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呪輪の鬼王ー5

 しばらくの間静寂の時間が訪れる。聴こえるのは俺とリーナ王女の呼吸音くらいだ。


 リーナ王女は勝利を確信して油断してしまっているが、まだ鬼王を仕止めきれたとは思えない。


 都合の悪いことから気をそらしたい気持ちはよく分かる。疲労も溜まり、俺自身早く勝利の余韻に浸りつつ気を抜きたい欲求に襲われる。


 だが、生き残るためには最大限の注意を払い続けなければならない。


「リーナ王女! 休んでる暇はないすぐに転移だ!」


 清人とソフィア王女を置いていってしまうことになるが、俺らが死んでしまったら意味がない。戦力を揃え、充分に準備をした上で再び戦えばいい。


「待って、魔力切れよ。少し休めば回復するわ」


 そんなに能力を使っていたようには見えなかったが、強力な能力な分、魔力の消費が激しいのか。最後に大量の水を作らせたのが効いたのかもしれない。


 休める程の猶予が残っていればいいんだがな。


 悲観していても仕方がない。少しでも時間の余裕ができた幸運を有効に使おう。この鬼王から逃げきる、もしくわ勝利を掴むにはどうしたらいい。


 ピシィッーーー小さいが良く響く音。


 考える時間すらまともに与えてくれない。俺は大きなため息を吐く。まあ、わかってはいたが、ここからが第二ラウンドだ。


 リーナ王女は腰を抜かして立ち上がることもできなくなってしまった。もう戦力にはならないだろう。


 俺が再び覚悟を決めると同時に、破裂音と共に太くて強靭な右腕が氷を突き破った。


 まだ鬼王の全身が自由になった訳ではない。今がチャンスだ。今なら確実に攻撃を当てることができる。


 俺は超振動を起こした聖剣で鬼王の左腕に全力で斬りかかる。


 だが、予想外なことに全力で斬ったにも関わらず、全く皮膚に傷をつけることができなかった。


 いったいどうなっているんだこいつの皮膚は?頭の鎖よりも硬いってありえないだろ!


 魔力が足りないのか? 初めて鬼を倒したときも、魔力を吸収してからの聖剣の切れ味はその前とは段違いだった。こいつを斬るのに必要な魔力量が今の俺には不足しているというのか。


 だとしたら、今の俺には手の打ちようがない。


 目の前の鬼王に集中していた俺の意識は後方、つまり城の方からの破壊音と振動によって意識を奪われる。振り返ってみれば、風穴の開いた城の壁が目に入り、高速でこちらに飛来してくる何か。


俺は咄嗟に飛来物を横に飛び込むようにして回避した。


飛来物は鬼王を捕らえている氷のドームをかすり、鬼王の右腕を吹き飛ばした。そのまま勢い衰えず城門に突き刺さる。


 動きを止めた飛来物だった物を注視すれば、俺が今まで相手にしていた鬼王と大差ない体躯を持った鬼だった。長い爪に巨大な目玉を三つ持つ異形の存在。一目見れば、こいつもそこらの鬼とは異質の存在だとわかる。


