根っからの野党
首相のイス――。
イスの前に立ち、ジェームズ・スプリングは涙ぐんだ。
ついにこれに、座れるんだね――。
スプリング新首相はイスの背もたれをなでなでした。愛おしくて堪らず、舌でぺろぺろと舐めた。
が、すぐにはっとした。
慌てて、机の上にあった消毒スプレーをイスにさっと吹きかけた。
「崖っぷち首相の汚れを、きれいにしとかないとね」
ぶつぶつ言いながら、布切れでイスを、すみずみまでゴシゴシと拭いた。
そうしていたら、首席補佐官が部屋に入ってきた。
首席補佐官は、イスを拭いている首相に怪訝そうな視線を向け、言った。
「首相、そんなことをしてる場合じゃないですよ」
「何かね?」
「何かねって……。国会が始まるんですよ。準備しないと」
「そうだね」スプリングはイスに座った。座ったまま、イスをくるくると回し、
「早速、あれを持ってきたまえ」きゃっきゃと言いながら、補佐官に命じた。
補佐官は「あれって、何ですか?」と言った。
「あれだよ、あれ。印象薄い名前だから忘れちゃったけど、ほらほら、いつも誹謗中傷記事ばっか書いてる、あの週刊誌だよ。早く持ってきて」
「どうしてですか?」
「だって、国会が始まるんだろ? 自民党を追及しなくちゃ。国会会期中、追及しまくって審議を止めてやらなくちゃね。ほんでもって、何も決まらないのは自民党ちゃんの責任だとさらに追及して、我が党の得点にしなくちゃね」
「何言ってるんですか? 我が党は与党になったんですよ?」
「うん。……だから、何?」
「だから、得点稼ぎなんて、もう必要ないんですよ」
補佐官の言葉を聞き、スプリング新首相は心底残念に思った。自民党のあらを探し、そいつを追及する。政治家冥利に尽きるその喜びを、もう味わえないの? あまりに落胆して、涙ぐんだ。
そして、ぐすぐすと泣いているうちに、不安も感じ始めた。
不安はどんどん大きくなっていき、やがてスプリング新首相をすっぽりと飲み込み、彼をコマのようにくるくると回した。
眩暈を感じた。新首相は気持ちが悪くなった。吐きたくなった。
堪えられなくなり、新首相はくるくると回していたイスを止めた。そして、思い切って、自分の抱いている不安を、補佐官にぶつけてみた。
「じゃあ、国会で、何するの?」




