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鬼の神−1

「逃げる必要がどこにある! 体さえ動けばあんな奴など斬り伏せてやる」


 勇者カイルは少年に向かって剣を構え向かっていく。神殿で僕らに絡んできた勇者だ。


 僕はまだあの少年が鬼神だということに半信半疑だった。本当に剣を向けて大丈夫なのか。


 ただの生意気なガキだった場合取り返しがつかない。


「どうなっている? 本人のみならず有象無象の縛りも解かれている。異界の呪具でも持ち込んだのか?」


 少年は迫るカイルに目もくれず独り言を呟いている。


 それは綺麗な剣閃だった。流石は勇者なだけはある。剣の軌道を追うと首を切断しようとしてるのがわかった。首に迫る剣に対して、少年は翔ぶ虫を振り払うかのように腕を振るう。


 カイルが振るった剣は少年の腕に半分ほど食い込み止まった。


 どう考えても普通の人間が、あの細い腕で剣を受け止められる訳が無い。周囲の人間が少年を鬼だと確信した瞬間だった。


 僕は隣の勇者マーリムの様子を確認した。未だに呼吸を乱しへたりこんでいる。


 ごめん。止めてあげたら良かった。まさか無理やり踊らされているとは思わなかったんだ。


 何故か僕は自由に動けたから気づけなかった。は! もしかして、これも鬼神の策略だったのか? なんて狡猾な奴だ。


「僅かとはいえ、私の体に傷をつけることができるのですか。大きな力は感じませんが、あなたも勇者の一人でしたか」


 少年は……いや、鬼神は反対の手でカイルの剣の刃を掴み、それを素手で握りつぶした。


「バケモノめ!」


 カイルは悪態をつき、眩しい炎を右手に纏わせる。その拳を鬼神の顔面に殴りつけた。少しのけぞっだもののほとんどダメージを与えられた様子はない。


 鬼神は接近したカイルの首を掴み、宙に持ち上げた。足をバタつかせ必死に抵抗するが鬼神の力は緩まない。


 首が潰される嫌なイメージがよぎり僕もAP装置を出力させようと構える。僕が刃を顕現する前に、鬼神に接近した日向さんが聖剣で鬼神の腕を切り落とした。


 カイルは鬼神の手から解放され、咳込みながらも距離を取ることができた。


 他の勇者達も鬼神の前に立ち塞がりカイルとの間に壁を作る。


 一太刀で切り落としたところを見ると、日向さんもそこらの勇者よりは既に強くなっているらしい。


「逃してくれそうにないか。戦える勇者以外は可能な限り離れろ! 急げ!」


 日向さんの号令で王女達は鬼神に背を向け走りだした。僕も勇者マーリムを抱え共に逃げ出す。


 鬼神なんてヤバそうな奴は勇者に任せてしまえばいい。命は大事にしないと。


「なんでお前が逃げるんだよ!」


 日向さんは僕に向かって怒鳴る。


「動けない勇者マーリムを避難させないといけないでしょ!」


 もっともらしい言い訳を伝え迷わず背を向けた。





【日向 真】


 俺は走り去っていく清人の後姿を見ながら引き留めるか迷っていた。


 非戦闘員を守る為にも王女達についていてもらった方がいいかもしれない。考えている間にも清人は離れていくので選択の余地は無くなってしまったが。


 こっちも今の状態でも攻撃は通っている。勇者達皆で攻めればなんとかなるだろう。


 ただ、腕を切り落とされたにも関わらず余裕を崩さないのには嫌な予感がする。


「ふはは、今回は少し厳しいようだ。この前は変身するまでも無かったのですが。これくらいやってくれなければ楽しめませんね」


 鬼神の体が突然肥大し始めた。


 全長は二メートルくらいまで増え、強靭な筋肉で身体が覆われている。頭には二本の角が生え、体に纏う様に黄色い電流が迸る。切り落としたはずの腕も元に戻るどころか、更に強靭なものとなる。