 二匹目の鬼王が俺の前に現れる。


 絶望的な状況。そう、普通なら絶望しかないこの状況でも、俺は今日一番で安心した。


 三つ目の鬼王の腹部には巨大な大剣が突き刺さり、それが城門に鬼王を貼り付けにしていた。強靭なはずの肢体には十数本もの槍型のAP装置が突き刺さったままになっている。


 満身創痍の三つ目の鬼王が城門に貼り付けにされ、身動きが取れなくなっているこの状況で絶望する理由がない。


 誰がこれをやったかなんて俺にとっては明白だった。


 ここまで遠いのかあいつとの距離は。俺よりも若いのにいったい何をすればここまで強くなれるのか。聖剣だって持っていないくせに。


「ごめーん! 一匹鬼逃がした! 日向さん止め刺しといて!」


城の中から大声でこちらに呼び掛ける危機感のない清人の声が聴こえた。


逃がしたって風には見えないが、放って置いてもそのうち死にそうなんだが。


「待て人間……我を見逃せばお前だけは生かしてやるように鬼神様に取りはからってやる! 人間は確実に滅ぶ、鬼神様には何者も敵わんぞ!」


 この異世界で一人だけ生かされてもそれはそれで困る。


 世界が滅ぶ日に自分だけでも生きていきたいと思う人間がどれだけいるだろうか、ましてやここは右も左もわからない異世界だ。


「悪いな。リーダーの命令は絶対なんだ」


 俺は三つ目の鬼王の額にある目玉に聖剣を突き刺す。鬼王はおぞましい叫び声をあげながら激しく暴れる。


聖剣を引き抜くと鬼王は体を痙攣させ、いきたえた。


 鬼王だったものは黒い煙となって聖剣に吸収されていく。想像以上の魔力量に驚く。ただの鬼から集めていた魔力がカスに思えるほど膨大な魔力を吸収することができた。


 体の疲労や怪我も一瞬で修復される。


 これだけの魔力があれば鎖髪の鬼王とも戦えそうだ。丁度いいタイミングで餌をくれた清人に感謝だな。


「おのれ……よくもワシの右腕を!」


 怒りの形相で俺を睨み付ける鎖髪の鬼王。


 氷のドームに覆われていたせいで外の様子が見えていなかったらしい。右腕を吹き飛ばしたのは俺の仕業だと思っているようだ。


 清人の大剣がかすった衝撃で鬼王を覆っていた氷は全て弾けとんだ。


 完全に自由の身となった片腕の鬼王は大きい歩幅で距離を縮めてくる。一歩で詰めてくる距離が大きいために、すぐに接近を許してしまった。


 俺は振りかぶる鬼王の左腕にあわせて両手で力強く握った聖剣をぶつける。


 鬼王の左腕と聖剣がぶつかった瞬間、お互い衝撃で数メートル体が後方に飛ばされた。


 まだ早かったか。だが、相打つレベルには戦えるようになった。


 慌てて飛ばされた聖剣を引き寄せようとするが、両腕に違和感を感じる。違和感と共にボトリッと二つの落下音。俺の体から離れた両腕が地面に落下した音だった。


 あっ、これ死んだわ。


 吐き気を催し思考が止まる。働かない頭で無意識に両腕を拾い上げた。


 ……何故か両腕を拾い上げることができた。


 手元を見れば、新しく生えている俺の両腕。


 完全に人間やめちゃったなー。


 どうやら聖剣の復元機能で一瞬で両腕が再生されたらしい。


「がああっ! 右腕だけでなく左腕までも! 殺すっ、絶対に貴様は殺す!」


 俺は両腕を犠牲にして(再生済み)鬼王の左腕を斬り飛ばすことに成功していた。


 鎖髪の鬼王は両腕を失ってもなお激しく憤る。


 これが最後だと言わんばかりに鬼王の鎖が襲いかかる。鞭のようにしなる鎖は触れた地面を大きく抉る。


 当たれば只ではすまないが、能力が強化されたことによって研ぎ澄まされた感覚が四方から襲いかかる鎖の位置を動きを正確に把握する。


 最小限の動きで避け、最小限の動きで切り裂く。


 そして少しずつ鬼王との距離を詰めていく。


 後少し……後少し……今だ!


 聖剣による全力を乗っけた剣閃……


 聖剣の軌道の後には首が落ちた鬼王の胴体が残った。


 数秒遅れて聖剣に膨大な魔力が取り込まれてくる。


 やっと勝った。


 今回は本当に死んだと思ったが、意外となんとかなってしまうものだな。


「信じられない。一人で鬼王を倒してしまうだなんて。あなたがいればきっと鬼神も本当に倒せる。史上最高の勇者よ!」


 リーナ王女は嬉々とした顔で俺を誉め讃えてくれた。称賛は素直に受けとりたいが。


「それは俺の役目じゃなさそうだがな」


 俺は風穴の開いた城の方に目を向ける。そこには静寂があった。清人の戦いも既に終わっているようだ。


 鬼王を越えた存在だといわれる鬼神の相手なんて俺には荷が重すぎる。こんな戦いもう懲り懲りだ。

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[一言] 更新再開……? やったぁぁぁ
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