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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終末の魔王はいつか来る日の夢を見る

作者: RIN

 昔々、あるところに魔王がいました。


 魔王は世界を手に入れようと、人間との戦争に乗り出します。


 長い長い戦いが続き、人間はなすすべもなく、土地を奪われていきます。


 そんな中、人間を哀れに思った神様が一人の人間を遣わします。


 勇者の誕生です。


 勇者は、その魔族にも魔王にも劣らぬ強さで、奪われた地を次々に取り戻していきます。


 そして、ついに、勇者は魔王との戦いに挑みます。


 拮抗する力。


 戦いは何日にも続きます。


 2人は力をほとんど使い果たしていましたが、最後の力を使います。


 大きな大きな力のぶつかり合いは、世界を光で包み…。



 光がおさまった時、その場だけでなく、世界に生き残るものはいませんでした。


 最後の大きな力のぶつかり合いは、世界を木っ端みじんに吹っ飛ばし、魔王と勇者だけでなく、世界中の生き物を死滅させたのでした。



 こうして、長きに渡る戦いは終わり、世界に争いは無くなったのでした。


 生き残った者もいませんでしたがね。



 めでたしめでたし




――――――――――



「ってどこが、めでたしめでたしなんだよ!!」


「あれ?なにか違いましたか?」


「全然めでたくない!!」


 彼――ディクスは顔を真っ赤にして叫びます。


 おかしい!なぜ?これは世界から戦争が無くなったっていうお話なのに!!


「いや、リステリアの考えがおかしい!」


 !!考えを読まれました!なんてことでしょう!


「何年いっしょにいると思ってるんだ!今更、リステリアの考えくらい分かるっての」


 まぁ!これは阿吽の呼吸というやつでしょうか?


「…違うと思う。って言うか喋れ!」




 また怒られてしまいました。


 私の名前はリステリアと言います。現在、16歳です。目の前で怒っている10歳くらいの少年はディクスと言います。ディクスは赤ん坊から私が育てました。


 私がディクスを育てていくのはとても大変でした。


 私たちが住んでいるのはとても小さな小屋です。この小屋は、ディクスを育てるために私が魔法で建てました。


 魔法は精霊の力を借りて行うのですが、私はその性質から、あまり精霊に好かれないので、とても大変でした。そもそもの精霊の数もかなり少ないので、なおさら苦労しました。


「『水の精霊』が言ってたぞ。魔王は勇者に倒される運命なんだって。あいつはそんな冒険を見て、勇者に力を貸していたって」


「!!精霊の声が…聴けるのですか?」


 驚きました!え?いつから、ディクスは精霊の声を聞けるようになったのでしょうか?


 精霊は、かつてはこの世界のいたるところにいました。自然の中には常に精霊の存在を感じました。魔法を使うには、精霊に魔力を差し上げて、その力を借りていたのですが…。今は、その存在も数えるほどです。


「一ヶ月くらい前かな?急に声が聞こえたと思ったら、青い髪の人が見えたんだ」


 あぁ!なんてことでしょう。


「話を…聞いたのですか?」


「話?勇者の冒険譚か?それなら聞いた」


「世界の話は?」


「………あぁ。




 世界が滅んでいるって話?」




 知ってしまった!知られてしまった!


 そう、そうなのです。世界は…すでに滅んでしまったのです。


 





「どうして、話してしまったのです」


『どうして?いずれ知ることにもなるだろう。逆に聞くが、どうして秘密にしておけると思ったのだ?この土地…我々精霊が最後に彼のために残した地以外に出ていけないこの生活の中で、聡い彼が気付かないと?本気で思っていたのか?』


 この家は、確かに私が精霊に頼み込み、作り上げたものです。ここは、彼を守るために光の精霊が限界とも言える力を振り絞って作り上げた最後の『世界』。


 あの昔話は、現実なのです。恐らく、力のぶつかり合いの結果、世界は木っ端みじんに砕けてしまった。


 世界に、精霊に愛されていた彼は、赤ん坊に戻るほどの力を使いました。世界は大きすぎる力の衝突に耐えきれなくて、砕けてしまいました。ですが、精霊たちは彼のために生きられる最後の世界を残したのです。


