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俺からのおごりです。

1週間なんとか毎日更新できた……。

 私、佐々木芽衣は声優になりたい。そんな夢を持って高校に入学した。

 父の転勤が多く、1つのところに長い期間落ち着いていられない。

 だから塾だったりの習い事は小さなころからやってこなかった。

 学校での友達、習い事でできた友達。別れる辛さが2倍になるから。

 高校を卒業したら、1人暮らしができる。

 そうなったら自由だ。好きなことに打ち込める。

 でも厳しい声優業界、自分が今から何かできることはないか?

 そう思ったときに誘われた地下アイドルのライブ。

 中学の時に仲が良かった同級生、その子が地下アイドルを始めて遠征という形でこっちに来るらしい。

 その時、これだ。って思った。でも引っ込み思案なまま、勉強と称してたまにライブに行くくらいで。

 何もできていない。そんな時に見かけたのが清水魁人くん。

 何故か彼が希望に見えた。表情には出してないと信じたい。

 でも、すがるような気持ちで声をかけて、今私はやりたいことに向かって進めたのかもしれない。


 レッスンが始まってまず私が思ったのは、簡単なことなのに意外と身体にくる。

 意識して腹式で呼吸をすることがこんなに腹筋にくるなんて、と驚いた。

 肺活量、という観点で言えば息を長く吸って、長く吐けることが望ましい。

 よって、1番遅く終われば1番肺活量がある、ということだ。

 私は1番最初に終えることとなった。その数秒後にデイジーちゃん。

 歌やダンスじゃ絶対勝てないけど、基礎ならフィジカルで誰かに勝てるかも。

 なんて思ってしまった。あとちょっと、足らなかった。


「初めてやるとけっこうキツイでしょ?」


「そう、ですね…。ちょっと腹筋が痛いかもです」


 腹式呼吸のみ行った後、滑舌トレーニング、オーソドックスな発声練習をして一区切り。

 全て腹式呼吸で行わなくてはならないため、私は普段使わない腹筋を使い続けることになった。

 わずかに痛む腹をさすっていた私に、アイリスさんが何事もなかったかのように話しかける。

 初めての基礎トレーニング。できないのは仕方ないとしてここまでできないとは……、と自分が嫌になりそう。

 それに気付いたのか、アイリスさんは私を優しく励ましてくれた。


「大丈夫。私達も最初は全然できなかった。下手すれば今の貴女よりも、ね」


「え、ホントですか?」


「ホントよ。ロスヴァイセができる前、オーディション合格後にやった初めてのレッスンなんかひどかったな~。歌もダンスもやったことない子達ばっかりだったから、当たり前なんだけどね。そこから毎日欠かさず今やったトレーニングとかをやり続けて、なんとかできてきたかな~、って。だから、今できなくても当たり前なの。大事なのは……」


