碧き閃光放つ奇跡の戦神
【日向 真】
鎖髪の鬼王を倒した俺は、リーナ王女をその場で少し休ませることにした。ここはリーナ王女の転移ポイントのある城門だ。
二匹の鬼王の魔力を吸収したばかりの俺の体は、激しい戦いの後だったにも関わらず絶好調。尽きないエネルギーが体の奥から湧き出てくる。
今なら他の鬼王を相手にしようとも、互角以上の戦いが出来るだろう。
……たぶん。
ここで清人を待っているつもりであったが、俺が充分に戦える状況だ。少しでも手助けするべきだろうな。
「動けるか? 待っているのも落ち着かないから、清人のもとに行こうと思っているのだが」
「清人ってあなたの従者よね? 大丈夫なの彼? 鎖髪の鬼王が、ここに他の鬼王を招いてるって言っていたわよ」
従者ではないのだが……、この世界に勇者として召喚された俺と共にやって来たものは皆、俺の従者扱いになるらしい。
「俺よりも強いからな」
「それは流石に嘘よね?」
見ていただろうに、三ツ目の鬼王の悲惨な惨状を。俺達が手に負えていなかった鎖髪の鬼王と同列の存在が命乞いをしてきたんだぞ?
清人が瀕死まで三ツ目の鬼王を追い込んでくれたおかげで、俺はそいつを聖剣で吸収し、鎖髪の鬼王にも勝つことができた。
だが、不思議なことにあいつって軽んじられがちなんだよな。強者特有の覇気ってのが無い。
あいつと敵対した奴はほとんどが侮ってぼこぼこにされている。端から見ている俺からしたら、ただ面白い光景だ。
リーナ王女が立ち上がったのを確認して、俺は城の方へ歩きだした。
「騎士団一同、戦神殿の剣になるなどとおこがましいことは申し上げません! ですが、命ある限り戦神殿の盾となり、命を散らす覚悟はございます!」
「そんな覚悟いらないからね」
「どうか戦神殿の力で、鬼神の首を討ち取ってください!」
「いや、無理です。戦神じゃないし」
崩壊した城の壁から中を覗くと、そこには異様な光景が広がっていた。
騎士団長と思われる人物を筆頭に、百人近くの騎士の格好をした者達が清人を前に跪く。清人の頭の上に器用に乗っているフェンはどこか偉そうだ。
鎖髪の鬼王を倒した影響か、人間に付けられていた首輪は全て解除されたようだ。
顔を引きつらせている清人を見て、たまらず俺は失笑してしまう。
「楽しそうだな戦神様」
俺が後ろから声をかけると、ビクッと体を震わせて振りかえる。この実力と伴ってない臆病さも清人の面白いところだ。
「日向さんか……楽しくないよ。もう何がなんだか。それと戦神様はやめてください」
清人は困った様子で返す。
「戦神ってあの伝説の? やっぱりそんな強そうには見えないわね」
俺の隣でリーナ王女は不思議そうに言う。
いったい何をやらかして戦神などと呼ばれているのかは俺も気になっていた。後でからかうネタにしてやろう。
「リーナああ! あなたって人は戦神様になんてことを言うの! 謝って! なんて失礼なことを! 絶対に許さないからああ! 土下座しなさい!」
突然俺とリーナ王女の間に割り込んできた少女が、鬼気迫る表情でリーナ王女の両肩を掴み前後に揺さぶる。
なんだこのヤバい少女は、まるで狂信者だ。
「ええっ? どうしたのソフィア? ちょっと痛い! 助けて!」
少女をよく見れば、天井が崩壊した時に一度だけ顔を見たのを思い出す。清人が救出したソフィア王女だ。
リーナ王女は俺に助けを求めるが、ソフィア王女の勢いに足がすくむ。
「ねえ! 戦神様の気が変わったらどうしてくれるの!もっと考えてからものを言いなさい! それともあなたが代わりに鬼神を倒すっていうの? 出来ないのなら、さっさと謝って!」
「ごっごめんってば! お願いだから許して」
「違うでしょ! 私にじゃないよね? それに土下座でしょ!」
涙目になったリーナ王女は大人しく土下座し、清人に向かって頭をさげた。
「ひぐっ、申し訳ございませんでした」
なんだこれ。
非常にいたたまれない気持ちになる。見てるだけなのに辛い。
リーナ王女ってこの国の王女だろ? こんなことさせて騎士団の連中は黙って無いのではないか?
