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プロローグ



この世界では、人は決して一人では生きていない。


それは比喩でも、詩でもない。

文字通り、人間は「二つの魂」で人生を歩む存在だからだ。


はるか昔、人類がまだ文明と呼べるものを持たなかった時代から、人は自分の内側にある力に気づいていた。胸の奥で燃え続ける、説明のつかない熱。怒りや悲しみ、希望や願いに呼応して脈打つ、生命の深層の鼓動。それを人々は「ソウル」と呼んだ。


ソウルは、人間という存在の核である。

同時に、それは人間という器にとってあまりにも強すぎる力でもあった。


もしソウルを内側に閉じ込めたまま成長すれば、人の身体はやがてその力に耐えきれなくなる。魂の原型であるそのエネルギーは、生命の形を守るための均衡を破壊し、肉体と精神を内側から灼き尽くしてしまうのだ。


だから人類は、ひとつの方法を見つけた。


ソウルを「外へ流す」方法を。


それが「魂の契約」である。


自我が芽生える二歳前後の頃、人は社会の一員として、ひとつの儀式を迎える。魂の契約――それは、人間の内側に満ちたソウルを外界へ解き放ち、そのエネルギーを新たな存在へと変換するための古い儀式だ。


契約の瞬間、ソウルの一部は形を持つ。


獣のような姿を持つ者。

精霊のような姿を持つ者。

あるいは光や影のように定まらぬ存在。


人の魂から生まれたそれらの存在を、人々はこう呼んだ。


――幻獣。


幻獣とは、人間の分身でありながら、人間とは異なるもう一つの生命である。

それは武器ではない。使役される奴隷でもない。

幻獣は、契約者の魂が世界と出会うことで生まれた「もうひとつの可能性」だ。


人は幻獣と共に生きる。


幼い頃は遊び相手として。

成長すれば旅の仲間として。

時には戦場で背中を預ける相棒として。


笑い、喧嘩し、共に迷い、共に選び、共に未来を進んでいく。


だからこの世界では、こう言われている。


「人間は、友を持って初めて一人前になる」と。


人と幻獣の関係は、社会そのものの形を変えた。


都市の防衛には幻獣が用いられ、

探索者は幻獣と共に未踏の地を進み、

農村では土を耕す巨獣が働き、

学者は幻獣の生態とソウルの理論を研究する。


世界は、人と幻獣が織りなす文明によって築かれていった。


だが、この力を扱うには技術が必要だった。


ソウルは強大である。

幻獣は自由である。

その両方を制御し、共に戦うには長い修練が必要になる。


そこで生まれたのが、「モンスター・テイマー」と呼ばれる存在だった。


モンスター・テイマーとは、幻獣と共鳴し、ソウルを制御し、世界の危機に立ち向かう者たちの総称である。彼らは戦士であり、探検家であり、研究者でもあった。人類が未知の大地へ踏み出すとき、必ずその先頭にはテイマーたちがいた。


そして、テイマーとして正式に認められるための関門がある。


それが――


「ハンター試験」。


四年に一度だけ開催されるこの試験は、世界中の若きテイマー志望者たちが集う、最も過酷で最も名誉ある試練として知られている。


試験の内容は毎回異なる。


危険な秘境を突破する探索試験。

幻獣同士の戦闘能力を競う対戦試験。

知識と精神力を試す知性試験。

時には命さえ賭ける極限状況も用意される。


その目的はただ一つ。


「本当に世界を背負う覚悟がある者」を見極めること。


なぜなら、テイマーとは単なる戦闘職ではないからだ。

彼らは、人と幻獣の未来を繋ぐ存在なのだ。


この試験を突破した者は、正式なハンターとして世界を旅する資格を得る。

未知の幻獣を発見する者。

失われた文明を探る者。

災厄級モンスターを討伐する者。


ハンターたちは、それぞれの目的を胸に世界へと旅立っていく。


そして、四年に一度のその年――

再びハンター試験が開催されようとしていた。


世界中の都市から、辺境の村から、

数えきれないほどの若者たちが集まってくる。


それぞれの幻獣を連れて。

それぞれの夢を抱いて。


たくさんの幻獣や志を持ち合わせる若きテイマー候補の中に一人だけ――

とびきり変わった少女がいた。


辺境の小さな村、タマネギ村出身。

自称「村いちばんの天才モンスター・テイマー」。


名を、サーシャ・シュヴァルツシルト。


彼女の隣には、

普通の幻獣とは到底思えない奇妙な存在が浮かんでいた。


四角い。


ただ、それだけの形をした幻獣。


名前は――


キューブ。


そしてサーシャは、胸を張ってこう言うのだった。


「こいつはね、世界でいちばん強いモンスターなんだ」


その言葉を信じる者は、まだ誰もいなかった。


だが――

この出会いが、やがて世界の常識を揺るがすことになるとは、

このとき誰も知らなかったのである。

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