前兆その2
城下町。
それは、数々の商人たちが自ら仕入れてきた品物を売って競い合う、言わば銭の戦場だ。
ここで売れなかったものは我が城に納品される。
中にはとても市民の買えるものではないような立派なものまでやって来る。
それらは城下町で屋台を出したり家を維持するのに必要な納税の代用なのだ。
代用とはいえど、毎回の納税額に見合うものでないと当然懲罰の対象となるため頻繁に持ってくるものは数少ない。
また、俺達の食事のほとんどがそのような納品物で賄われているために買い出しという行いはほとんど無いものだから、今日のように城下町をぶらつきに来ることは俺にとってはささやかな楽しみでもあった。
そして俺はそんなひとときに足を踏み入れたのだ。
「ひっさしぶりだなぁ~。いったいここに来たのは何ヵ月ぶりなんだろうな。おっと、おやっさんじゃないか!」
城下町に入り、数歩歩いたところでマーケットボードの確認中の鍛冶屋のノベルこと、おやっさんを発見した。
「おお、マルクスじゃあねぇか!何年ぶりかの再開だな!」
「いや、半年前に会ってたろ?」
「嘘つけぇ。半年前つったら俺ぁ鍛冶屋初めてばっかの時だな?」
「だーかーらー、そん時に挨拶に行ったんだよ」
「あぁ、そいやそうだったわ~」
ハッハッハと豪快な高笑いをかましてくれるおやっさん。
まぁこれも俺達にとってはいつもの事だ。
半年前というと、おやっさんが漁師をやめて突然鍛冶屋を開いたとしであり、俺が騎士養成学校に入学した年でもある。
そう、今も俺はバリバリの騎士候補生であり、未成年だ。
では何故、騎士候補生並びに未成年の俺が国王という座に就くことが出来るのか。
話は百年ほど前に遡る。
当時『サンクレア・アルトバルン』国は二つの中規模国家に別れており、それぞれが国として機能していた。
特にこれといった争いはなく、むしろ友好的な関係を築き上げていたと言ってもいい。
が、百年前に未知の病原体が一方の国『サンクレア』に飛来してきたのだ。
たちまちヤツらは『サンクレア』国の国民達に感染を開始した。
その感染の進行速度は大して速いわけではなく、ヤツら自体も飛来して数日のうちに消滅するというものだったがヤツらの力自体は尋常ではなく、人間に対しては感染後二日で死に至らしめる若しくは重度の致命傷を負わせるほどだった。
おかげで、ヤツらの飛来後たった4週間で『サンクレア』全土のおよそ6割がもって行かれた。
『サンクレア』の国王とその一族全てもまた、そのうちの数名だった。
その国王は遺言として、長期間友好的な関係にあった国『アルトバルン』の国王、つまりは俺の祖先にあたる方に『サンクレア』と『アルトバルン』の合併を申し出た。
無論『アルトバルン』国王はそれを許諾、幸い感染しなかった者達を自国に避難させて一時様子を見た。
ヤツらの体力の低さを研究の後に発見し、その数ヵ月後に『サンクレア』にてヤツらの完全消滅を確認し、『サンクレア・アルトバルン』国を形成、今に至る。
最終代『サンクレア』国王の遺言には、もう一つあった。
内容は早々に国王を就任させること。
もしもまた当時のように未知なるものが襲ってきたとき、国王が老いてしまっていては対応しきれないと考えたためだろう。
その遺言も活かされ、平穏な現在でも早々に国王の就任は行われている。
長くなったが、これが我が国の王の就任についてだ。
ここで、おやっさんはある話を持ち出した。
「ところでオメェ、騎士候補生なんだよな?」
「まぁそうだが、何か問題でも?」
「問題ってわけでもねぇんだがそれならそれらしくちっとはいい剣を備えたらどうだ?その腰に下げてるやつはだいぶ年季が入ってるようだし」
と、俺が腰に下げている一本の茶色く滲んだ片手剣を指さした。
「ああ、この剣か。これは祖父の形見だから年季が入ってるが大事に使ってるんだ。万が一折れたりでもしたらその時はよろしく頼むよ」
「おうよ!俺が一級品の物を拵えてやらあ!」
自慢げにガッツポーズをつくるおやっさん。
「んじゃ、俺はこの辺で失礼するよ」
「おう、また来いよ!」
こうしておやっさんと別れた俺だったが、振り向きざまにとある人影を目撃した。
全身を黒のローブで纏った、おそらくは男だろう。
数メートルほど離れていたそいつはうちの護衛兵たちに追いかけ回されていた。
俺は咄嗟にその後を追い始めた。
まるでそいつの黒に惹きつけられるように、直感的に追い始めたのだ。
そいつを追うことで何かが開けると、その時は思っていたのかもしれない。
後に俺がそいつを追ってはいけなかったのだと気づくことになる・・・。
どうも、成瀬トモノリです。
二話目投稿です!
まだまだ本当の内容には掠ってもいない感じです...
が、より面白い内容へと発展させるのはおそらく三話目くらいになりそうなのでそちらも見ていただきたいです!
果たしていつになるのやら...
今後ともよろしくお願いします。