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ぶっぱんなう

本日3話目。

18時更新の1話、21時更新の2話もどうぞ!

0章これにて終了です!

「デイジーちゃん、来たよ~! 今日もかわいすぎて死にそう」


「まだ死んじゃダメ! もっと売れて有名になったあとに卒業するからそしたら死んでいいよ♪」


「やめろ~!」


 いつものやり取りをしながら俺達はチェキ撮影のために横に並ぶ。

 そんな俺を茶化すかのようにアイリスさんが話しかけてきた。


「さきがけくん、デイジーガチ恋なのはわかるけどまだ撮影してないから早く撮っちゃお」


「あ、すいません。お願いします」


「は~い、5枚だっけ? じゃあ撮るよ?」


 そう言ってチェキのシャッターを切るアイリスさん。

 個人的な話になるんだけど撮影前に長々と喋るのは押す、時間が遅れる原因になったりするからあまりしたくない。なのに今日はやってしまった。反省はするけどだってしょうがないじゃない、1週間ぶりなんだもの。

 チェキ撮影はスタッフさんがやる場合と、ユニットの場合メンバー同士で撮影し合ったりする場合。

 更には後ろに並んだヲタクに撮ってもらう場合がある。まだロスヴァイセに出会う前、俺もやったことがある。


「なんかいっつも同じようなポーズだよね。なんか新しいポーズしよっか」


「いいね、じゃあ内緒話してるような感じのやつやっていい?」


「おっけー、やってみよ!」


 毎回ピースサインとか手でハート作ったりとかのポーズしかやってないことに気付いたデイジーちゃん。

 その言葉を待っていたんだぜ。デイジーちゃんの耳元に顔を寄せるとそのままシャッターに合わせて囁く。


「アイリスさんともチェキ撮っていい?」


 耳元で囁かれてぞわっとしたのか一瞬びくっとするが、意図を察したのか少し笑って頷くデイジーちゃん。

 なんでガチ恋の俺が推し(嫁)以外とチェキを撮るのか。浮気していい?って聞いたのか。

 答えは簡単。スピカさん以外に今日誰ともチェキを撮っていないから。

 人気がないわけじゃない。濃い、それこそフリー時代からずっと支えてきたヲタクが今もアイリスさんの近くにいる。スピカさんもそんなヲタクの1人だし、そこへのリスペクトがあるからメンバーの中で唯一女神の名を冠していない。まるで彼女はそのままでも女神だというように。

 そんな彼女も人間で生活がある。

たまたま少ない日があるのは仕方ないがそれでも交通費と晩御飯代くらいのチェキバックはあっていいじゃないか。

 あ、チェキバックっていうのは事務所に所属してる地下の子がチェキを1枚撮るごとに入る歩合手当みたいなもので、500円のチェキなら200円くらいがバックになる。2ショットだと半々か4:6かな?そこは事務所によって違うんだけど。


「は~い、じゃあ5枚撮れたからこれね」


「アイリスさんありがとう!」


 撮影したチェキ5枚を受け取るとデイジーちゃんはマジックを持って落書きする。

 地下アイドルのセンスが問われるこの落書き作業。地下でも売れてくるとサインと日付くらいしか書かれないんだけど、嬉しいかな悲しいかなまだロスヴァイセはその領域じゃない。

 ここから落書きが終わるまで、何分間は俺とデイジーちゃんのお話しタイムでもある。


「あ、そういや今日見てたよ。真ん中でめっちゃ私の名前呼ぶからちょっと笑っちゃったじゃん」


「ごめんて。迸る熱いパトスが俺を神話にしたがってね」


「誰がうまいこと例えろと。神話じゃなくて黒歴史にしないでよ」


 そう、ヲタクは情熱の赴くままに行動して後からめっちゃ恥ずかしくなることがある。

 魔族の姫じゃなく普通の人だったとか。かつての魔眼も今は近眼だったりとか。

そんな二次元的なものから着替えがないからって上半身素肌にパーカー着て推しとチェキ撮ったりとか。

メンバーの自己紹介の時に柵に昇って名前を叫んだら、スタッフさんの撮影カメラに入り込んで動画投稿サイトにさらされたりとか。そんなものまで。


「お、おおお俺がそんなことす、するわけないじゃん」


 ごめん、この前小さい声だったからデイジーちゃんに聞こえてないと信じたいけど、ガチ恋口上ミスってめちゃくちゃ恥ずかしい思いしました。


「ちょっとその返事信用できないけどいいの~? ま、いいや。はい、チェキ」


 そう言って俺にチェキを渡すデイジーちゃん。もうこれでひとまずお別れだ。


「ありがとう。じゃあまた戻ってくるから後でね」


「うん、待ってる」


 お互いに手を振り合ってその場から離れる俺。

そのあとすぐに並びが少なくなった物販列にまた並ぶ。


「追加いっすか。ダメって言ってもやりますけど2チェキ10で」


 再び自分の番が来ると笑いながらスタッフさんにそう言った俺は財布から1万円を取り出すと物販机に置く。


「ちょっとさきがけさん今日どんだけガチなんですか」


 笑顔でそう答えるスタッフさんは俺が置いた1万円札を金庫にしまうことで了承の意を示す。

 いや、笑顔って言うか

ちょっwwwさきがけさんwwwチェキどんだけガチなんですかwww

みたいに草生やしてる顔かな?


