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おいおい、マジかよ

「ヴァァァァ……、やっと休憩か……」


 無事に朝7時に家を出て、親父の運転する車はすぐに高速道路に乗ることができた。

 順調に進み、さあサービスエリアで休憩だ!と思った矢先、入る予定のサービスエリアが謎の混雑。

 これは休憩どころじゃないと次のサービスエリアでの休憩に切り替えたまではよかったんだ。

 しかし、次のサービスエリアにはトイレと自販機しかなく朝食は無理。

 そこから車を走らせてようやくちゃんとした休憩となったのだ。


「ここで40分くらい休憩すれば、ちょうどいい時間に着けるだろう」


 そんな親父の一言で長時間の休憩が決まり、フードコートでそばを食べた俺は何か面白そうなものはないかと物色を始めた。

 おじさんの新しい奥さんや子供に何かお土産でも買えたらいいな~なんて思っていると1つの商品が目に留まる。その商品の名はひとくちチーズケーキ。…デイジーちゃん確かチーズケーキ好きだって言ってたな。

 よし、買おう。2つ買おう。賞味期限は再来週。オッケー、来週ライブある!

 お土産とデイジーちゃん用に陳列されてる箱を2つ手に取ると早速レジに向かう。

 これでデイジーちゃんの好感度ゲットだぜ!!






「よーし、トイレは大丈夫か?飲み物も買ったか?」


 休憩を終えて、車に乗り込んだ俺達一家。親父の最終確認に母さんと俺は口々に答える。


「ええ、大丈夫よ」


「さっきお土産と一緒にお茶買ったから大丈夫」


 俺達の返事を聞き、親父が深呼吸すると


「よし、じゃあここからは休憩なしだ。ちゃんとシートベルトするように」


 と言って車を動かし始めた。ああ、またここから暇な時間が始まるのね…。

 携帯会社の動画サービスで何か映画でも見るか、それとも久しぶりにがっつりソシャゲでもやろうか…。

 なんてぼんやり考えていると助手席の母さんが俺の横に置いてある袋に気付く。


「ねぇ魁人。その袋なんなの?」


「ああ、これは時光のおじさんとデイジーちゃんへのお土産だよ」


「時光さんはわかるけど、なんであんたの好きなアイドルが出てくるわけ?」


「え?デイジーちゃんチーズケーキ好きで、俺がそれを見つけたからなら買うしかないでしょ」


 何を言っているんだ母さんは。俺の返事に呆れたのか母さんは溜息をついてこう返す。


「……あんたね、ちゃんとした時にまでアイドル持ち出すんじゃないわよ」


「まあまあ母さん、いいじゃないか。変な光る棒やアイドルのCDを持ってこなかったんだ。好きなアイドルの好物を土産に選ぶくらいかわいいもんだ」


 呆れた母さんをなだめるかように俺をフォローしてくれる親父。

 フォローしてくれるのは嬉しいんだけど、変な光る棒って言い方はないだろ?

 ただの大閃○アークの浅葱だぞ?


「……確かにそれに比べたらチーズケーキくらいかわいいものよね。それさえ言わなきゃお菓子をお土産に持って来たとしか思われないもの」


「だろ? 昔だったらまずCDを配ってたんだ。それに比べたら成長してるよ」


 その件については申し訳ない。あの頃は若かったんです。若気の至りです。

 調子に乗って50枚買ってすいません。まあ、それ去年の年明けの話なんですけどね。

 思い出したくなかった黒歴史を掘り返されてぐぬぬ、となってるとスマホから通知音が鳴る。

 なんだろうと思って見てみるとデイジーちゃんのSNS更新通知だった。

 話してる場合じゃねぇ!即リプ送らなきゃ!!

 慌ててスマホのロックを解除してSNSを開くとそこには


『遠征行けなくてごめんなさい。でも今日は大事なお出かけの日なんです。緊張するけど頑張ってきます!』


 そっか……。デイジーちゃんも大事な用事で出かけてるんだ。緊張ってことはオーディションかなんかかな?

 うまくいきますように。そんな願いを込めて俺がデイジーちゃんに送ったのは


『デイジーちゃんならきっと大丈夫!俺も出かけてるけど、デイジーちゃんの好きなチーズケーキ見つけたから買っちゃった。今度渡すから楽しみにしてて!!』


 送信完了から2分後。もう1回通知音。その内容は俺の送った言葉に対するデイジーちゃんからのハートマークだった。





 無事会場、と言っても元々はじいさんの、今は伯父さんの家なんだけど。

 そこに着いた俺達は正月の宴会なんかで使うような広間に通された。

 すると、親戚筋がほとんど揃っていたみたいでざわざわと話し声が聞こえてくる。

 ちなみに全員礼服かスーツ。今日って結婚式だっけ?


