Scene1-4
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学校を後にしてやってきたのは町の中でも西側に集まっている区域で、プレイヤーには工房区域と呼ばれている。理由は生産関連の施設が集中しているから、って言う単純なものだけどね。いくつかある施設の中で、今日は共同作業場へとやってきた。
共同作業場、って言うのはプレイヤーが使える生産設備の置いてある施設で、それぞれの分野毎に建物が用意されている。まずは武器のほうを用意したいから鍛冶関係の方を手続きをして、と。
「ほうカナタね、そんな細腕で武具が作れるのか?」
手続きを終えたところで、カウンターにいる体格の良いおっちゃんが声をかけてくる。ここの管理を任されている人かな?
「まあ今日はお試しですから、足りなかったら鍛えるまでですよ。」
「はっはっは、そりゃそうだな?いやすまん、お前さんはちっこいしなよなよしてるだろ?見ていて心配でな。よし、手続きは終了だ。気をつける事は2つ、怪我をするな、小火を起こすな、こんだけだ。」
「ん、ありがとおっちゃん。ちっこいのはもう諦めたけど、なよなよしたは余計だよ。」
そりゃすまん。と笑顔で言って奥に引っ込んでいくおっちゃん。普通はきれいに使えとか言うと思うんだけど・・・ある程度汚れるのは仕方ないって事か。
あとちっちゃいのは余計だよ、それに関係ないでしょ?良く女ロリドワーフの鍛冶屋とか居るんだからさ、身長くらいほっといてよ・・・。
個室の作業場もあるけど、お金を高く取られるので一般作業場を利用。1時間100belって言う親切料金。それでいて設備が足りないって事はなく、炉に金床、水場に研ぎ台と一通り揃っている。炉には最初から火が入っているので、使えるようになるまで待つなんて事は無い。
(まずはインゴットがどれだけ作れるか、かな。)
手持ちの鉱石は90個、5個でインゴット1つなのでうまくいけば18個のインゴットが出来上がる。スキルの<鍛冶>で成功率を見たところ、現在は30%と表示されている。ただこの成功率は『<鍛冶>スキルを使用した場合の成功率』であり、『手作業でした場合の成功率』とは別判定となっている。当然手作業の方がメリットもあるし、デメリットもある。
手作業でのメリットは、登録レシピ以外の作業が出来、その組み合わせ具合で効果が高くなるかもしれないという点。それと今回のように、作業内容がわかっていて出来るのなら、スキルよりも断然成功しやすいと言う点。デメリットは勿論、1作業毎に時間を取られると言うことと、プレイヤーの集中力やセンスがそのまま反映されると言う点。
普段は出来ないような作業も体験できる、これはVRMMOにおいて最も良い部分だと僕は思っている。そしてその恩恵を一番受けているのが生産のスキル群だとも。
(<腕力>も<器用>も育ってないし、まあこんなもんだよね。まずは様子見で。)
まずは鉄鉱石を5個取り出し、鍛冶鎚で砕いていく。この時に表面についているある程度のゴミはちゃんと取り除いておく事。不純物が混ざりすぎると弱くなるしね。1個につき、大体10回叩けばOK。
次に用意されている入れ物に砕いた鉱石を入れ、炉に入れる。此処はゲームっぽく入れて数秒待つと鉱石が溶けているので型に流し込み、冷やすとインゴットの完成。ここでのポイントは型に流し込むのは素早く済ます事、時間をかけると冷えて固まってしまい、作成失敗となってしまう。
この作業をまずは繰り返して鉄のインゴットを作成。連続で作業していたせいか、途中3回失敗しちゃったけどなんとか15個作ることが出来た。
(作るのは武器。防具は革とかが無いから作れないし、そもそも今の段階なら特典防具のほうが強いしね。)
今回は無難に装飾も何も無い鉄のロングソードを作ることにする。まずはインゴットを炉に入れ熱し、十分に火が通ったところで叩いて延ばす。これを何度も繰り返し必要な長さまで延びたら形を整える。のんびりやっていると冷えて砕けてしまうので、気合を入れて叩き続ける。
金属同士のぶつかる音がリズム良く響き、炉に入れ、再び叩く・・・何度目かの作業を終えた時、鉄が違う輝き方をするので急いで冷やす。これで刀身の完成。5回くらい失敗したけど。
「1本作るのに6個か。やっぱりまだキツイか?」
「うん、すっごく腕が厳しい。熱さもだけど、それより腕がきついかな・・・でもおかげで<腕力>も成長してるからね。」
後は加工済みの剣の柄を用意して、刀身を取り付け。最後に鍔と鞘を作って完成!今回の出来栄えはこんな感じ。