「…それでも、私は彼に…」


『お前の自己満足に付き合う義理はない。我らは彼が、世界を渡るほどの力を取り戻せたら、すぐに彼とこの世界を去る。お前がどうしようと知らん』


 …分かっています。私は…。


 ぎゅっと唇をかみしめ、スカートを手で握りしめます。『水の精霊』は私を蔑むように見ると、さっと姿を消してしまいました。


「…わかっています」


 私はあの戦いで全てを無くしてしまったのです。満足な力も、私に唯一力を貸してくれていた私のたった1人の親友も…。


 ここにいるのは、かつて『魔王』と呼ばれたモノのただの抜け殻です。





 私は馬鹿で、愚かで、本当に愚図で…。


 魔力が強大なだけで、私の親友が私と契約してくれただけで。たった、それだけで魔王になったのです。


 馬鹿な私は、魔族たちは人間に苦しめられている、という話を信じて、一族を救うつもりで人間に戦いを挑みました。しかし、そんなものは間違いだったのです。


 戦火が広がり、人間を虐げる魔族を見て、私は自分の愚かさを知りました。全てがそうであったとは思いません。人間に虐げられている者もいたのでしょう。ですが、だからと言って、自分たちが虐げていい理由にはなりません。


 私は戦いを止めようとしました。しかし、誰も私の話を聞いてくれません。魔族は止まってくれないのです。


 そうこうしているうちに、勇者は誕生していました。


 魔族が奪い取った街や村や森が、どんどん奪い返されていきます。このまま負けるのもいいのかもしれない、そう思いました。ついには、もともとの領土まで押し返され…。それでも勇者は止まりませんでした。魔族領を超え、都市や村を超え…。



 私は本当にただの『お飾りの魔王』だったのです。勇者が城に向かっていると聞き、将軍や貴族たちが秘かに逃げたと聞き、私は本当に利用されていただけだと悟りました。


 誰もが私に、囮になって死ね、と言っているように、城から逃げていきます。従者も侍女も騎士も私を見ることなく逃げていくのです。私に逃げろと言ってくれるのは、私の親友だけです。


 誰もいなくなった城で、私は断罪の時を待っていました。



 そこに仲間と共に現れた勇者は、一目で精霊に愛されている子どもだと分かりました。そこには、光が、水が、風が、火が、土が。ありとあらゆる精霊が、彼を祝福しているのです。世界に愛されたたった1人の勇者。あぁ、愛されている者は、世界から祝福されている者は、こんなにも眩しいのかと。そう思いました。






 

 私は勇者に倒されるつもりだったのです。




 勇者が私に、魔法を唱えながら、向かってきます。


 これが、最後の戦いなのでしょうか。私はその時を待ち、ゆっくりと眼を瞑りました。








 しかし、私の親友は、私の死を…許してはくれませんでした。


 瞼をも通す激しい閃光の中、最後に私の眼に映ったのは…。





 私を庇うように、私の前に立ちふさがる―――――私の親友でした。








 最後の戦いのあと。


 私は死んだと思いました。


 ですが、眼を覚ました私の眼に写ったのは…。



 何もない真っ暗な空間でした。闇だけが続くような、その空間に、私は親友の名を呼びました。ですが、闇が声を吸い込んでいくようです。親友はどこにもいません。私のたった1人の親友。私の唯一信じられる。いつも隣にいてくれたのに。今はこんなにも闇が濃厚なのに、気配さえしません。


 どれくらいの時間が経ったのでしょう。ふと、地面があることに気が付きました。私一人が立てるくらいの小さな大地。


 気が付くと、私の周りに地面があり、光があり、水が、風がありました。


 そして、私は温かな何かを抱いていることに気が付きました。



「赤ちゃん…?」



 私が抱いていたのは、世界に愛された者。力を使い果たし、赤ん坊になってしまった、勇者でした。


「…勇者?」


「だぅ!」


 満面の笑みで笑いかけてくれる勇者。


 


 涙が出ました。




 世界が滅んでしまったことが悲しかったわけではありません。親友が私を守って死んでしまったことが悲しくて。私に笑いかけてくれる者がいることが嬉しくて。よく分からない感情にただただ支配されて。


