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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼が浮気をする理由

作者: 未樹

男性同士のカップル、俗に言うボーイズラブ小説です。


ボーイズラブに偏見がある、ボーイズラブが苦手、という方は

ブラウザバックをお願い致します。


大丈夫、どんとこい、という方のみドウゾ。

とぽとぽと、お湯を注ぐと湯気に乗ってコーヒーの上品な香りが鼻腔をくすぐる。

コーヒー好きで通っている僕だけれど、

実は、僕は味よりもこの匂いが好きだ。


たっぷりと心地よい匂いを堪能した後、貰い物のマグカップを手に、

火をつけた煙草を銜えて回転式の椅子にどさりと腰を下ろす。


図書準備室から運んできた本が、最近少々デスクの上で山を作っていて、

少しずつ、けれど確実に散らかりつつある卓上にまたそろそろ片付けなければなぁ、

なんてぼんやり思ったりして。


しかしどうも毎回ここの片付けは進まないもので、

家の中の掃除とか家事とかならば完璧なのに、と不思議でたまらない。


自分の空間、というイメージがあるからどうもだらけてしまうのだろうか。


肺を満たした紫煙を深々と吐き出して、コト、と眼鏡を机に置いた所で

静かな午後の空間に眠たげに掠れた声が響く。


「…昨日、また俺まこっちゃんの浮気現場を見ちゃったんだけど……」


ふぁ~あ、と欠伸をしながら、

「昨日は何か珍しく年下の女の子だった」なんて言うのは

この学校に通う僕の従兄弟の現彼氏、宮田みやた 和祢かずね


校則違反のバイトをしている彼がここで睡眠をとっているのはいつもの事で、

どうやら授業中にも机と仲良くしているらしいのだが、

成績は毎回トップクラスなので教員からは何も言われない。


彼らの認識としては、頭は良いがやる気の無い生徒、

というか頭が良い故にやる気の無い生徒、というか……まぁそんな所なんだろう。


頭が良いっていうのはそれだけで得なものだ。

僕も学生時代を含め、これまでに何度かその恩恵にあやかってきた。


和祢のバイト先は、僕の知り合いが経営するバーだ。

その帰り道、運悪くよく真琴に遭遇するらしく、

見なくても良いハズのものを毎回見てしまう彼は少し可哀相だなぁ、と思う。


「いつもごめんねぇ」と苦笑すれば和祢は複雑そうに顔を歪めた。


薙尋ちひろちゃんは、平気なの?」


いっつもそんな顔して笑ってさ、と言う彼は恐らくもし自分が浮気でもされたら、

という想定をしたのだろう。


俺ならもうまこっちゃんぶん殴って別れてる、と低い声で剣呑な言葉を吐く彼に、

僕は有り難う、と微笑を浮かべた。


「僕もね、本物の浮気なら流石に怒るよ。

でもあれは、浮気であって浮気じゃないから」


大丈夫、と笑んだ姿に無理が無い事を確認したのだろう。


けれどまだいまいち納得がいかない、というような雰囲気で、

「ならいいけど……」と和祢が溜め息をつく。


「まぁ2人の事なら大丈夫だとは思うけど…そっちは順調

あの子、僕以上に鈍い所があるからねぇー」


その変で苦労してないかい? とふざけたように問うのは

僕の事まで心配してくれる彼への些細な感謝の気持ちで、

場を和ませようとしてのものだった。


僕は基本的に人よりローペースだから天然に見える、というだけであって、

実は狡賢い大人らしく、腹黒い部分だってちゃんとある。


見かけの印象よりは温くは無い、と思っているのだが……

知らず純粋培養、という感じに育ってしまった従兄弟の莎葵さきは、

それこそ「ど」がつく程の天然だ。


色々話がかみ合わない事もあって大変なのではないかと思うのだが。


「ぁー……まぁ、どこまで鈍感なんだ、って思う事もあるけどね。

まこっちゃんのどうしようもなさに比べたら大方順調かな」


「そ。ならよかった。

…ほら、次の授業から出るんだろう? もう行かないと始まっちゃうよ」


ニッコリと完璧なスマイルを浮かべて和祢の背中を送り出す。


全く、自分の生徒に心配をかけるなんて情けない大人だよなぁ、と苦笑を浮かべてついた溜め息は、

真琴にくらべて立派な大人である僕は決して和祢には聞かせないけれど。









「おかえり」


ドアを開けた瞬間、腕を組んで壁に背を預けていた僕に、真琴はビクリと肩をすくませた。

いつもどうり微笑んでやるのはそうした方が恐怖が増すからだ。


……まぁ、実際怒っている訳では無いだけれど。


こちらの方が僕としては面白いし、

和祢にまで心配をかけているのだから少しは痛い目でも見ればいいと、そんな単純な理由。


「たっ…だいま、……」


「……で?