「おお、やっときたか。お前たちはこっちだ」


 なんて1番奥から声を掛けてきたのは親父の兄貴。長男だから、と所謂本家を継いだ伯父だった。


「やっときたか、って。始まる20分前に着いてんだから別にいいだろ」


「やっぱ高速混んでたのか?」


「道はそこまで。ただ、サービスエリアがなぁ」


 なんて兄弟のやり取りを見ながらふと思う。


「そういや、時光のおじさんどこにいるんだろ」


 行儀が悪いとは思いながらも後ろを向いてきょろきょろと見回す。

 すると縁側あたりで他のおっさん連中と話してるおじさんの姿が。

 まだ新しい奥さんと子供は来てないみたいだな。


「昨日夜に兄貴に電話したらあいつだけ昨日ここに泊まって、奥さんたちは時間ギリギリくらいに着くそうだ」


 俺の様子を見て、何か察した親父が俺に声をかける。

 まぁ、ウザ絡みされる時間は少しでも少ない方がいいもんな。


「ちょっとみんな手伝って~」


 なんて伯母さんの声が聞こえるとおっさんたちが何をするのか把握してるのかそれぞれ散っていく。

 さすが俺が子供のころにしょっちゅう宴会やってただけあって、皆慣れてるわ。

 つかよくスーツなのにあんな動けるよな。





「本日はご多忙中のところ、瑛二郎の再婚祝いということでこちらに足をお運びいただきましてありがとうございます。あの件があって以降、みんな心配しておりました。時間が経って、瑛二郎も前を向けるようになって本当に嬉しい! 本人や新しい家族の方の緊張をほぐすためにも今は瑛二郎から一言もらうつもりないですが、後から何か言ってもらおうと思ってます。準備しといてください。では、お手元のグラスをお持ちください。瑛二郎の幸せを願って、乾杯!」


 なんて伯父さんの挨拶で会食が始まる。

 テーブルをいくつも運んで、広間に置いていく。

その上にオードブルや寿司など、色々な料理が並ぶと極めつけは縁側に置かれたビールサーバーとジョッキ。

 伯父さん曰く一族は酒が大好きで、じいさんが元気だった頃バーベキューなんかでは酒屋さんからビールサーバーを借りていたらしい。

 ここ何年かはじいさんが亡くなったり、おじさんの騒動だったりで新年の宴会くらいしかやってなかったからビールもケースで買うくらいしかしてなかったみたいだけど。

 だからこういう宴会の時は席次が決まってない。

 田舎で、すげぇデカい家の大広間だからできる上座の方に料理を固めて、好き勝手取れ。

 下座の方に座卓と座布団は用意しとくが好きなところで食え。ただし、こぼしたらすぐ拭け。

 なんて清水家特有の宴会システム。


「魁人、ビールお代わり」


 そう言って空のジョッキを俺に差し出すのは母さん。親父も酒好きだけど、運転があるから飲めないわけで。

 不満そうにジョッキに入った炭酸をあおる。あの色から察するにカナダ産の生姜の入った炭酸飲料かな?

 アメリカの禁酒法時代に酒代わりによく飲まれてたみたいだし、酒代わりにはもってこいってか。


「……へいへい」


 ため息をつきつつビールサーバーからビールを注ぐ。ビールは7割、泡は3割っと。

 なんでそんなこと知ってるのかって?ライブハウスのバーカウンターのお姉さんに教わったのさ。

 バー営業の時はグラスを使うからその時は7:3で注ぐのよ、他の店は知らないけど。って。


「俺、ちょっと時光のおじさんとこ行ってくるわ」


 これ以上酔っぱらいの面倒は見たくないし、今日の主目的である時光のおじさんとその奥さんたちへの挨拶をするべく席を立つ。


「時光のおじさんは…っと」


 おそらく時光のおじさん一家は遠慮して隅っこの方に行くであろうと思い、そこそこ長い広間を端へと歩き始める。すぐに新しい奥さんや子供、女の子か。3人で料理を食べてぎこちないながらも家族の団欒をしている様子を見つけた。声を掛けようとしたら時光のおじさんが席を立つ。どうやらトイレに行ったみたいだ。勝手に奥さん達に声を掛けても不味かろうと後を追い、トイレから出てくるのを待つことにする。





「おじさん!」


「……お、魁人!」


 手を拭きながらトイレから出てきた時光のおじさんに声を掛けると一瞬驚いた顔をするがすぐに笑顔になって答えてくれる。


「新しい奥さんと娘さんに挨拶させてよ」


「ああ。俺の娘になってくれた子は前も話したけど、とってもいい子だから仲良くしてやってね」


 2人連れ立って広間に戻ると時光のおじさんは奥さんと娘さんに声を掛ける。


「2人とも、ちょっといいかな?紹介するよ、俺の従甥の清水魁人だ」


「あらあら、この度瑛二郎さんと結婚しました。愛依子です。よろしくお願いします」


 そういうと愛依子さんは軽く頭を下げる。続けて何かを食べていたのか口元を手で押さえて皿の方を向いていた娘さんがこっちを向いて挨拶をする。ってちょっと待って?


「はじめまして。……えっ! なんでここにいるの?!」


 うん、そうだね。そりゃ驚くよね。俺だってめっちゃビビってるもん。

 おいおいおいおい、そりゃ繋がりたいのはやまやまだけどさ。そういう繋がりじゃねぇんだよ。


 俺の目の前にいる女の子。時光のおじさんの義娘になった子。

 その子は俺の推しでした。


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