彼の選択は?
今日は土曜日。
珍しく現場もない俺は、スピカさんからの誘いに乗ってメシに来ていた。
ちょっと知り合いの話を聞いてやってほしい、って言葉に若干の面倒くささを感じながら。
そして、見事にその予感は的中するのである。
「なるほど。最近推しが冷たい気がすると」
「そうなんです。前まではもうちょっと返信くれたりとかしてたんですけど」
推しに干された、他界するべきか。
要約するとそんな感じのことだった。
好きにしたらええやんか……。って言葉は飲み込んだ。
スピカさんがなんと焼肉を奢ってくれたから!
朝食べてない身体に最初にぶち込んだネギ塩タン、あとマテ茶。
染み込んだ~。
そしてなんとなく来たカラオケ。フリータイム、18時まで。
そこで今この話をしているわけなんですが。
奢ってもらったらね! その分はちゃんと働くぜ!
「俺がさ、あーだこーだ言ってても。結局老害みたいなもんだから、どこかしら上から目線になっちゃうと思って。歳近いやつに話聞いてもらうだけでも違うんじゃないかなって」
スピカさんのその言葉で俺が呼ばれた理由にちょっと納得する。
焼肉奢ってもらったからいいんだけど!!
「まぁ、なんていうか。楽しめなくなったら終わりですよね、きっと。義務感だけで現場行くのは」
「そうですよね……」
「でもやっぱりまだ好きだから、干されるのもつらいけど、全く関わらなくなるのもつらい」
「そうなんですよ」
わかるわかる。俺もちょっと干されたときに病んだもんな~。
その時にちょうど失恋系の曲がテレビで流れてきてガチ泣きしたっけ。
「こんなんだったら他の子優先すればよかったです」
「え? 単推しじゃなかったんです?」
自嘲交じりにそう言った彼に引っかかる。
ん? そりゃ他の現場行き出したらアイドルもいい気しなくね?
「ああ、最近他にもいいなって思う子ができて。その子の現場にも行くようになったんです」
……原因それでは?
おいおいおいおい、話が違ってくるじゃんよ~。
「原因それじゃないです?」
「え、でもあの子は特別なんですよ」
その言葉にイラっとした俺はつい素に戻ってしまう。
「いや、特別だったら他の誰かを見る余裕なんてないから」
ロスヴァイセ、デイジー単推しガチ恋の俺がそうなんだから、絶対そう。
俺が重いだけかもしれないけど。
特別って言葉はそんな軽いもんじゃないんだよなぁ。
当り前じゃないんだよ、今の状況って。アイドルもオタクもお互いに。
いわゆる推され、干され、ってあると思う。
誰かの特別でありたいなら、誰かの特別でいたいなら。
その特別、を証明し続けないと。
特別だって状況が当り前じゃなくて、特別だと証明し続ける行動を当たり前にしないと。
俺はデイジーのことを特別だと思ってるし、言ってる。
ロスヴァイセ以外のアイドルに対して、SNSのフォロー以外のことはするつもりもない。
現場もロスヴァイセが出演するもの以外はほぼほぼ行かない。
今はプライベートで会えるようになったし、それで色々あって、色々手を貸したりもしたから境界線が曖昧で。
これでいいのか? なんて思うこともあるけど。
お互いがお互いのできる範囲で最大限「特別」を渡しあってるから成り立ってる状態を、自分から崩しておいて今まで通りがいい。はちょっと違うよな。
「う~んと、まず自分が今の推しさんとライトに接していきたいのか、何かあった時にアテにしてもらえるようなところにいたいのか。どっちかにもよるけど、この子は特別だけど他の子にもいい顔したい、とかならオタクのなんとかさんとして接するんじゃなくてさ。誰々推しのなんとかさん、で接して誰々が1番なのはあの人の中で不変だけど、それでも私をちゃんと見てくれてる。って方向にもっていかないとね」
100か0かでしかない人間だからきっと。
理屈抜きで特別だって思ったあの時から、全部つぎ込もうと思った。
その代わりに今まで特別だったものに興味がなくなった。
たぶん理由があれば動くんだけどさ。それでも特別だった時ほどの熱量はないんだよ。
今の特別、に対してもそう。
きっと特別たる理由がなくなった時。
どういう状況だろうと俺はすっぱり切る。
そんな気がする。
もっと器用に生きられたらいいんだけど。
無理だろうなぁ。理屈抜きで
「ちょっとズバッと言いすぎじゃね?」
かなり気まずい空気になった中、苦笑いで俺をたしなめるスピカさん。
いや~、すまねぇ。つい熱くなっちまった。
「自分がそうだと思ったんならそうなんだよ、自分の中で。それでその不安ってのは結局自分が動くことでしかぬぐえないから。離れて他の子に構ってもらって、だめになったらまた他の子に切り替えてってやるのもよし。ここで踏ん張って変わろうとするもよし。まぁ、でもさきがけの言ってることも間違ってないから。自分を大切にしてくれない人を大切にする必要はなくて。今までは大切にしてくれてるって伝わってたから、大切にしようと思ってくれてたんだ。それが伝わらなくなったら大切にはできないよな。後悔しなけりゃなんだっていいよ。自分の金や時間の中で、自分が自由に使える分をどう使おうが自分の勝手で。そこに誰にも文句は言えないんだから」
なんてスピカさんが言って話を締めて、俺たちはせっかくだしってことで歌い出す。
そしたらなんでかアニソン縛りになって、めっちゃ楽しかったんだけど。
とある歌をスピカさんがノリで入れたら全員の病みスイッチ入って死にそうなったwww
2番のサビやっべぇな。
この今日はじめましてのオタクがどんな選択をするのかわっかんないけど。
俺は俺のやることをやるだけだな。