今日は誰と一緒だったのかな?」


笑顔を崩さぬまま問いかければ靴を脱ごうと屈んだ真琴が、

そのままバランスを崩して倒れそうになる。


間一髪で体制を取り直した真琴に、

そんなにビクビクするぐらいなら最初からしなければ良いのに、なんて思う。


それが本当は浮気なんて出来ない小心者だという事を如実に表していて、

どうしようもない彼に僕は少し嬉しくなる。


「ぁー……と、…………悪い、今日は鐸那すずなと一緒でした」


「そう」


鐸那とは数年前まで僕達の勤務する学校の生徒だった子で、

今の和祢と同じように昔は良く保健室に入り浸っていた。


……という事は成る程、先日和祢が見た、と言っていた『年下の女の子』とは鐸那の事なのだろう。

女の子、と言っても在学中はブレザーにズボンという男子制服に身を包んでいた、

立派なニューハーフなのだけれども。


元々華奢な印象のあった彼だ、今やさぞ立派な『女性』になっている事だろう。


「僕、しばらく鐸那とは会ってないんだよねぇー。

時間あるようだったら今度家に遊びにきてよ、って言っといて」


リビングへ向かう通路を二人並んで歩きながら言えば、

素直に会いたいと思って口にした言葉なのだけれども

ビクビクしている真琴は厭味と受け取った様で。

「はい」と顔に冷や汗を浮かべながら頷くから、それが少し可哀相で、とても面白い。


リビングに置かれたフカフカのファーセット、

その定位置に座る真琴に僕は「何か飲む?」と尋ねたのに首を振られて、

取あえず香りの良い、貰い物の紅茶を少し甘めに二人分淹れると彼と向かい合うようにして座った。


「―――僕としてはまぁ、このままもう少し放っておいてもよかったんだけどさ…

先生が、プライベートな事で生徒に心配かけちゃいけないよね?

進藤先生のお馬鹿な行動に僕は大丈夫なのか、って和祢君、わりと前から心配してくれてるんだよ」


まぁ、真琴の方は和祢に見られてたなんて

思ってもいなかったんだろうけどさ、と付け足して紅茶を啜る。


舌で蕩けた甘味に「うん、美味しい」と微笑んで、僕は言葉を紡いだ。


「一応、―――真琴の口から言い訳とか弁明とか、

理由とか言い分とか文句を聞いておこうか?」


まぁだいたい予想はついているのだけれど、

という言葉は飲み込んで少し視線を和らげて見上げた先、真琴が大きく息を吐いた。


「ぁーもう、一瀬ひとせ先生には適いませんよ。

……悪かった、俺でもいい加減ガキ臭すぎる行動だとは思ってる。

どーせ大人のするような行動じゃないですよ」


ひねくれたような彼の物言いに、あら、と僕は眉を上げる。

「意外と自分でも分かってるんじゃない」と。


さすがにそこまで子供じゃないもんで、と返して、真琴はどこか苦しそうな顔をした。


「……だってさ、俺ばっかり必死になって…昔っからおまえは全然ヨユーって面してやがるし。

薙尋の人間関係に対してやきもきしてんのだって俺だけだし、

嫉妬の一つぐらいしてくれてもいいんじゃないのかな、って思っただけだよ。

『浮気』なんて名ばかりで、昔の薙尋の知り合い捕まえて単におまえの話聞きまくってただけだし。

まぁ、多少それっぽく見えるように腕組んでみたりしたけどな」


ただ、話聞いて酒飲んで、それだけだ。


吐息にのせた真琴の言葉に、

僕も「そんなこったろうと思ったよ」と溜め息を吐く。


「昔から僕一筋で、僕の事が怖くて何だかんだで絶対嫌われたくない真琴に、

浮気する勇気なんてないもんね?

