Scene1-3
本日はここまで。
時間が出来たらもう1話いけるかも。
ジョーとリィーナの2人と一緒に学校を目指して街中を歩いている。流石にサービス開始初日なだけあって、いろんなところにプレイヤーがあふれている。
・・・のは良いのだけど、さっきから妙に視線を感じる・・・って言うか、見られてる。凄くねっとりと見られてる。
「・・・ねえ、ジョー。そんなに僕たち目立つ格好してますか?」
歩きながら隣のジョーへと質問してみる。
「そうだなあ。目立つか目立たないかって聞かれたら、目立つよな。カナもリィーナも可愛いほうだし。」
「そだねー、カナたんは可愛いからね。目立たないほうが可笑しいよ。」
「・・・それ小動物的な扱いじゃないんですか?」
ジト目で2人を見るけど、ジョーはさっと顔をそらし、リィーナは可愛いぃーとこっちに抱きついてくる始末。やっぱり僕の事小動物か何かと思ってるんじゃないのかな。
まあ女顔って言うのは自覚しているし、からかわれるのも慣れてるから良いんだけど。女に間違われる要素は無いと思うんだけどなあ、今だって初期服の半袖短パンのただの服だしね。
長髪の男性だから少し引かれてるのかなあ・・・身長低いし子供だって思われてるのかも。
《・・・少し急ぐか?》
嫌な気分が顔に出ていたのだろうか、ジョーがwisでこちらに尋ねてきた。
《ううん、気を使わせてごめん。このままで良いよ。》
気にならないって言ったら嘘になるけど、気にしないといけないほど酷いものでもない。リィーナに抱かれるような格好のまま、僕は学校までの道のりを歩いていった。
「ようこそ、訓練施設へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
学校に入ると直ぐにカウンターが設置されており、そこにいる受付の人が笑顔で対応してくれる。
「訓練場を使いたい。魔法と武器類だと別々になるか?」
「いえ、場所自体は一緒になりますね。そこの扉が中庭につながっていまして、入って左側が武器を使う人用、反対側が魔法を使う人用になっています。」
「使用料金って幾らですか?」
「此処には先生となる人がいませんから、料金は不要です。施設の整備は国からお金が払われていますから。」
僕たちは見た目から学校って呼んでいるけど、今のところ先生となるNPCは用意されていないみたい。僕個人の意見として、用意されるんだろうか?と運営を疑っていたりはするけど。
「それじゃ3人、利用させてもらいまーす。」
「こちらにお名前だけ控えさせて頂きますね。ジョーさんにリィーナさんと、カナタさん・・・はい、OKです。こちらの施設は朝6時から夜は9時までの間ご利用いただけます。お帰りの際はカウンターで手続きをお願いしますね。」
「わかりました。」
「それから、怪我等は自己責任とさせて頂きますのでご注意下さい。」
・・・え?と僕は動きを止める。あ、ちょっと前に居た2人も動きが止まった。
「えっと、そういう時のために応急処置の薬とか、そういうのは無いの?」
「売店がある訳でもないし、少し問題があるのでは?」
2人が問い詰めると、受付の人は少し涙を浮かべながら答えを返してくれる。ってこの位で涙目って大丈夫なの?もっと怖い見た目の人とか来るんじゃないの・・・?
「そ、それがですね。ここの所薬の値段が上がってきていまして・・・用意できるほどお金が残らないんですよ。ここも結構古い設備ですから、随時交換や改装をしているものですから・・・国からの補助はそっちで一杯一杯なんですぅ。」
「あの、僕たち別に貴女を責めてる訳じゃありませんから、ね?」
「はい゛、ずみ゛まぜん・・・ごほん。それでは、怪我にはお気をつけてくださいね?」
「気になることを聞いたけど・・・今は慣らしを先に済まそうかな。」
僕のプレイスタイルは生産を主に戦闘はそこそこ。これは2人が材料を取ってきてくれるけど、やっぱり材料くらいは自分で取れるようにしておきたいから。クラス製のMMOだと生産職は戦闘が大変なことが多いから、FLOに限っては戦う鍛冶屋さんとかがプレイしやすい。
両腰の鞘から短剣を抜き、目の前のかかしへを視線を向けて構える。まず右腕を振り下ろし左腕は凪ぐ動作で切り払い、その勢いのまま回転して両手で突き。かかしに突き刺さった短剣を蹴る事で引き抜き、そのまま後ろへ下がりつつ両手の短剣を投げつける。
「・・・うん、こんな感じかな?」
現実では運動が苦手な人でも、この世界ではある程度まで基礎能力が引き上げられる。あくまでこの世界の住人よりは上程度だけど、元々得意な人はその恩恵を十分に受けやすい。
かかしから短剣2本を引き抜いて、周りの人の動きを見てみる。リィーナは片手剣で動きは問題ないかな、今はどこまで速く動けるかを試しているみたいで砂埃が凄いことになっている。両隣の人ごめんなさい、練習の邪魔ですよね?後で言っておきますから。
反対側では両手剣を持った男性が剣を振っている・・・けど、2,3回振って休憩を繰り返している。動きに慣れてないからって言うのもあるけどスタミナの減りが早い、序盤はヒット&アウェイを基本にした方が良いんだよね。
「くっ・・・お、重い!だがしかし、これじゃないと俺の冒険は始まらないんだ。おらあ!」
勢いよく振るのは良いんだけど、1回でスタミナ持っていかれてるし・・・剣に限らないけど、両手武器は使うのにコツが居るから他のゲームと比べて中々見なかった気がする。
「ふぅ、良い汗かいたー。それじゃ、最後に一発!」
リィーナの身体が一瞬光り、派手なエフェクトを発生させ青い残光の剣閃を2つかかしにぶつけた。HPバーが残り少なかったかかしは今の攻撃でバーを無くし、光の欠片となって崩れていく。まあ直ぐに復活するんだけどね。それを見てふと思ったけど、このかかしって一体幾ら位するんだろう?
