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1話 目覚めたらそこは、異世界でした


 とても、不思議な夢を見ました。

 

 けれど、覚えているのは不思議な夢を見たという事実と、その夢の中で知らない女の人と話したということだけ。


 とても、やさしい顔をしたひとでした。


 

 目の前が真っ暗です。それは、わたしがまぶたを落としているから。


「おいっ……しっかり、しろ」


 聞こえてきたのは、焦っているように聞こえる男の子の声。壊れ物を扱うかのような優しい手つきで、肩を小さく揺さぶられます。

 

 この薄いまぶた越しに、誰かが、いる……?

 

 まぶたを、静かに開きました。

 

 まだ不鮮明な視界に飛び込んできたのは、男の子の顔……?

 ぱちぱち。瞬きを繰り返してクリアになった視界に写ったのは、やっぱり男の子のお顔でした。


「良かった……」


 その男の子は目を覚ましたわたしを見て、安心したように笑いました。


「あなたは、誰ですか……?」


 彼の、安堵と困惑の入り混じった赤い瞳は、ひどく印象的でした。


 それは、ただひたすらに赤。

 赤、紅、緋。上質な赤ワインよりも、鮮血よりも赤く。吸い込まれてしまいそう、そんな錯覚にさえとらわれるくらい。眩暈がします。


 時の流れが、止まってしまったみたい。


 わたしが見つめすぎたからでしょうか、彼はきょとんとして首を傾げました。


「あっ、オレ? オレは、モンブラン・クレイス」


 大きな赤い瞳に、茶色がかった赤い髪。年は、わたしと同じ高校生くらいでしょうか。

 服装は、白いシャツに紺のジーパン。とてもラフな格好です。わたしの学校でイケメン君と評判だった藤野くんより、きっとかっこいいです。女の子から黄色い悲鳴が上がりそうな感じですもの。

 

 そこで、ハッと息を呑みました。


 今更ながらにしてわたしは、重大なことに気がついてしまったのです。

 

 どうしてわたしは、樹林の生い茂った、まるで外国の森のような場所にいるのでしょうか……?


 たったのさっきまで、電車に揺られて帰宅途中だったというのに。

 

 いくら辺りを見回しても、鮮やかな緑色の樹林が無限と思えるほどに続いているだけ。

 呼吸をすると、冷たい綺麗な空気が肺にすべりこんできます。  

 

 さらに、わたしは大樹に寄りかかって気を失っていたということに気がつきました。どうもさっきから背中の感触がゴツゴツすると思っていたんですよね……ええと、そんなことはどうでもいいんです。


 わたしは思い切って、根本的な疑問をモンブランさんにぶつけました。


「……ここは、どこですか?」


 彼はわたしのすっとんきょーな質問に大きな目をぱちくりさせました。


「ここは、眠りの森だけど……もしかして、知らねぇで来たの?」


 …………頭が痛くなってきました。


 もしかしないでもわたし、とんでもない状況にいるのではないでしょうか? 


 もちろん、平凡なわたしの頭は全く今のこの状況についていけていません。今にもヒステリックを起こしそうです。むしろ、対応できてしまった方が危ないと思います。


 とりあえず。

 パニックを起こしかけているこの頭を落ち着かせるために、一旦状況を整理しましょう。

 

 わたしは音羽 文佳。日本のしがない女子高校生の一介に過ぎない者です。


 わたしは、ほんの数分前までは本当にいつもどおり、ただ電車に揺られて学校から帰宅していました。その途中、日々の疲れがたまってか自然とまぶたが重くなって……目を覚ましたら、この様です。さっぱり理由わけが分からないです。


 今にもパンクしそうな頭を抱えて一生懸命いっしょうけんめい思考をはりめぐらせていたら、いつの間にか彼がそんなわたしを心配そうに見ていました。まるで、捨て猫をみるかのような哀れみの目です……。


「お前、一体どこから来たんだ? ……見たこともねぇような服着てるけど」


 すぐに自分の服を確認しました。なーんだ、ただの何の変哲もないセーラー服じゃないですか。


 セーラー服を見たこともない服って言うだなんて、やっぱりこの人ただ者じゃありません。まぁ、それを言うなら容貌から既にただ者ではありませんが。めったにお目にかかれないような美男子さんですからね。


「わたしは……日本から来ました」

「ニホン? 聞いたことねぇ地名だな……ミルフィーなら分かるかな」


 お、恐ろしい……話の噛みあわなさが半端ないです。


「日本は地名じゃないです。国の名前なのです」

「えっ、国? んー……そんな国、聞いたことねぇな。そこって、すごく遠いの?」

    

 少なくとも、日本を知らない人が存在する場所からはものすごく遠いと思います……なんて、親身になってわたしを助けようとしてくれている彼に言えるはずがありませんでした。


 このまま話していてもらちがあかない。

 そう思ったわたしは、思い切って皮肉に思われるかもしれないという覚悟を決めて、こう言いました。


「ええと、モンブランさん。地球って星は、知っていますか?」


 思わず、目をつむりました。


 だって、もしここが地球だったら……わたしは、自分の恩人さんに向かって、何という皮肉を言ってしまったんでしょうか……!


 びくびくしながら、彼の次の言葉を待っていると……


「チキュウって……。お前、まさか……レグシオンから来たのか!?」


 興奮した様子で、まくし立てるように言いました。信じられない、とでも言うように。 


 あまりの彼の驚きようにビックリして、目を開きました。

 モンブランさんは赤い瞳を極限まで見開いて、わたしを見つめていました。その透き通った赤い瞳には、彼の意外な反応に驚いているわたしが映っていました。

 

 しばし、沈黙の妖精さんがわたしたちの間を飛び回りました。


 わたしが、レグシオンって何だろう、なんてのんきに考えていたら、



「ってことは異世界人じゃねぇか……!!」 


 彼の驚愕の叫びは、森中を揺るがしました。


 ええと……。 

 結論、どうやら私は異世界とやらに来てしまったようです。


 事態は、わたしが思っていたよりも遥かに深刻だったみたいです。


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