「「「あきらめないこと」」」


 3つの声が重なって聞こえる。

 私がアイリスさんから視線をそらすと、再び近くにデイジーちゃん達がいた。


「うわ~、ひっさしぶりに聞いたな。アイリスのこれ」


「前に聞いたのってあれよね。解散したくないから独立するためにみんなでお金集めよう、って話し合った時じゃない?」


 笑いながらそう言うメリッサさんとデイジーちゃん。

 それに続いて、アイリスさんがこう言った。


「アイドルってすごく華やかに見えるんだけどね。実際はオタクで言う闇、みたいなことばっかりだし。そこに至るまでに色んなことやらないとダメなのよ」


「楽しいんだけど、上を目指すなら楽しんでばかりじゃいられない。辛いことが嫌なら、やらなくてもいけど。そしたらその時点でもう上には行けなくなっちゃう。でもね?」


 デイジーちゃんも頷きながらそう言うと、一拍置いて、さらに続ける。


「あきらめずにやり続ければ、何か1つ形になるから。それが貴女の武器になるから。それを見つけるためにも最初の1歩はしっかりと踏み出さないと」


 できない自分を笑うのではなく、良い方向に導こうとしてくれるその姿に力をもらった気がした。

 優しいな、嬉しいな。

 ここでやらなきゃどうするの! と自分を奮い立たせて3人に向かって元気に返事をする。


「はい!」


「お、元気出た。じゃあ、次は本格的に体動かしてくから。できる範囲でしっかり動かしてね?」


 アイリスさんの言葉に合わせるかのように、ぱっと離れて間隔を開けだすロスヴァイセ。

 今回もまた私はアイリスさんの近くで練習をすることになった。

 その様子を見守ってくれてた魁人くんが一安心、といった様子でそっとスタジオから出ていくのを視界の隅にとらえて。





「練習なんか普段絶対見ないもんな。あんな練習してたんだ」


 魁人は1人呟いて、家へと戻っていく。

 すると玄関のところでちょうど父と鉢合わせた。


「お、どうした魁人。外に出て」


 この時間はだいたいリビングにいることが多い息子。

 そんな息子が外にいることに驚いた父。

 それに対して、呆れたように魁人は返事をする。


「藍那が友達連れて今スタジオにいるんだよ。それで鍵あけて、掃除して、ってやってたわけ。つかなんで藍那がスタジオ貸してほしいってこと言わなかったんだよ。昨日いきなり藍那から聞いてびっくりしたんだからな」


「おお、悪い悪い。前々から瑛二郎と愛依子さんに貸してほしい、って言われてたんだけどな。一昨日だ。本格的に話が決まりそうになって、すぐお前に言おうと思ってたんだ。でもいきなり昼から客先対応で隣の県に行くことになって、帰りてっぺんよ。昨日は昨日で出張だから遅かったし、すまんな!」


 はっはっは、と笑いながら言う父だが、少し真面目な顔になって魁人にこう尋ねる。


「で、お前どうだ。できそうか? 無理にとは言わんが、週1日だけでも付き合ってやってくれると嬉しいんだ」


「まぁ、あっちのスケジュールとこっちのスケジュール合わせりゃいいから立ち合いするのはしようかなとは思ってる。あとは料金とか話し合ってからかな?」


「そうかそうか、いやぁよかった。じゃあ、これ使え」


 そう言ってカバンから封筒を取り出して魁人に渡す父。

 中身を見るとそこには契約書が入っていた。


「これ、ガチな契約書じゃん。どうしたの」


「もし、魁人がやってくれるってなったらたぶん毎週何曜日の何時から~、って決め打ちになるだろうし。更に言えばうちのスタジオなんて俺と母さん以外にはたぶん藍那ちゃん達くらいしか使わないだろうから、普通に賃貸契約でいいんじゃねぇかなって思って。会社で書類待ちの時にささっと作ってきた。お前未成年だから俺が貸して、立ち合いはお前。もう俺のところは名前書いてハンコ押してあるから。あとは日時と金額決めて、空いてるところに書いて、藍那ちゃん側で誰か大人の人がいればその人に名前とハンコ押してもらえば完璧よ」


「お、おう……。つか、あのスタジオ親父たちも使ってんのな。」


「最近は忙しくて使ってないけどな。この契約書2部あるけど、どっちも名前とハンコもらってくれ。そんで片方は俺か母さんに渡せ。もう片方はあっちの大人に保管するように言っといてくれ」


