、あなたの力を奪うようなマネ出来ませんよ」


 今日はえらく殊勝じゃないか。


 事実、この世界での失敗は基本僕が悪い。今回だって油断しすぎてた僕のせいだ。適当な言い訳をして戦いから逃げ回っていたのも自分の意志だ。


 僕はついさっきまで鬼神の悔しがる顔が見たいだとか思っていたような人間だぞ?


 エーテルが謝る必要は無いのである。


「わかった。じゃあすぐに倒してくるから少しだけ待ってて」


「はい、少しだけ待ってあげます」


 いつもの様にいたずらに笑う。


 エーテル達を背にして戦場に戻る。


 さて、使うのは久しぶりだな。加減せずに壊すだけの戦い方は怪盗らしくない。


 だから、今は戦神っぽい戦い方をしようと思う。


「APデュアルアクセル」


 体内のAPが爆発する。



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