 少年の姿は見る影もない。誰が見ても鬼だとわかる姿になった。


 天には雷鳴が轟き、暗雲に覆われる。


「人間相手にこの姿になったのは久しぶりです。遠い昔を思い出す。……さあ、今度こそ。今日をもって人類の希望は潰えるのです」


 変身した鬼神が天に手をかざすと、雲の亀裂から棒状の物が高速で落下し、爆音と共に地を揺らす。


 殺傷能力が高そうな巨大な棍棒が地面に突き刺さっている。


「神界の武器、皇棍雷神と呼ばれるものです。神が生み出した武器には絶対維持の特性が備わっています。たとえこの世が滅びようともこの武器にはヒビ一つ入りませんよ」


 鬼神が棍棒を地面に叩きつけた。周囲に地割れを発生させ勇者達の足場を崩す。


「エフェクトォ!」


 俺は咄嗟に振動操作を発動させ、自分の周囲の衝撃を外に逃して足場を守ることに成功した。


 地割れた溝から雷撃が迸り勇者達を襲った。俺の周囲だけは地割れを逃れた為に雷撃が発生しない。


 光が収まるとカイル以外の勇者は黒焦げになって地に伏していた。命があるかどうかもわからない。カイルだけはどうにかして雷撃を防いだらしい。


 立ち上がるカイルを見て鬼神が動き出す。


 横凪に払われた棍棒を間一髪で避けるが、続けて放たれた鬼神の蹴りを横腹に受けてしまう。骨が砕けるような嫌な音をたて、くの字に体を歪ませ、いくつもの木々をなぎ倒しながら森を転がって行った。


 だた見ている事しかできなかった。こちらを振り向く鬼神を前に身体が竦む。


 全ての鬼王と大量の鬼を聖剣で吸収してだいぶ強くなったはずだが、奴に勝つイメージがわかない。


 すぐにでも行動を起こさなければ取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。それでも勇者達の身を案じる余裕など一瞬も無かった。


 鬼神が目の前に迫る。


 振り下ろされる棍棒を聖剣で受け止めた。衝撃で腕から順次身体が悲鳴を上げていくが、聖剣の再生能力で状態を維持する。


 ぎりぎり速度は追える。力にも押し負けない。絶対に勝てない戦いではない。


 俺が鬼神の一撃を受け止めたのが予想外だったのか、鬼神は目を見開いた。


「お返しだ」


 この隙きを逃さず、俺は地面を踏みしめ振動を増幅させ、鬼神の足場を崩した。


 体勢を崩した鬼神の首を狙い聖剣を振るう。


 鬼神は首と聖剣の間に左手を差し込み剣閃を受け止めようとする。聖剣の一撃は鬼神の左手を切り飛ばし首に僅かな傷を付けた。


 惜しい。もう少しで首を落とせたのに。


 鬼神は高速で俺から距離を取った。俺も無理に追い打ちをするような真似はしない。


「現世に顕現できる魔力が豊満に宿った最高質の肉体だぞ? 何だ貴様は!」


 鬼神の口調が乱れる。


 平常を乱すという事は少なく無いダメージを与えられている証拠だ。


「そうか、貴様が全ての鬼王を葬った戦神か。たかが人間だと思って侮っていた。よくもやってくれたな。あれだけの鬼王を作るのにどれだけ手間と時間がかかったか」


 鬼神の左手からは血が滴り落ちている。変身した時に腕が再生されていたが、常に再生能力がある訳では無いようだ。


「だが、貴様のような下等生物は幾度となく捻り潰してきた。これからもそれは変わらん!」


 鬼神の猛撃。


 力任せに振るわれる棍棒が次々に襲いかかる。


 振り下げられるものを受け止めたと思えば、横凪に振るわれる死の一撃。一度でも生身で受けてしまえば再生する前に肉体を破壊され尽くすだろう。


 受け止める度に肉体は悲鳴をあげ、再生を繰り返す。時には回避し時には受け流しても鬼神の猛撃は止まらない。


 反撃をする余裕が全く無かった。


 魔力を消費し疲労も回復するが、鬼神も疲労を感じている気配がない。このままではジリ貧だ。


 どうして俺がこんな辛い戦いをしなければならなかったんだ。ふざけて聖剣に触れてしまった時から全てが狂った。



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