 意外と準備がいい父親なのであった。

 そんな父と一緒に家に戻った魁人は、家族で夕食を摂ると一度部屋に戻る。

 財布をカバンから取り出すと、再びリビングへと降りていく。


「ちょっとコンビニ行ってくる~」


「暗いんだから気を付けていきなさい」


「わかってる。って言ってもすぐそこなんだから大丈夫だって」


 なんてやり取りを経て、家からコンビニへ。

 店内に入るとカゴを取り、向かったのはおにぎりやサンドウィッチのあるコーナー。


「藍那はローストビーフサンドが好きって言ってたからそれ買うとして、他の人はなんか適当に買っていきゃいっか」


 ひとり呟いた魁人は目についたサンドウィッチやおにぎりをカゴに入れると、再び入口横からカゴを取って次はドリンクコーナーに。


「運動した後だし、とりあえずスポドリ買って、あとはまた適当でいっか」


 2つ目のカゴにまた色々な飲み物を入れていくとレジで会計をすまし、足早に家へ帰る。

 そのままスタジオに向かうと扉を開けて、様子を伺う。

 その瞬間、アイリスの声が響いた。


「はい、じゃあここで一旦終わりね。お疲れ様」


「お疲れさま~」

「おつかれ~」


 メリッサ、デイジーが返事をすると、それに続いて息の荒い芽衣も返事をする。


「お、おつかれさまでしたぁ…」


 ちょうどいい時に戻ってきたなぁ、なんて思いながら魁人はスタジオに入って全員に声をかけた。


「みんな、お疲れさま」


「ちょっと魁人、どこ行ってたのよ。立ち合いなんだから近くにいなきゃダメじゃない」


「いや、今親いるからなんかあればそっちに言ってくれた方が早いんだって。あ、これ今コンビニで買ってきたんで4人で分けてください」


 いなかったことを咎めるデイジーをあしらいながら、魁人はそう言ってアイリスに買ってきたばかりのものを手渡す。

 

「えっ、ちょっと重っ……! ねぇ、こんなにたくさんいいの?」


「あ、いいですよ。練習終わって、そこからごはん買って食べる~、だと遅くなり過ぎちゃうし。すぐ食べれるようにって買ってきたんで」


 袋の重さと、中身を見て驚くと同時に申し訳なさそうに言うアイリスだが、魁人はなんでもないようにあっさりと答える。

 それに真っ先に飛びついたのはデイジーだった。


「魁人~、ありがと~。あっ、私の好きなローストビーフサンドある~! これ高くて自分じゃあんまり買えないんだよね。わっ、しかも2つあるじゃん! 最っ高! ねぇ、いっぱいあるからみんなも好きなの取って!」


 袋の中を物色し、自分の好きなものをしっかり確保するとみんなにも持っていくよう促すデイジー。

 その飛びつき方に戸惑うアイリスから飲み物の入った袋を受け取ると、今度は飲み物を物色し始めた。

 それを見た他のメンバーもここでようやく袋に集まり出す。


「ねぇ、おにぎりあるかな? パンでもいいけどお腹にたまらなくて……。わ、めっちゃある! いくらとハラス? すご、自分じゃあんまり買わないかも」


「いくらのおにぎり?!ちょっとそれ私にちょうだい!」


 と、米派のメリッサが袋を漁れば、気になるものは全部ほしい藍那が反応する。


「わ、ホントにたくさんある。お米も食べたいし、サンドイッチも気になるなぁ……。ほら、芽衣ちゃんも!」


 何をもらおうか迷ったアイリスが芽衣を呼ぶと、汗を拭いていた芽衣もやってきて選び出す。


「あ、はい。すいません、いただきます。魁人くんこれ買いに行ってたんだね。ありがとう、ごちそうさま! でも、これちょっと多すぎない?」


 芽衣やアイリスが自分の分を持っていっても、袋の中身はまだたくさんある。

 それもそのはず。魁人が買ったのはおにぎり10個、サンドウィッチ等のパン類10個、ドリンク10本。

 全部10個ずつ。目についたものはとりあえずカゴに入れた結果がこれだった。


「え? いや、別に余ったら持って帰って明日の朝ごはんとかにすればよくね?」


 魁人のその言葉に、アイリスとメリッサの大人組はパッと目を輝かせ、魁人を見つめる。

 その視線に気付いた魁人は、右手の親指を立ててこう言った。


「俺からのおごりです。遠慮せずに持ってって……、ええんやで?」

次回更新は5月31日になります。

以降ちょっと週1、土日どこかでの更新となります。

他の制作との兼ね合いもあって申し訳ないです。

読んでいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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