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蹂躙される王達

【夢川 清人】


 僕は先ほど助けた王女、ソフィア王女と共に城内をかけ上がっていた。


「まだいるの? 疲れたんですけど、早く二人と合流しようよ」


「頑張りましょう! 後ほんの少しです! 戦神様にとって取るに足らない鬼が一匹残ってるだけです!」


 彼女は期待に満ちた目で僕を見てくる。





 ソフィア王女と合流する前。


 牢獄で日向さんと別れた後、僕はひたすら階段を上がっていた。右も左もわからない場所だったが、上へ向かえばその内地上に出るだろうと考えてのことだ。


 一つの階段で上へ行ける構造になっていなかった為に、別の階段を探すのに何度も廊下を走り回ることになった。


 何度か鬼にも遭遇したが、今までの戦いでそれらの戦闘能力は高くないことを知っている。走る速度を落とさずに絆心刀で一太刀のもと葬り去っていった。


 地下から地上に出たことがわかる日の日差しが目に入ってきた頃、パーティー会場のような広い部屋に、複数の人の気配を感じる。


 中を覗けば、体を鎖で縛られた少女が宙吊りにされており、今にも巨大な口を持つ異形の化け物に喰われそうになっていた。


 四足歩行で今までの鬼とはだいぶ姿形が異なっていたが、似たような角が頭部に生えていたので鬼だと判断できる。他の鬼よりも体も一回り大きかった。


 いろんな鬼がいるもんだなーとのんきに感心してしまう。


 嗚咽を漏らしながら命乞いをしている少女を見て、慌てて僕は行動に移った。


 僕は全身のAPを加速させ身体能力を上昇させる。APを扱う者の基本的な技術だ。


「もう我慢ならん! 先にワシが味見をぐほぁっ!」

 

 鬼の目前まで加速し、膝蹴りを開かれた口の前歯に決めた。なんか鬼のくせに流暢に話し始めた気がするけど気のせいだろう。


 吹き飛んだ鬼は壁に叩きつけられ、ずり落ちる。すかさず接近し鬼のマウントを取り、連続で数十発の拳撃を叩き込む。


 鬼の巨大な歯を全てへし折ったあたりでピクリとも動かなくなった。


 異形の鬼ではあったが、戦闘能力は他の鬼とそれほど変わらないだろう。この世界の鬼と呼ばれる存在はそれほど強くない、この事実が僕にとって救いだ。


 少女を気にして振り返れば、部屋中に液体が充満していた。さっきまでこの部屋にこんなもの無かったはずだが。


 それはスライムのように粘着性を持ち、形をうねらせる。


 何だこれ、気持ち悪い。


「それも鬼!」


 少女が叫ぶように僕に情報を告げる。


 マジか、角も見当たらないんですけど。これが鬼なの? 困ったからよくわからんものは全部鬼でいいやとか思ってない?


 スライム状の鬼とかもう妖魔と何が違うのかわからないな。


 床の液体は徐々に体積を増やしていき、僕の足にまとわりついてきた。膝の高さまで部屋を液体で満たしている。


 僕の足を固定して全身を呑み込むようにスライム状の鬼は津波となって襲いかかってきた。


「このタイプの敵って初見殺しだよな。こんな時能力があって本当助かる……エフェクト」


 僕の能力が発動した瞬間、部屋に充満していたスライム状の鬼は水滴一つ残さず蒸発した。


 日向さんに吸収させる為にも残しておいた方がよかったか。


 呆然としている少女を地面に下ろして鎖をほどいてあげる。茶髪で小柄な少女だ。どこか柚美ちゃんに似た雰囲気がある。


「信じられない……一人で瞬く間に二匹も倒してしまうだなんて……凄い! 凄いですよ! 前回なんて勇者7人揃っても一匹も倒せなかったのに! こんな勇者が来てくれるだなんて!」


