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第三話「調子に乗ってとんでもない厄介事に巻き込まれてしまった」

サイリを抱えたままかなりの時間を走ってきた。

既に城塞都市は見えず、岩だらけの荒野が広がっているばかりだ。


抱えていたサイリが意識を取り戻したのを期に立ち止まった。


サイリは俺の腕の中で身じろぎして辺りを見回した。


「ここは・・・どこですか? 私は何を・・・」


「あのブロドとかいうろくでなしをぶっ飛ばして街を出た。

 ここは国境近くの荒れ地だ」


「私を・・・助けてくれたのですか? あなた様はどなたですか?」


とても奴隷とは思えない上品な喋り方だ。


「俺は無敵の魔導士、クロンだ。

 成り行きでこうなっちまったが、お前を助けたのはただの気まぐれだ」


「ありがとうございます。 クロン様。 私は・・・」


この時、急に髪の毛が逆立つような感覚に襲われた。

これは危険が迫った時の俺の本能のようなものだ。


「シッ! 静かにしろ! ちょっとヤバイ感じだ!」


何かが起きそうな気がする。


再びサイリを抱きかかえたまま走り出した。

出来るだけ早くこの場を離れた方がよさそうだ。


手前の岩を飛び越え、その向こうの大きな岩に飛び乗った時それが起きた。


足元の岩がいきなりせり上がると同時にすぐ横の地面から何かが飛び出してきた。


危うく転げ落ちそうになるのを何とか踏み堪え、地面に飛び降りる。

すると、地面から飛び出してきたものが俺をめがけて突っ込んできた。


この攻撃を間一髪でかわす。


何だ? 今のは!


そう考える間もなく、俺達をはねのけた巨岩がくるりと向きを変えた。

そしてその下から何本もの脚と一対の巨大な鋏が現れた。


ただのでかい岩だと思ったのはこいつの背中だったのか!


二本の鋏に囲われた中央にはずらりと並んだ四個の複眼。

その下には左右に開くおぞましい形の口が見える。


その化け物の後方からなにか太くて長いものが立ち上がる。


こいつは尻尾か!

その先端にはいかにも危険そうな刺が突き出している。


スクローム!


挿絵(By みてみん)


こいつの名前を思い出した。

岩場に棲む魔獣で、姿はサソリに似ているが大きさは桁外れだ。


普段は岩に擬態して獲物が来るのを待ち構えている。


そして、獲物を見つけると即座に長大な尾の先についた毒針で刺す。

毒で全身が麻痺した獲物は前側についた鋏で分解され、喰いつくされる。


こいつの特徴はやたらと装甲が頑丈なことだ。

普通なら一撃で倒せるほどの魔導力を使ってもそう簡単に倒せないらしい。


出来れば背中の剣で戦いたいところだが、サイリを抱えているのでそれもままならない。


毒針の付いた尾が繰り返し襲ってくるのをギリギリのところで避ける。


なにか方法はないのか・・・


ふと、親父の言っていたことを思い出した。


『思念力だけに頼るな』


思念系の魔導力は全ての魔導力の原点だ。

修練次第では他の系統の魔導力を使うこともできるようになる。


よし、思い出したぜ親父!


子供の頃に練習しただけで一度も実戦には使ったことはないが・・・


「気念操!」


気念系の魔導力は物質を操ることができる魔導力だ。

目の前にある大きな岩塊が宙を飛び、スクロームの上に落下した。

これで仕留められるほどスクロームはヤワな相手ではないが、わずかに時間稼ぎができた。


「ここにいろ! 出るんじゃないぞ!」


サイリを地面に降ろし、岩と岩の間にある隙間に入らせた。


「よーし! 今から本気でいくぜ!」


そう言って背中の剣を引き抜く。

優美な反りをもった片刃の剣が夕日を受けてギラリと輝く。


ちょうどその時、スクロームが巨岩をはねのけて俺に向かってきた。


「思念斬!」


挿絵(By みてみん)


魔導力を剣に込めて、襲ってきた尾を薙ぎ払い切断する。


続いて攻撃してきた左右の鋏も同じように切り飛ばし、無防備になった口へ剣を突き入れる。

更に魔導力を集中し、上方へ切り上げるとスクロームは真っ二つに裁断されて転がった。


「やれやれ、手間をかけやがって・・・」


なんとか一匹を倒して、一瞬緊張が緩んだ、その時。


「後ろ! クロン様!」


サイリの叫び声で振り返ったところへ別のスクロームが襲い掛かってきた。

突き出してきた毒針の尾を紙一重でかわす。


さらに後ろ側にもう一匹、別のスクロームが突進してくる。


スクロームの厄介さは装甲が頑丈というだけではない。

こいつらは集団で生息している。

そして、一度その中の一匹が獲物を見つけると、次々と覚醒して集団で襲ってくる。


現に何匹ものスクロームが辺りで覚醒して動き始めている。

このままではあっという間に取り囲まれて退路を絶たれてしまう。


「こっちよ! こっちへ来なさい!」


再びサイリが叫んだ。


しかも、あろうことか一段高い岩の上に立ちあがって大声を出している。


あのバカ!