形だけでも、僕が妬いてあげればもっとすんなり話しは片付いたんだとは思うけど……

真琴も少しぐらい僕の気持ちを信じてくれたっていいんじゃないかなぁと思うとどうしてもね」


そう苦笑して、僕はこんなにも真琴のこと信じてるのにさぁー、

と冗談めかしたそれが実は僕の本心で。


「好きでもなければ、

同い年な筈なのにこんな子供みたいに手のかかる大人の面倒なんか見てないし、

一緒にも暮らさないよ。

それとも僕は、遊びでこんな事が出来るような軽い人間だと

真琴には思われてるのかな?」


ス、と立ち上がり数歩進むとちょこん、と真琴に口付ける。


そのまま彼の隣に腰を降ろして、答えを促すように顔を覗き込めばいや、と真琴は首を振った。


「本当は僕が、自分の領域に他人を入れる事が嫌いな人間だっていうのは、よぉ~く知ってるよね?

じゃぁ、もうこれ以上ないってぐらいに僕の側に居る真琴は何?

真琴はね、もう僕の中では僕の一部なんだよ」


彼への気持ちをその辺の『好き』や『愛してる』などとは一緒にされたくない。

そのくらいに好きで好きでどうしようもなくて、愛しくて愛してるのに。


「真琴にとって、僕の愛はまだ足りない?

いっつも若い子達と触れ合ってるんだもんね、今時の子達みたいにベタベタしたい?

僕はね、真琴の特別なんだって、愛されてるんだ、って自身があるから嫉妬しないんだよ。

真琴にはそれが理解できない類の考え方だった?」


どんなに精神的に側に居たって、所詮僕等は個別の人間だ。


感受性が違えば物事に対する考え方だって違って当然、

その中には理解できないモノだって沢山あるだろう。

僕がむやみやたらに嫉妬しない理由がそれにあたるのだとしたら、

それは仕方の無い事だと諦めるしかない。


諦めて、少しずつ受け入れてもらっていくしか。


「―――真琴。

…大好きだよ。愛してる」


そう囁いた瞬間押し倒されて、急なそれに思わず僕は「ぅわ、」と声を上げる。

降ってくるのは何かを堪えるような、酷く余裕のない真琴の声。


「ほんと、もうおまえには敵わないな……悪かった、俺の我が侭が薙尋を傷つけて。

浮気なんて、絶対、もう一生しねぇ」


…だから、抱いていい?


耳元で囁く彼に向けるのは僕の極上の笑顔。

もういっそ、この気持ちのように甘く蕩けてしまいたい。


「うん…、ちょっと、意地悪しただけで。

元々、怒ってなんかなかったから」


だから、抱いて? という言葉は。


二人の舌の上で、とろりと溶けた。








「はぁっ!? ナニソレ、そんな理由?」


そんな呆れの混じった驚きの声が保健室に響き渡る。

ぁーあ、もしかすると廊下にまで聞こえているかもしれない。


昼休み、莎葵を連れて昼食を食べに保健室に来ていた和祢に、

事の真相を話すとそんなリアクションをした。

思わず手にしていた箸を落として、そんな和祢を莎葵は不思議そうに見ている。


僕は落ちた箸を拾って、代わりに割り箸を渡す。

お礼を告げる和祢の向こうで、

真琴が気まずそうに不自然に外を眺めながらお茶を啜っていて、

また子供みたいな反応をして、と思うと口許が綻んだ。


「薙尋ちゃん、よくこんなのと何年も付き合ってるよね……。

他にももっといっぱい良いの居るのにさぁ…」


いっそもう別れちゃえば、と背後の担任をみながら告げる和祢は

もう真琴の事となると容赦が無い。


実年齢以上にしっかりしている彼には、

年齢以下の行動ばかりをとる大人を敬う気持ちは今回の事で綺麗に無くなってしまったようだ。


絶対あんな大人にだけはなるんじゃないぞ、なんて莎葵に囁いている。

あれは絵に描いたようなダメな大人だから、と。


「あらあら、立派な生徒をもって進藤先生は担任冥利につきるねぇ」


幸せ者ー、と微笑めば、真琴は心底嫌そうな顔をした。


「ひねくれもので厭味ったらしいこいつのどーこーが、“良い”生徒だっつーんだよ」


「は? どこって…全てが、だろ」


「おまえ死ねっ」


「ぁはは、今日も平和だねぇ~」


微笑んで、んー、と僕は伸びをする。


大丈夫だよ、僕はこの先もずっと好きだから。


振り返り、浮かべた笑みに込めたその想いに君は気付いてくれただろうか?






20070618-20070731(20130618加筆修正)

稚拙な文章に最後までお付き合い下さいまして有難うございました*_ _))

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