 興奮気味に少女が詰め寄ってくる。先ほどまで生気を感じない様子だったのに。


「大袈裟な。ただの鬼二匹くらい。それに、僕は勇者じゃないから」


「わかりますよ! 鬼王だろうとそこらの雑魚鬼と一緒だと! 勇者程度と一緒にするなと言うことですね! これは戦神様にとんだ失礼をしてしまいました!」


 何もわかってないようだ。戦神って変な名前つけないでほしい。鬼を倒した程度ではしゃがれたら恥ずかしくなる。


 鬼王なんて化け物相手にもしたくない。


「このまま残りの四匹も倒して堂々と凱旋しましょう! その前にリーナも助けなければなりませんね」


「リーナって鬼王に拐われた王女のことだよね? と言うことは君はソフィア王女なのか?」


「自己紹介も忘れてしまうとは大変失礼しました! ソフィアは私のことです!」


 これは朗報だ。意図していなかったが、拐われてしまっていた王女の一人を助けることができた。そして、もう一人のリーナ王女も近くにいるらしい。


「拐われた二人がいると言うことは、鬼王も近くにいるってこと?」


 背筋が寒くなる。遭遇しないでリーナ王女を救出して帰れるだろうか。


「鬼王ですか? いるっていうか、いたっていうか……」


 そう言い、ソフィア王女は目をぱちくりさせながらさっき僕がぼこぼこにした鬼に目を向ける。


 なにさ? その鬼がどうかしたのか?


「なるほど……いえ、あなたの前に鬼王などと呼べるような存在はいませんでした。この城に残っているのもどれも小物です! 次行きましょう次!」


 何がなるほどなんだろうか、勝手に一人で完結しないでほしい。





 この後、リーナ王女を助けるために再び牢獄に戻ることになった。廊下を走り、階段をかけ下りた。


 廊下の奥から激しい足音が聞こえる。今度はなんだよ。


「クワアア!」


「フェン! お前どこ行ってたんだ! 心配しただろうが」


 僕の相棒のフェンが胸元に飛び込んでくる。感動の再開に喜びたいが、フェンの後ろから鬼の大群が向かって来ていた。


 とっさに僕はソフィア王女を引き連れて横道に入り、駆け足で逃げる。


「フェン……この世界に来てから君は本当に楽しいことばかりしてくれるな」


 嫌味を言ってやる。


「きゃああ! なんですかそれは! なんて可愛い生き物ですか!」


 ソフィア王女はフェンがお気にめしたらしい。可愛いとは思うよ僕も。可愛げは無いけど。


 それにしても鬼に追われている状況なのにずいぶん楽しそうだ。捕まったら喰われるんだよ?


廊下の先は行き止まりだった。逃げ道が無い以上迎え打つしかない。


「APアクセル」


 僕は言い慣れた合図を発音し、槍型のAP装置を起動させ投擲の構えをとる。


「かっ……かっこいい!」


 ソフィア王女は目をキラキラさせ感動してる。


 いちいち恥ずかしいから黙っていてくれ。確かにAP装置を初めて起動させた時は幼い僕も感動したものだが。


 狭い通路の途中で、僕の投げつけた槍は先頭の鬼に当たると、勢いを殺さず鬼を貫通していく。


 このまま全ての鬼を絶命させていけると思ったが、最後尾の鬼が槍を避けるところが見えた。


 その鬼の上半身は他のものよりも明らかに細身で、逆に下半身は倍以上に逞しい姿形をしていた。そして、細く長い角を持つ。またしても異形の鬼だ。


 時折少しだけタフな鬼に出会うな。


 その異形の鬼は素早く左右に体を揺らしながら近づいてくる。他の鬼よりは少しだけ速いかもしれない。


「消えた! 速い! 気を付けてください! あれは神速の鬼おぅーー」


 ソフィア王女が何かを言い終わる前に、僕は目の前に迫った鬼にかかと落としを落とす。


 バキィッと角が折れる音を上げ、地面に叩きつけられた鬼は、衝撃で崩れた床と共に下の階へ落ちていった。


「何か言いかけた?」


「いえ! 知っていました! 戦神様に気を付ける敵などいませんよ!」


 ソフィア王女は元気にそう答える。


 いや、どんな敵だろうが不意を突かれたら危ないから、気を付けて戦っているんだけどな。


 下の階を覗くと、日向さんとソフィア王女の言っていたリーナ王女の二人がいた。既に王女を救出しているとは、さすがは日向さん。仕事が速い。


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