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鬼の神−2

【夢川清人】


 ひえっ……何だこれ。怖いんですけど……。


 周囲に焦げ臭い匂いを漂わせる戦場で、僕は倒れた勇者達を回収しようとしていた。


 マーリム爺や王女達は離れたところに避難させている。


 戦場に戻るのは不本意だったのだが、倒れた勇者達を避難させた方が良いのでは? とリリィ王女が言い出し、皆が賛同し、当然の様に僕が派遣された。


 納得出来なかったが、お前いつまでここにいるの? って目で凄まれては小心者である僕に抗う強さは無い。


 地面を転がる黒い物体をつんつんと指でつつく。


 …………反応がない。ただの屍のようだ。手遅れのようだ。


「ふぅー。埋めるか……へぁっ!?」


 ビクッと黒い物体の一部が動き、ギョッとした僕は情けない変な声が出た。


 究極のAP装置、女神の涙を使うと大量のAPを持っていかれる。それほどAP量を持って無い僕にはきつい量だ。


 女神の涙の光が鎮まると規則正しい呼吸をして眠る勇者が現れた。


 凄いなー。あの状態から綺麗に回復させる女神の涙の効果もそうだが、あの状態で生きていた勇者もだ。


 埋めなくて良かった。


 ちなみに勇者回収員の僕には関係ないことだが、すぐ隣では日向さんと鬼神が尋常ではない攻防を交わしている。


 聖剣と棍棒がぶつかり合うたびに空気が震え、木々がざわめく。


 もう人間の戦いじゃない。鬼神も気づいたらなんかでかくなっているし、日向さんももう人間とは思えない。


 だってそうだろう。あの巨大な棍棒を振り下ろされて受け止められる意味がわからない。


 僕だったらぺしゃんこになってそう。


 しかも既に鬼神の片手切り落としてる。普通に勝ちそうで笑える。


 いつの間にか人外レベルがカンストしてますね。


 現状で日向さん以外の勇者では鬼神に手も足も出てなかったから、実際この世界は滅んでいたようなものだ。


 本来僕らの代わりに来るはずだった勇者もそんなに強そうに見えなかったからね。


 運が良かったのか悪かったのかそれもこの勝敗しだいだ。


「危な!」


 鬼神の放った雷撃を日向さんが回避したせいで、僕の方に雷撃が迫る。冷や汗を流すも片手を前に突き出し、能力で電気を分解してやりすごした。


 いつ巻き込まれるか気が気でなかったが、黒い物体となった全ての勇者を回収しても彼らが僕に気付くことは無かった。


 とりあえず皆ちゃんと生きていてくれて安心だ。


 なぎ倒された木々を追っていくと、勇者カイルの元にたどり着く。


 彼は息も絶え絶えに大きな岩に背中を預け座っていた。意識があるとはタフな勇者だ。


「君か……情けないな僕は」


 僕が近づくと、カイルは自虐的になる。


「君らが鬼王を倒して手柄をたてていく中、僕ら他の勇者はこの世界の為になることを何一つできていなかった。挽回しようと思ったのだけど、結局このざまだ」


 黒焦げになった他の勇者に比べたら奮闘したんじゃないかな。後、僕は鬼王と戦っていない。


「もう終わりだ。あんなバケモノ、人間にどうにかできる相手じゃない。僕の世界にいた邪神が小者に見える」


「確かにおっかないバケモノだけど、油断しなけりゃどうとでもなるんじゃないかな」


 日向さんもいつまで遊ぶつもりなのかわからないが、バケモノなんかが最終的に人間に勝つ事などできないのだ。


 人間に倒せない相手などいない。


 それは、歴史が語っている。この世に転がっているどんな物語だって人外相手に最終的には人間が勝つのだ。それが世の摂理。


「君は倒せると言うのかあの鬼神を……戦神である君になら可能だと言うのか?」


「それはどうだろう。戦いたくはないなー。なんか怖いし。でも日向さんが倒してくれそうだよ」


 僕は戦神でも何でも無いのだが、勇者にも広まってたのかい。