【鉄製のロングブレード】 耐久:50/50
攻撃+31 DEX+2
レア度:3 製作者:カナタ
説明:不純物を取り除き、少し質の良いインゴットで作られた鉄の片手剣。少し威力と耐久力が高いが、どこまでいっても普通の剣。
店売りより攻撃が6高く、耐久が10高い剣が完成。うーん、今の僕じゃこんなものか。
「おまたせ、やっぱり今の僕じゃ店売りよりちょっと強い位が限界だね。」
「おー、ありがとうっ!この剣大事に使わせてもらうからね!」
「攻撃よりも、耐久が高いのは大きいな。ある程度は無茶をしても余裕があるということだ。」
次に錬金工房へと移動をして、回復薬をある程度作成。ポーションに関しては今は市販と大差なくていいので薬草を煮込み、容器に入れて魔力を込めたら完成。
【HPポーション】
回復量:30
レア度:2 製作者:カナタ
説明:市販品と同じレシピで作られたポーション。性能の違いは無いので安定して使える。
薬草2個でポーション一つなので、60個消費して30個、1人10個ずつ用意。解毒POTも用意したかったのだけど、材料がわからないから今回は断念。同じ理由で麻痺回復も不可能。
「手持ちじゃこれが限界。とりあえず赤ポーション10個ずつは用意したから渡しておくね。」
「すまんな、また材料探しとレシピ検証は喜んで手伝うからな。」
「ありがとー、でも不思議だよね。薬草煮込んだだけだと緑色なのに、魔力を通すと赤くなるなんてね。」
「まだ薬草の効果を高める事が出来るかもしれない、って事か。それは調べ甲斐があるが・・・そろそろ潮時だな。宿を探すのも時間取るだろ?」
アイテムを受け取ったジョーが時間を呟く。つられて確認すると、21時が近かった。鍛冶に1時間近く取られていたのだろう、早めに<腕力>は成長させたいな。鍛冶にも戦闘にも使えるし、<調合>でも使うしね。・・・あれ、良く考えたら生産スキルって大体<腕力>に経験値が入るんじゃ・・・?
「それじゃ、僕は先に休むね。」
「おう、お疲れさん。俺はもうちょっと町を調べてから落ちるよ。」
「私は一旦外の様子を見てくるよ。ついでに試し切りもしてくるね。」
明日の時間は寝る前にメールする、とジョーが言っていたので安心してログアウトする事に。と言ってもその前にやることは必要で、宿屋を探さないといけない。VRMMOに多いけれど、ログアウトから数秒はその場にPCが残っているため、いたずらやPK防止にセーフエリアでのログアウトが推奨されている。
なので、今は友達2人分も含めて泊まれる宿を探しているんだけど・・・。
「すまんな、もう一杯で空きが無いんだ。」
「ごめんなさいねえ、1週間位は空きが出来そうにないのよ。」
「あー、申し訳ない。一杯なんだ。」
どこもかしこも満席だそうです。確かβテスターが2万人で、今回の出荷本数が3万だから、全員入っているのなら5万人が今この街に居るわけで・・・。
「そりゃ宿屋もパンクするよ、店員さんも大変だろうなあ。」
泊まる場所を探しているこっちも大変ですけどね。似たようなプレイヤーはまだ多いらしく、掲示板の情報を元に東へ西へと走り回っている人が何人もすれ違う。
そりゃそうだよね、街中とはいえ安全な場所で落ちたいし、宿屋の情報は行きかうよね。でも掲示板に上がるような宿は一瞬で埋まるだろうし、となると・・・。
「・・・穴場を探せば良いんだよね。」
さまよう事15分、どうやらそれっぽい建物の前にたどり着いた。家の隣が畑になっているようで、何かはわからないけど、いやアレは根菜かな?とにかく成長した作物がいくつか実っている。その割には外見はただの一軒家に近く、2階建ての建物は他の住民の家に完全に紛れ込んでいた。そしてなによりこの看板。
「かなりボロボロ・・・建てた頃の看板かな。」
もはやかろうじて見えるかどうか?と言ったレベルの宿屋のマークが入った看板。片方は止め具から外れている・・・と言うか穴が割れていて、このままだと看板が落ちるのもそう遠い日では無さそうな・・・。
「宿屋・・・だよね?」
一応名前を確認して・・・【大樹の木漏れ日亭】ね。優しい名前のお店だなあ。
営業停止してたらどうしよう、等と考えながら扉を開けて中に入る。外観よりは綺麗で掃除が行き届いており、テーブルの数は少ないがお店としての作りはしっかりしているようだ。
店内を見回してみるが他に客は居ない。居ないのか寝ているのかわからないけど、2階に明かりはなかったしやっぱりお客0?と考えていると、カウンターに顔を突っ伏している人が居ることに気がついた。