「かーなーたーんっ!私のほうはもう大じょーぶだよ。」
「見てたよ、リィーナ。もう技を思いついたの?」
「え?アレは誰でもできる普通の動きだよ?」
このゲームでは武器を用いる攻撃スキルは技と呼ばれ、ある程度その武器を使っていると急にイメージが沸くと言う方法で取得することが出来る。ひらめきだね。
リィーナはさっき凄い勢いで斬り続けていたから、アレで技を覚えたと思ったんだけどどうやら違ったみたいだ。ちなみに、魔法も同じく使い続けることで新しい魔法を覚えていくけどNPCから魔導書を買って解読する事でも覚えられる。他にも決まった技を覚えられる【奥義書】と言うアイテムが在るらしいんだけど、僕はまだ見たことが無いんだよね。だから奥義書でどんな技が覚えられるのかは、僕たち3人は誰も知らない。
「早くダンジョン行こうよー、ダンジョンー!β期間は片方しか攻略できなくてすっごく悔しかったんだからね!」
「落ち着け、この突撃バカが。」
「あいだー!?」
結構鈍い音を出しながら、木製の杖がリィーナの頭に直撃する。その後ろにはジョーが立っていたんだけど・・・なんでちょっと服が焦げてるの?暴発か威力でも間違えたんだろうか。
「ジョー、そっちも終わったの?」
「なんとかな、ある程度経験は積むことが出来た。」
「じゃあダンジョン行こうよ!私なんで叩かれたのさ!?」
「だからβの時とは違うかもしれないだろうが、少しは頭を回せ。」
ジョーの言葉を耳にしてふと考えてみる。この近くにあるダンジョンは2つ。変わっていなければ片方は洞窟タイプで全2層。もう片方は遺跡タイプで全3層。
洞窟の方は狼や蛇がメインでたまに毒蜘蛛とコウモリが出てくる。この蜘蛛や蛇の毒が強力で、放っておくと直ぐにHPがなくなってしまうと言う、ある意味初見殺しとも言える強さを持つ。クローズドの時にはまだ解毒POTはそこまで数が無く、「毒を食らったら諦めろ」とまで言われていた。ボスは3m位のクマが2頭。これがまた動きが早くて、いや普通に考えてクマの動きが遅いとか考えないんだけど、一撃も大きい。革鎧でも防御に失敗すると6割強HPが持っていかれた時は冷や汗をかいたなあ・・・。
遺跡のほうは僕たちは未踏破のダンジョンで、1層の敵は植物系って言うのは確認済み。やっぱりこっちにも毒持ちの植物が居て、更に麻痺持ちの奴も居たりする。もう少しで次の階層、って時に麻痺攻撃を食らってしまい僕たちは全滅した。いや、天井の花からとか普通に気づかないよ・・・。
という訳で、初めての町の近くにしては殺意が高いこのダンジョン。クローズドではこのダンジョンをクリアできるようになってようやくスタートラインだ、と言われていた。次の町周辺の敵はAIが格段に違ったらしい、掲示板情報だけで僕たちは行けなかったから知らないけど。
「動きは良くても、装備はどうにかしたい。ある程度は保険で回復も欲しいしな。カナタ、まだ時間は大丈夫か?」
ゲームにinしたのが19時で今が20時、明日は休みだけど朝ご飯の用意を考えると、23時には寝たいかな?
「まだ大丈夫だけど、23時位には落ちたいかな?明日の朝食は僕が用意する日ですから。」
「ってー事は、今日は準備をして解散だな。リィーナもそれで良いよな?」
「不完全燃焼ですよおー。まあでもしょーがないね、生産は時間がかかるからさ。」
「ごめんね、2人とも。その分、リィーナの武器はがんばってみるからさ。」
「さっすがー、ありがとうカナたん!」
リィーナが抱きついて来るけど、されるがままにしてそのまま学校を後にする。
さあ、これからが僕の本番だ! ・・・そっか、物流があるって事は回復薬って想像以上に貴重品になるんだよね。こまめに材料採取しておかなきゃ、再POP時間も調べておかないとなあ。