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模擬戦闘大会ー4

 私が控室に入る前から雪落さんは中にいたが、会話には参加せずずっと黙ったままだ。私もここまでくると何も話しかけたらいいかわからなくなる。


「大丈夫ですよ。試合にはちゃんと勝ちますから」


 私の心配するような視線に気づいたのか、雪落さんは力なく微笑み返してくれた。


戦力として期待はしているが無理だけはしないでほしい。色々と辛いことがあるなら、休んでいてもかまわない。私の我儘で強引に試合に出す気は最初からないのだから。


『まもなく第二試合が始まります。選手の皆さんは入場してください』


「さっさと雑魚どもを蹴散らして、清人先輩を叩き起こしにいきましょう!」


「柚美ちゃん! 周りの人が睨んでるから、そういうのは心に留めておいてくれ」


 控え室には私達と戦うチームの人達もいるわけで、柚美ちゃんが雑魚どもと言ったことも当然聞こえている。私達に向かって殺伐とした視線が向けられ、試合での最初の標的に選ばれてしまったのだと私は確信した。


 フィールドに入ると、観客の多さから忘れかけていた緊張が襲ってくる。


 私達のチームが優勝候補の一つとして期待されていたのが原因か、観客から多くの視線が注がれているようだった。そんなことも関係なしに、柚美ちゃんは平然として位置についた。その余裕が羨ましい。


「みんな遅いじゃないか。気が弛んでるんじゃないのか?」


 フィールドには私たちよりも先に清人君が待っていた。なんで彼がここに?


「先輩! 保健室に行ったんじゃなかったのですか?」


 清人君を視界にいれた柚美ちゃんはダッシュで彼の前まで駆け寄り、疑問を口にする。


「それは遥か五分前の僕の残像だ」


「何馬鹿なこと言ってるのよ」


 彼の意味の無い返答に雪落さんがバシッと彼の頭をはたく。


「これくらいの軽口いつも笑ってくれるのに……」


 彼は寂しそうに呟いた。


「保健室に行ったら、模擬戦の参加者以外今日は利用できませんって言われて帰ってきた。この学校の厳しさを身をもって知ったよ。さすがは名門校だけある」


 それはたぶん彼が、見るからに冷やかしだから適当な言い訳をして追い払われたのだろう。試合に戻ってきてくれたのはありがたいから、保健室の先生はいい仕事をしてくれた。


 色々あったがこれでチームの全メンバー四人で試合に参加することができる。当たり前のことなのだが、とてもうれしく感じる。


「さて、作戦会議という程のことではないが、気を付けてもらいたいチームが二つほどある」


 私は気持ちを切り替えて四人の仲間の注目を集める。


「一つはたまたま一年生のAクラスだけで組まれたチーム。つまりは特待生の四人で組まれているチームがあるから注意してほしい。彼らについては私よりも同じクラスである柚美ちゃんの方がよく知っていると思う」


「そうですね。一人だけ槍型のAP装置を巧みに操る奴がいますが、面倒くさい奴なので先輩方に任せます」


「え? それってどういうことだい?」


「会えばわかります」


 もっと具体的に相手のことについて聞きたかったが、柚美ちゃんは言うことは他にないらしく、口を閉ざした。情報が少ないのは少し不安だな。全員が一年生だというのが救いだが油断することはできない。


 仕方がないから話を先に進める。


「もう一つは双子の兄妹で、元々連携をとった戦い方を得意としていて熟練した攻め方をしてくる。チーム決めはランダムのはずだが、こういうこともあるよ」


 このチームの対策としては二人を分裂させるのが一番有効だろう。情報だけ与えれば皆勝手に判断して最善の行動をしてくれるだろう。


 私たちのチームはお互いの能力の相性が良いというわけではないので、それぞれが自分の戦いやすいように戦うということで話はまとまっている。


 私もみんなの実力を信じているので何も心配はしていない。


 ここで試合開始の合図が鳴り響いた。


 そして試合開始から数秒もかからずに、一つのチームが全滅した。


 柚美ちゃんが能力を発動し、敵チームの背後から実体のある分身が、短刀型のAP装置で確実に急所を狙い連続で二人をフィールドから弾き飛ばし、残った二人は雪落さんによって地面から生成されたつららのように鋭い氷の刃に襲われる。


 鮮やかで素早い流れるような二人の動きに、まともに対応できた人間はいなかったようだ。


 一つのチームが一瞬で蹴散らされて、他のチームの警戒が強まった。全てのチームの敵意が私たちに向く。


 思ったよりも私に向けられる敵意が少ないと思ったら、試合に参加している男子生徒のほとんどが徒党を組んで清人君一人を追いかけていた。


「だから仕方ないじゃないかああ!」


 当の清人君は叫び声をあげながらフィールドを逃げ回っている。理由はわからないが清人君は男子生徒達の恨みを買うような何かをしてしまったのだろう。


 あの気迫迫った男子達を相手にするのはいささか怖い。彼らは清人君に任せてしまおう。


 男子生徒がいなくなったせいで人数が半分ほどとなった他の二チームが、左右から挟み撃ちを仕掛けてきた。


 片方を柚美ちゃんに任せ、私は剣型のAP装置を顕現させる。


 向かってくる敵に対して強風で動きを制限し、風の強弱で敵のバランスを崩し、剣撃でフィールドから弾き出した。この方法だとAPの消費が少ない。主に剣で戦うため、能力者同士の長期戦にも向いている戦い方だ。


 同じ方法で二人までは楽に倒すことができたが、三人目は簡単にはいかなかった。


「エフェクト!」


 鉄の塊が敵の正面を囲い、私が起こした風が鉄に阻まれる。私が回り込もうとすると、私の動きに合わせて鉄の壁が移動する。


 相手は能力者だ。


 私はこの段階で接近することを諦めた。敵から少し距離をとり、敵の頭上に意識を集中させる。同時に私も接近して剣型のAP装置で斬りかかる。


 能力のコントロールはまだ上手くできないらしい。私の剣を鉄で防いでいる間、頭上がおろそかになった。鉄の壁が生成される前に剣撃を止めないまま頭上から強力な風を吹かせ、敵を押しつぶした。


 敵は全身を地面に打ちつけてフィールドから弾かれる。


 やはり能力者が相手だと消費するAPの量が違う。後半の試合のために、なるべくAPを温存したいのだが。今の相手はまだ能力が上手く扱えないようだったが、これからはもっと厳しい戦いになってくる。


 周囲に敵がいないことを確認して息を整えてから、私は他の仲間の戦いの状況を確認することに努めた。

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