 ソフィア王女あたりが言いふらしてたんだろうな。騎士団の連中なんかも怪しいか。


「こんな時でも緊張感が無いのな。それだけ余裕だってことか……それで、君は何をしにここまできたんだ?」


「王女達に頼まれて君を回収しにきた」


「そうか、でも放って置いてくれ。骨が折れてる。そして臓器も損傷している。どうにか意識は保っているが……動けるほど軽傷には見えないだろ?」


 そうだよなー。普通だったら入院するレベルの重傷なんだよな。だが喜べ。僕には普通ではないアイテムがあるのだ。


 彼にも女神の涙を使用し傷を治してあげた。そろそろ本当にAPが切れそう。


 重傷に見えた傷がみるみる治っていく様にカイルは驚いている。


「少し休めば自分で動けるだろうから、そしたら王女達と避難してよ。僕は少しやることがあるからさ」


 他の勇者と違って彼には意識がある。僕がわざわざ抱えて運ぶ必要はないだろう。


「何でもありだな」


 カイルは弱々しく笑った。


 彼を後にし、僕は再び戦場に戻った。


 日向さんと鬼神は相変わらず激しくぶつかり合っている。


 全ての勇者を避難させた事で僕のミッションはクリアしている。だから戦場に戻る必要は無い。


 必要が無いのだが、僕にはどうしてもやりたいことがあった。


 うずうずしてこの衝動を抑えることができない。そのせいで危険な戦場に戻って来てしまったのだ。


 僕は忍耐強い人間だと自負しているが、我慢できるものとそうでないものがある。


 鬼神の持つあの巨大な棍棒……皇棍雷神と言っていたな。


 神に作られた武器は絶対維持の特性を持ち、この世が滅んでも傷一つ付かない。


 そんな風に鬼神は自慢げに語っていた。


 まあ結論から言うと、その皇棍雷神さんを僕の能力で灰に変えてしまいたい。


 正直僕の能力が神の武器に通用するかはわからない。おそらく無理だろう。でもそれはやってみなければわからない。


 鬼神が自慢げに振り回すあの皇棍雷神さんをしれーと灰に変えてしまったら、そんなことをしてしまったら、彼はどんな反応をするだろうか。


 絶望に打ちひしがれるだろうか、それとも激昂して襲って来るだろうか。人間みたいに驚いて目をまん丸にするだろうか、その反応がどうしても見たい。


 僕は他人が大切にしている物ほど奪ってしまいたい性分なのだ。怪盗だから仕方ないよね。


 絶対に押すなと言われると押したくなるあれと同じだ。


 違うか。


 激昂して襲って来たら、たぶん僕は死ぬだろう。好奇心が人を殺すとはよく言ったものだ。


 僕はこの衝動を……欲望を満たす為に命をかけることにした。


 ゆっくりゆっくり後ろから鬼神に近づく。隠密行動は怪盗のデフォルト技術だ。気づかれるようなヘマはしない。


 鬼神に夢中になっているとはいえ、正面に向かい合っている日向さんが僕に気づいていないのは、本当に目ん玉がついているのか疑いたくなる。


 手を伸ばせば届く距離でタイミングを見計らう。


 次の瞬間鬼神は皇棍雷神を頭上に振り上げた。上から日向さんを叩き潰すつもりだろう。


 最大のチャンスだ。


 僕は振り上げられた皇棍雷神に背後からピタッと触れ能力を発動した。


「エフェクト」


 鬼神の手元から棍棒が消え、頭上に灰が舞う。


 僕の能力が神の武器にも通用してくれた。


「ヨシ!」


 僕は思わず指をさし勝どきをあげる。


 ここ半年で一番嬉しい。


 鬼神は腕を振り下ろすが、手には何も持っていない為に当然空振る。


 それは、鬼神の最大のスキとなった。


「ヨシじゃねえ! でもナイス!」


 日向さんの上段から斬り下げられた聖剣が鬼神を縦に真っ二つにした。


 地面に崩れ落ちる鬼神の肉体。


 なんてことしてくれるんだ。まだ反応を確認して無かったのに。鬼神の悔しがる顔を見たかったのに。



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