Scene1-6
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「レムールの遺跡?」
「あれ、違うの?」
「私たちが言ってるのは、町の北にある遺跡なんだけど。」
「ああ、あっちはケレンの遺跡ですね。それでも、普通の人にはきつい場所ですよ?」
ルミーレさんが言うにはここ【ビギニア】からいけるダンジョンは判りやすいのが4箇所。2箇所は僕たちが挑んでいた北の林の中にある遺跡―【ケレンの遺跡】と西の平原の隅にある【西の洞窟】。ここからはルミーレさんに聞いた情報だけど、町の東平原に地下へ続く階段があって、そこが【手向けの穴】と言うダンジョン。そして町の南に川があり、その川を包むように【囁きの洞穴】と言う洞窟があるらしい。
そしてこれ以外にも町の人もあまり知らないダンジョンがあり、そのうちの一つが【レムールの遺跡】と教えてもらった。
「ふへー、ダンジョンって結構あったんだねー。」
「掲示板では話題になっていなかった、と言うことは情報が広まっていないか、誰も到達していないかだな。」
「じゃあ4箇所のダンジョンは他の人に任せませんか?」
そのほうがいいと思いますよ?とはルミーレさん。いわく、町の兵士さんはあまり危険な事をさせない為に、ダンジョンの場所を聞かれたら先ほどの4箇所を教えるとの事で。この4箇所はある程度ビギニアの駐屯兵でも調査が進んでいるらしい。
「良し!それでは俺たち3人はメインから外れて【レムールの遺跡】の調査、踏破を目標に行動する。ルミーレさん、この地図に大まかな位置を書いてもらえませんか?」
「あ、そうですね。大体・・・この辺りの筈です。ただ誰も正確な位置を覚えては居ないので、あくまでこの辺だと考えてくださいね。」
そして今、僕たちは今森の中をさまよっている。MAPを確認する限りそこまで広い森ではない筈なのに、ダンジョンは一向に見つからない。
「<探索球>に反応あり、右手のほうから数は2!」
「見えた!フォレストウルフが2匹、私が前に出るよ!」
ジョーの宣言通り、右側から少し大きめの狼が2匹こちらに向かって走ってきている。今のところこの森で一番の強敵―フォレストウルフだ。こいつ等は常に2~4匹の群れで行動しており、こちらの視界に入り注意を引く役と、死角をついてこちらに飛び掛る役を使い分けてくる。
なので僕たちは先手必勝――向こうよりも先に発見し、行動のアドバンテージを握ることにした。
「森の中では敵には当たらん、行動阻害が限界だと思ってくれ!マナよ――<ライトニング・ボルト>!」
ジョーの周りに発電する球体が2個出現し、ソレが弾けるのと同時にフォレストウルフに向かって閃光が森の中を駆け抜ける。<雷>属性の初期魔法<ライトニングボルト>、その最大の強みは発生から着弾までの速さにある。他の初期魔法と比べ一番速度に優れた魔法であり、射程範囲もそこそこ広い。
しかし、雷を飛ばしている為弾道は直線、木が点在する森の中ではその強みも発揮できない。それでもジョーの狙い通りに敵の動きを止めると言う役割は果たせる。その止まった一瞬の隙を突いて走っていたリィーナがフォレストウルフとの距離を詰め、首筋に剣を一閃。甲高い悲鳴を残し、まず1匹が光の欠片へと消えていく。
「そっち行ったよ!」
「わかってる!」
もう1匹に視線を合わせてタイミングを計る。時折、後ろからジョーの<ライトニングボルト>が飛んでくるが、それがフォレストウルフにあたる事は無く、僕との距離をどんどん縮める。そして射程に入ったのか、フォレストウルフは小さく、だけどしっかりと僕の首目掛けて跳躍してきた。
「今!」
飛び掛ってきた狼の下を潜る様に滑り込み、腹部に蹴りを叩き込む。もちろんコレだけで倒せるわけじゃないんだけど、その後は僕の仕事じゃないし。
「カナたんに被さろうとか、優先順位を守りなさい!」
「怒る事柄が違いません!?」