 私は勇者を大事に抱きしめて、泣いていました。



 そして、私は自分も若返っていることに気が付きました。


 魔力がまだ少なかったころの、『覚醒』と呼ばれる魔力の目覚めの数百年は前の年齢です。


 わずかに生き残った精霊たちも、その力を激減させており、ご飯である魔力が必要でした。私は、わずかばかりの魔力をあげて、精霊を育てました。


 だって、人間である勇者を育てるためには、食事が必要でした。その食事を用意するには、精霊の力がどうしても必要です。植物を育てるためには地の力も風の力も水も光も火の力も必要なのです。


 わずかな私の魔力。それも、あまり精霊にとっては、好まれない魔力。


 精霊は、私が勇者を育てると決めたからこそ、なんとか力を貯めるために味には我慢しているようでした。



 勇者は自分が勇者で、私が魔王であることは忘れて、健やかに成長していきました。


 魔力が満ち満ちているのが分かります。最近では、精霊たちは、彼の余剰魔力を貰っているせいか、成長が著しいです。


 もはや、私の魔力は必要ないのです。


 今では、私は勇者のオマケになっていました。精霊たちはもう、私の言うことは何も聞いてはくれません。




「リステリア。水、貰って来たよ」


「ありがとうございます、ディクス。そこに置いていただけますか?」


 精霊からもらった水をディクスは部屋の隅に置きます。


 彼の後ろには光の精霊。最近、彼女は私の前では常に彼の側にいるようになってきました。監視するような眼です。そんな眼で見なくても、彼を害することは私ではできませんよ。


「リステリア。何かお話をしてよ」


「なんのお話がいいですか?」


「う~ん」


「先に食事にしましょう。その後、お話してあげます」


「うん!」



 ディクスは笑顔で返事をします。


 すると、ディクスの側に精霊たちがやってきて、彼と話を始めます。ディクスは笑顔で話をしています。私はそっとその場を離れて、食事の準備を始めました。



『お前の役目は終わる』



 振り返ると光の精霊です。


「…なんのお話ですか?」


『彼は神に愛されし者。神は彼に界渡りの許可を時期に与える』


「…」


『お前はこの世界で好きにするがいい』



 さっと立ち去る光の精霊。


 分かっているくせに残酷なお話です。


 精霊たちは彼と共に界を渡るのでしょう。そうなると、わずかな地も水も風も光も暖かさも。何もかもがこの世界から無くなります。なにもない空間に私一人。



「ステータス」



 心で念じれば、私のステータスが目の前に写ります。他人には見えない、これは、私の情報が全て載っているのです。


 名:リステリア


 称号:魔王


 歳:16歳


 スキル:不死、状態異常回復

 

 ―――――



 「称号:魔王」


 世界は滅んでも、これは変わりませんでした。恐らく、ディクスの称号は勇者のはずです。


 楽しそうなディクスたちの方を見て、思います。



 もしも、彼が『勇者』で私が『魔王』なら。




 もしも、彼が全てを思い出してしまったら。




 もしも、彼が自分が『勇者』で私が倒すべき『魔王』だと知ってしまったら。




 私は彼に殺されるのでしょうか?


 

 それでもかまわないと、私は思います。いいえ、むしろ…。

 





 もしも、彼が私を置いて、界を渡るのなら。









 お願いだから、勇者。






 たった1人、何もない空間で、ただただ生きていくことは耐えられません。


 勇者にしか殺せない私は、死ぬこともできず、状態異常回復のスキルによって、狂うこともできない私は。


 

 親友であった闇の精霊もいない私は。




 ただの非力な女でしかないのです。




 だからね、勇者。





 もしも、そんないつかが来てしまったら。






 お願いだから、私を殺してください。






 そんな孤独に耐えきれないから。


 誰もいない世界で生きていたくないから。




 


 今の私は、そんないつかが来た時、あなたに殺されたい。






 ねぇ、ディクス。私はそんないつかの夢を見ているのですよ。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定がとても良かったです(;_;) [一言] 「勇者」と「魔王」という本来は敵対関係の話は幾つかありますが、ここまで心が切なくなって主人公に救われて欲しいと思った小説はありませんでした。続…
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