閑話:女神に恋した魔法使い
父親が若くして亡くなり、母子家庭で育った私は、母の負担を減らそうとバイトを探していた。
そんな時に見かけた「アイドル候補募集!」というチラシ。
基本的に費用負担なし(負担はレッスン場までの交通費程度)、集客、売上に応じたインセンティブの支払いがあります。
……頑張れば頑張った分だけ、返ってくる。
その言葉に惹かれた私はその場で申し込みをして、社長と面接。合格をもらって、すぐにレッスン。
そうしてロスヴァイセのデイジー・ヴァルキリー、としてデビューすることになった。
最初はやっぱりお客さんなんて呼べないし、物珍しさで物販に来てくれるけど次はない。
そんな時、私はあいつに出会った。さきがけ太郎、こと清水魁人。
はじめましての瞬間は、実はあんまり覚えていない。
この人は私の、私達のファンになってくれるかな? なってほしいな。
そう思ってあいつの手を握って、限られた時間精一杯気に入ってもらえるように話したくらい。
それが良かったのか、その次のイベント。あいつはロスヴァイセの予約で会場に来た。
話を聞いたら、あいつは私を初めて見つけた時、歯車が噛み合ったような気がしたらしい。
そんなこんなでロスヴァイセも軌道に乗って、1年が過ぎ、そろそろ2年目の記念ライブの話をしよう、って時に言われた突然の解散宣言。
資金の回収ができなくて、会社の本業にまで影響が出る前に解散させたい。
と、社長に言われた私達は、ロスヴァイセであり続けるために、全てのものを買い上げることにした。
そこからの私達はいつも以上に力を入れる。ライブも告知も配信も、アイドルとしてできることは全部。
でも思うようにお金が集まらない。
そんな時、母にできた新しい恋人。時光のおじさん。私にもよくしてくれる優しい人。
会社をたくさんやってるおじさんなら、きっと母を幸せにしてくれる。だから一緒になることを許した。
おじさんに頼めばどうにかしてくれるけど、それはアイドルとしてやってきた私の努力を否定することになる。
「私の力」で解決できなきゃきっと意味ない。
だから、きっと神様が私達に味方してくれた。
時光のおじさんの親戚が集まる日。集まった家に、いつものように少し気だるそうな顔をしたあいつがいた。
デイジー・ヴァルキリーが持つ最高の切り札。
本人や他のファンのみんなは認めないけど、ロスヴァイセが認めた私のトップヲタ。
さきがけ太郎がそこにいた。
お互いプライベートで会うことなんて一生ないと思ってた。
全部話して助けてもらいたい、けど引かれたらどうしよう?
このタイミングで離れられたらどうしよう?
迷った私は、自撮り2ショット撮らせてあげる!と言っていつもの物販みたいにお金をもらうことしかできなかった。
それから1週間。アイリスにあいつからもらったお金を渡した私。
2人がボロボロになりながらも頑張る姿を見て、あいつがなんとかしてくれるって、信じて行動するしかない。
そう思った。例えあいつが離れることになっても、このユニットを守りたい。だから私は秘密を打ち明けた。
2人なら事情を話せばわかってくれる。
覚悟を決めて、アイリスと一緒にあいつと話したら……、あいつはやっぱりあいつだった。
どんな時も私の味方で、私を肯定してくれる。私だけ見てる魔法使い。
ねぇ、覚えてる? デイジーちゃんが女神なら、俺は女神に恋した魔法使い(ウィザード)になる。
って言ってくれたこと。今、私達はさきがけ、……魁人のこと本当にそう思ってるんだよ?
残ったお金の半分を、あいつが出してくれて。残りは3等分した。
なんでか知らないけど、おじさんがお小遣いをくれたから。毎月のお小遣いとは別でね?
これでお金は集まった。あとは社長と交渉するだけ。そして私達は運命の日を迎えた。
結果から言うと、拍子抜けするくらいあっさりと話が進んで、集めたお金の9割で私達に譲渡が決まった。
不思議だったんだけど、その時の社長はなぜかちょっと寂しそうだった。
2週間後、月末の土曜に入ってるライブをもって、私達は事務所を辞めてフリーになる。
仕事依頼とか用の私達のメールアドレスを作ってあれば、今後はこちらにって案内は出してくれるらしい。
もうできてたみたいで、すぐにアイリスが教えてた。
しばらくはアイリスが私達のスケジュール管理とかマネージャー業務をするみたいだけど、できたらマネージャーも見つけなきゃ。身体壊されたら、ロスヴァイセが回らなくなっちゃうもん。
……あいつがヲタク辞めるなら誘ってみてもいいけど、ヲタクじゃないあいつが全然想像できなくて、笑える。
フリーになって、自由度が高くなるけど、それと同時に責任も重くなるし、守ってくれるところもない。
だから今まで以上に頑張らなきゃね。
これからどんなことが起きるかわからない。
もしかしたらどっかと揉めるかもしれないし、逆にどっかと仲良くなって一緒に主催イベントなんてこともあるかもしれない。
それでも、この3人なら越えていけるし……。
あいつがきっと助けてくれる。女神に恋した魔法使いがね。