「アイリスさん4枚とデイジーちゃん6枚でおねしゃす」


 普段と違うオーダーに少し驚きつつもスタッフさんは笑顔を絶やさずにいつもと少し違う言葉を返す。


「わかりました。デイジー混んでるけど、先にアイリス撮ってデイジーでお願いします」


「うっす。じゃあ行ってきます」


 こうして俺は再びチェキ撮影に臨むのであった。…ヲタクすぐ物販の予算オーバーする。




「お、またデイジーとチェキ撮りに来たの?」


 俺に気付くとアイリスさんはデイジーちゃんとチェキを撮りに来たものだと思ってデイジーちゃんの隣を促す。

 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。デイジーちゃんとも撮るよ?もちろん撮るよ?でもその前に。


「あ、その前にアイリスさんと4枚です」


「えっ。私と!?ホントに私でいいの?」


 いつもならデイジーちゃんに全ブッパ(有り金全部使う)する俺だからやっぱり驚くよな。

 そんな驚いたアイリスさんからチェキを取り上げたデイジーちゃんはアイリスさんの肩を叩いてこう言った。


「さきがけが言ってるんだからいいのよ。ほら、さっさと撮るわよ」


 デイジーちゃんに促されて俺の横にくるアイリスさん。背が高いな~なんて思ってたけどこうして横に立つとホントに高いや。たぶん俺と変わらないくらい。ちなみにデイジーちゃんは俺よりも20㎝は低いと思う。


「……ありがとね」


 不意の一言にふっと横を向くとアイリスさんの顔が目の前に。

 ちょっとやめてくださいよ、僕にはデイジーちゃんってお嫁さんがいるんです。惚れないで。

 なんてギャグにもならないことをドキドキしながら思っているとアイリスさんの手がふわりと俺の頭に乗せられる。


「今日も物販いっぱい買った良い子にはおねーさんがご褒美をあげよー」


 こ、これは。年上のお姉さんからの頭なでなで。こいつに萌えないヲタクはいねえぜ。

 やばい、推し増しの可能性。いや、デイジーガチ恋だろ俺。落ち着け、冷静になれ。


「……はい、チェキ撮り終わったよ」


心なしか感情が無くなったデイジーちゃんの声に我に返った俺はデイジーちゃんに慌てて弁解する。


「待って、これはおねーさんに弱い高校生特有の現象だから。俺はデイジーちゃん一筋だから」


「ふーん。そうなんだー。ごめんね、おねーさんじゃなくて」


 ……デイジーちゃんの機嫌を直すために更に2チェキを追加したのち、物販終了時間になって本日の物販は終了するのであった。





 帰りの電車の中、今日のイベントについて思い返す。

 アイリスさんとチェキを撮ったことがどうやらバルさんあたりから伝わったのかスピカさんからLINEが来てた。


『先に帰ってごめんな。いきなり仕事の連絡きちゃってな。あ、アイリスさんとチェキ撮ってくれてありがとう』


 お礼を言われることじゃないんだ。撮りたいから撮った、それだけで。

 デイジーちゃんが1番。その気持ちに微塵も揺らぎはない。

 でも、デイジーちゃんだけ良ければいい、なんてことも思わない。

 デイジーちゃんを支えてくれるみんながいて、デイジーちゃんはデイジーちゃんでいられる。

 自分のチェキバックなんて気にせずに、周りのことを優先する。

 そんな彼女に、ほんの少しでも報いたかった。ホントにそれだけなんだよ。

 推し以外のことはどうでもいい、なんて思ってるやつはやっぱり多いけど。

 だからといって俺は真似したくないし、それをしたら俺が俺でなくなる。


「俺は俺にしかなれない。でも、それが俺なんだな」


 乗客がすっかりいなくなった電車に1人。静かな車内に響く独り言。


「あ~あ、デイジーちゃんと繋がって一緒に遊んだりしてぇなぁ」


 ヲタクとして絶対しちゃいけない、でもできるならそうなりたい。

 そんなまさかが起きてしまうだなんて全く思いもせずに、1人きりの車内で欲望を呟く俺なのであった。

バックの比率はたぶん物価の上昇に伴って、上がってると信じたい。

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