隠れてろと言っただろうが!


だが、その声につられて俺の正面から迫ってきた群れが向きを変え、サイリの方へ走ってゆく。


そこに出来た隙間を見逃さず一気に駆け抜け、一段高い岩棚の上へ飛び乗る。


岩棚の上を全力で走り、サイリの元に駆け付けると、スクロームの群れが既に真下に迫っていた。


「飛ぶぞ!」


サイリを抱き上げて前方の岩棚へと飛び移る。

しかし、その向こうには何匹ものスクロームが岩棚へ這い上がってきている。


「チッ、こっちもだめか!」


前も後ろも岩棚へと這い上がってくるスクロームの群ればかりだ。


「クロン様、あそこ!」


サイリが指さす方を見ると、崖の中腹に細い亀裂が見える。


あの狭さならスクローム共は入ってこられないだろう。


俺はすぐ前方に迫ってきたスクロームの背中を踏み台にして亀裂のところまで一気に飛び上がった。


亀裂の幅は人ひとりがなんとか入れるくらいしかない。


「歩けるか?」


「はい! 大丈夫です」


サイリを地面に降ろして先に亀裂の中に入らせる。


俺が中に入るとすぐに亀裂の入り口にスクロームが群がって、鋏や尾を中に突っ込んでくる。

しかし予想通り内部へは来られないらしい。


とりあえず危機は脱したが、もう同じところから出ることはできない。

亀裂はずっと奥の方へ繋がっているようだ。


暫く進むと亀裂の上方が閉じて洞窟のような状態になった。

左右の幅も若干広くなったのでサイリと入れ替わって俺が前を歩くことにした。


次第に外光が入らなくなり、周りは漆黒の闇になった。

俺は暗闇でもある程度周りを知覚できるが、サイリは全く何も見えないので手を引いて歩く。


洞窟は次第に広くなっているようだ。

なにか妙な雰囲気ではあるが、特に危険な感じはしない。


周囲を警戒しながら奥へと進んでゆくと前方にかすかな明かりが見えた。


外へ通じているのか?

しかし、そうではないらしい。


更に進んで行き、洞窟を曲がったところでその明かりの正体が分かった。


そこは急に広くなっていてちょうど俺達の正面の岩壁にぼんやりと光っている部分がある。


「あれは、何でしょうか?」


サイリが緊張した声で訊ねるが、そんなものは俺にもわからない。

ただ、ひょっとしたら・・・


近づいてみるとそれは岩壁に開いた何かの入り口のように見える。

それまでの洞窟とは全く違う。


それは岩でも金属でもない奇妙な材質で出来ていて、明らかに自然のものではない。


暫くそこに立って様子をうかがっていたが、何の音も聞こえず危険な感じはしない。


よし、入ってみるか。

洞窟はここで終わりのようで、どうせ他に行きようがない。

だが、その前に・・・


「サイリ、さっきみたいな真似は二度とするな」


「えっ?」


サイリは何か解っていないような表情だ。


「あのスクロームを自分の方へ呼び寄せただろうが!」


「あ、あれはクロン様が・・・その、危ないと思ったので・・・」


「余計なことをするな! あんなもの俺一人で十分だ!」


「は、はい。 申し訳ありませんでした」


そう言って素直に頭を下げるサイリを再び抱え上げた。


「あ、あの・・・私、歩けます」


「バカ! 下を見ろ。 こんなところ裸足で歩けるか」


入り口の向こうは通路のようだが、床には色々なものが転がっている。

この上、足にけがなどさせたらますます厄介なことになる。


「いえ、大丈夫です。 ずっと裸足でしたから」


そうか・・・けっこう辛い目に遭ってるんだな。

サイリを地面に降ろして軽く肩を叩く。


「さあ、行くぞ」


「はい」


サイリが小さく返事をした。


俺達はかすかな光に満たされた通路へ一歩踏み出した。



--以下、第四話に続く--










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