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2話 小学生レベルの言い合いかもしれません


「何でお前、違う世界から来ちゃったていうのにそんな平然としてんだよ……!? ってか、気づくの遅ぇ!」

「はぁ。わたしの頭では遥かに理解の範囲を超えているため、逆に実感がわかないというか……。ええと、これはわたしの夢か何かですか?」


 じゃあさっきの夢は一体……わたしは、夢の中で夢を見ていたということになるのでしょうか? ややこしいですね、全く。


「お、おいっ、何納得したような顔してんだよ! これは夢じゃねぇって! ほらっ、頬つねったら……痛っ! お前、何させんだよ……!」


 モンブランさんが勝手に怒り始めました。しかも、ものすごく理不尽な気がします。全く、忙しい人ですね。っていうか、バカなのかな。

 ものすごく痛そうに赤くなった頬をさする彼に冷たい視線を向けつつ、わたしは一つため息をついて愛想笑いを浮かべました。


「モンブランさん、落ち着いてください。たかが、しがない一人の娘が何故か突然異世界に飛ばされてしまっただけの話です。そんなことで焦るのに使う労力の方がもったいないじゃないですか」

「お、お前……」


 彼の赤い瞳は、わたしを真っ直ぐ見ていました。力んでいた肩の力がしなしなと抜けていくのが見ているだけでも分かります。心なしか、モンブランさんの手が少し震えているような……? おや、あまりのわたしの健気さに感動してしまったのでしょうか。

 

 うつむいて何も言わないモンブランさん、そんな彼の様子にちょっと心配になったわたしは彼をのぞきこみました。


「モンブランさん……?」


 彼は、目を閉じて唇をわなわなと震わせていました。


 そして、次の瞬間。


  

「お前は落ち着きすぎなんだよ…………!!」

 

 痛っ!!


 彼のチョップが、わたしの頭に華麗に決まった瞬間でした。 

 

 ひりひりと痛む頭をさすりながら、わたしは涙目になって全力で訴えました。 


「ひ、酷いじゃないですか……! いきなり女の子に手を出すなんて言語道断ですっ! そんな綺麗な顔して実はあなた、野蛮人かなんかですか!? バカなくせに……!」

「んなっ……!? お前にはツッコミという概念がないのか! っていうか、バカは関係ねぇ! そもそもオレはバカじゃねえ!!」  


 目を吊り上げたわたしたちは、お互い顔を背けて一歩も譲らない状態です。何という小学生レベルの喧嘩、というツッコミは無しの方向でお願いします。


 場の空気に緊張が走る中、突然モンブランさんが腕にはめていた腕時計に目を落としました。イライラしている彼の顔に、加えて焦りの色が浮かびます。 


「ヤバっ……もうこんな時間かよ! ……これ以上遅刻したら、シャルロにぶった切られちまう」


 今、ものすごく物騒な呟きが聞こえたような気がしたのですが、わたしの聞き間違いということにしておきましょう。 

 

 わたしの方に向き直った彼は焦燥と多少のイライラが入り混じった目を向けてきました。



 えっ、こんな異世界の森の中で見捨てられたら流石のわたしも困りますよ……! だから、見捨てないで……? もう一人のわたしが、心の中で必死に叫んでいます。

 しかし、この流れでわたしがそんな素直に言えるわけもなく。

 

 わたしの言葉を待つその真紅の瞳に焦らされて、わたしは口を開きました。

   

「……見捨てたら、頭の傷をさすりながら一生あなたのことを恨みます」


「よし、じゃあ見捨てよう」

「ちょ、ちょっと待ってください! お願いします、見捨てないで下さいモンブラン様」 

「ちょっ、おまっ! 棒読みにも程があるだろ……!」

「だって、全く尊敬していない人に向かって心をこめて様付けをするだなんて不可能じゃないですか」

「……なんか、その言葉地味に痛いな」


 がっくりと肩を落として、モンブランさんは諦めたような顔をしていました。

「あぁ、もうっ……仕方ねぇなぁ」


 投げ捨てるようにそう言って、彼は自分の手をわたしの目の前に差し出しました。わたしは首をかしげます。何のつもりでしょうか。


「はい?」


 首をかしげると、モンブランさんは真っ直ぐにわたしの目を見てきました。


「手、出せ」

「は、はぁ……」


 何をするつもりだか全く見当もつきませんが、今のわたしにはもう彼の言う通りにするしか残された道はありませんでした。


 わたしは、彼の手に自分の手を重ねました。わたしの手より大きくて、少しごつごつしてて。ちゃんと、男の子の手でした。


「女の子みたいな綺麗な顔してるけど、手はちゃんと男の子なんですね」

「うっせ、放っておいてくれ……ホントは、高いからあんま使いたくねぇんだけどもうつべこべ言ってらんねーよ」


 ぶつぶつ言いながら、モンブランさんはもう片方の手でズボンから何かを取り出しました。

 手のひらにちょうど収まるくらいの大きさの、緑色の玉……? エメラルドグリーン色に淡く光っています。何だか、見ているだけで心が癒されます。


「そういや、かなり今更だけどお前の名前は?」

 そういえば、すっかり忘れていましたけどまだ名前も言っていなかったんでしたっけ。


「文佳です。音羽、文佳」

「ふーん……フミカか。変わった名前だな」

 

 モンブランさんは余計な一言を残すと、目を閉じて緑色の玉をきゅっと握りしめました。彼の指と指の隙間から、淡い緑色の光がこぼれ始めます。


「対象人物、モンブラン・フミカ。到達地点、セイント学園男子寮1025室――疾風の運び(ウインドポート)

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