恐る恐る騎士団長の顔を覗けば、うんうんと頭を頷かせ黙って見守っている。
どうやら、この国では戦神様相手になら王女を土下座させてもいいらしい。
俺もこいつらの前では清人に余計なことを言わないようにしようと心で誓った。
ソフィア王女はその姿を見て、満足そうに頷く。
「リーナもこうして反省しております。戦神様……どうか命だけは許してやってください」
「君は僕を何だと思ってるの? 災厄かな?」
だろうな。そもそもリーナ王女の言葉くらいで清人は腹など立てないだろうし。ここまでしたのもソフィア王女一人の暴走だ。
「鬼神と戦うとも言ってないよね? 鬼王ですら相手に出来るかわからないのに」
「大丈夫ですよ! 戦神様は今までのようにその辺の鬼と戦っているだけでいいのです!」
「それでいいの? それくらいならまあ……」
二人の会話に違和感を覚える。
何を言っているんだ? 鬼王なら既に戦っているだろう。それに、俺に倒せているのに清人が相手に出来ないとかなんの冗談だ。
「お前さ、鬼王なら既に……」
ソフィア王女と清人の会話に口を挟もうとしたら、恐ろしい目でソフィア王女に睨まれる。
怖いんだが。
「日向さん何か言った?」
「いや……せっかくだからお前が倒した鬼を聖剣で吸収してくるわ」
「それなら僕が案内しますよ」
「戦神殿の手を煩わせはしません。ここは私が案内いたしましょう」
騎士団長が俺に同行してくれることになった。
城内には大量の鬼が転がっていた。どこからこんなに涌き出てきたんだか。フェンが引き連れてきたとか言っていたな。
「なあ、騎士団長さん。一つ聞きたいことがあるんだが」
「ロイルとお呼びください勇者どの。私に答えられることなら何でも答えましょう」
騎士団長ロイルは清人の仲間である俺にも敬意を表してくれる。
「これって鬼王だよな」
俺は異形の鬼の死体を指差す。
「ですな。ソフィア様を救いだした時の一匹だそうですぞ。もう一匹いたようですが、戦神様の奇跡で蒸発したと聞きます」
ここだけで二匹か。
巨大な口を持つ鬼王のそばには強靭の歯の様な物が散らばっていた。あいつ、妖魔には容赦無いからなー。
聖剣で突き刺すと膨大な魔力が体内に吸収されていく。やっぱり鬼王で間違いないらしい。ずるしてる気分だ。
下に降りていくと地面が崩壊している場所まで来た。清人とソフィア王女を初めて見た場所だ。
さっきは気付かなかったが瓦礫の中に異形の鬼がいた。
「あれも鬼王だよな」
「神速の鬼王ですな。目にも止まらぬ速さで迫ってくる奴を、正面から何事もなくかかと落としで沈めたようですぞ」
三匹目。どうしたら生身で石の床をぶち抜くような攻撃が出来るんだか。
ここで最後みたいだな。鬼王の魔力を吸収し引き返す。
三ッ目の鬼も入れたら清人は四匹の鬼王を葬ったのか。後一匹しか鬼王残ってないんだが。この調子だと明日辺りで鬼神も沈んでそうだな。
これ、ソフィア王女は意図的に清人を勘違いさせてるな。
鬼王だか鬼神だとか言うとびびって積極的にならないから、ただの鬼と勘違いさせて鬼王や鬼神を殲滅しようとしてる。
恐ろしい王女だな。いや、勘違いしてる清人が馬鹿なだけか。
清人達がいる場所まで戻ると、先程よりも騒がしい空間となっていた。
「碧き閃光放つ奇跡の戦神だ!」
「そうだ! 碧き閃光放つ奇跡の戦神としか言えない」
「碧き閃光放つ奇跡の戦神にばんざーい!」
騎士達が感動した表情で涙を流しながら、面白いことを言っていた。
清人の奴、今度は何をやらかしたんだ。碧き閃光放つ奇跡の戦神ってなんだ。顔がにやついてしまうのを我慢する。
呆然としているリーナ王女に声をかける。
「何があったんだ?」
「反魔の鬼王が現れたの。全ての魔法が反射して騎士団の誰もが何も出来ずにいたのだけど……」
魔法を跳ね返す鬼王か、この世界にとっては厄介な鬼だな。魔力を使う俺とも相性が悪い。
「あなたの仲間が鬼王に手をかざしたと思ったら、青く光って、鬼王が粉々になっていたわ」
あれ使ったな、チート砲。確かAP波動弾とか言う壊れ技だ。無能力者でも使えると言っていたが、清人以外の人間が使っている所など見たことも話に聞いたこともない。
これで全ての鬼王が散った。