蹴り上げられ宙を舞うフォレストウルフにリィーナが追撃をかけるべく、脚に魔力を回し小さな爆発を起こしてその姿を追う。フォレストウルフは懸命に迎撃体制を取ろうとするが、バランスを取れずその首に一撃を受け、空中で死散した。
「<探索球>――周りに敵は無し、少し休憩するか。」
ジョーが再度範囲内の敵性mobを感知する<探索球>を発動させて安全を確認する。町から森まで半日程、更に森に入って既に1時間は経過している。はやく遺跡までは辿り着きたいところだけど、さっきから妙に敵とエンカウントしている気がする。
「精神的に疲れたぁ。特別狭いって訳じゃないのに、この森エンカウント高くない?」
僕と同じ事を考えていたのだろうリィーナが声に出す。
「だよね、僕も思ってた。森に入って今回ので4グループ目、それより強い灰色熊も単体だったけど3匹も出てきたし。」
「こちらを探ってるのか、リポップが短いと言う可能性もあるな。ドロップが使えそうなのが、この疲れのせめてもの対価だな。」
フォレストウルフからは爪・牙と毛皮(中)に肉、灰色熊は毛皮(大)と爪に肉のドロップを確認している。爪や牙なんかは武具や装飾品に使うし、毛皮は加工して革に出来る。肉は寝る前に料理で簡単な焼肉にすれば良い。出てきたのが食べるところの無い虫や精霊系じゃなくて良かった、と思える点の一つだ。
「スキルが成長してるから良いんだけどね、1時間さまよって収穫ゼロって。」
不貞腐れながらカバンから飲み物を取り出して口に入れるリィーナ。出る前に町の店で準備はしてきたので、ある程度の携行食品は用意してきている。と言っても、パンとジュース程度だけど。
「敵は多いが、捌けるのならば練習には最適な場所だな。1対1から対複数、さらに連携の防ぎ方、この経験は大きいんじゃないか?」
「戦闘しに来たんなら正直に喜んでるよ?でも今日はダンジョンが目的なの!いつまでも変わんない景色って憂鬱になってくるよぉ。」
ここに来るまでに幾つかの採取出来そうな花や木の実を見つけていたので、敵さえ少なければピクニックにもいいかも。いや、隠密スキルをあげる為にもいいのかな?等と考えていた僕の視線に一瞬、今までとは違う明るいグレーが目に入った。
ん?と思いそちらへ意識を向けると、森の木々の合間にわずかにだけど、灰色の何かが見える。最初は熊!?と警戒したけども質感が違う。毛皮のようなものではなく、もっと無機質な感じだ。
「2人とも、もしかしたら見つけたかも。」
結論から言うと、当たりだった。
森の中にひっそりと佇むそれは、古びた神殿や何かの施設の廃墟、と言うわけではなく――。
「・・・ただのボロ家に見えるよ?」
そこにあったのは石造りの家のようなものだった。ただいろいろな所が崩れているし、表面は植物が覆っていたり苔まみれだったりしているけど。作り自体はしっかりしているのか、建物自体が崩れている事にはなってないみたい。何か隣に良くわからない機械のようなものがあるし、これが支えになっているんだろうか?
この辺りは住んでいた人が整理したのか、ある程度伐採されており、小さな公園程度の自由に動ける広さが確保されている。けど、なんだろう。地面のあちこちに大きな窪みが見られるんだけど、熊より大きい・・・?
それになんで、こんなに見晴らしがいいのに何も襲ってこないんだろうか。さっきまではあんなに複雑な森の中でもしつこく攻撃をしかけてきたのに、そのAIがこんな絶好の機会をのがすだろうか?
でも今はそれとは別に、こっちが気になるんだよね。
「ねえジョー、コレ何かな?」
「ん?どうしたカナタ?掘り返した跡じゃないし、岩があったにしちゃあ大きさが合わないな。」
僕の隣に来てジョーが呟いているとふいに背中に重さを感じる。腕が絡まってきたのをみるに、後ろからリィーナが抱き着いてきたのだろう。そしてぽつりと呟く。
「んーでもさ?形から考えると、これ足跡じゃない?」
――言葉と同時に、僕たちの上に影が差した。