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なんであるのか、俺が聞きたい

「あー……、ついに出たか」


 藍那の家に行ってまさかの事態になって1ヶ月。

 事務所によるロスヴァイセの運営終了、それに伴うフリー化が発表された。

 現メンバーによる権利などの買取が行われ、今後も既存楽曲や衣装などは問題なく使用可能ということもあって、オタクも一安心。

 現体制最後のステージ出演が来週の土曜日にデビューを飾ったライブハウスである、ということなんだけど。


「それで、なんでここにいるの?」


 俺の部屋に藍那がふらりとやってきたのが30分前。

 ひらひらと手を振って軽い挨拶をしたのち本棚を物色すると、何冊かマンガを取り出して勝手に読み始める。

 よかった~。位置的にあそこらへんはファンタジー系のマンガだわ。


「母親同士でなんかおっきいスーパー行くんだって。暇だから付いてきたけど別に欲しいものもないし、お邪魔してよっかな~って」


「だったらリビングから呼んでくれればよかったじゃん。俺下降りたぜ?」


 そう、だったらリビングにいればいいのだ。

 リビングのテレビはケーブルテレビ加入してるからバラエティからドラマ、映画、アニメまで色々見れる。

 リビングで駄弁りながらお菓子とか食べてたらいいじゃないかと。


「他の人に見られたら嫌じゃない。とにもかくにこれでもアイドルでーす的な?」


 そう言われると何も言えない。ぐぬぬ……、ってなっていると藍那が部屋を見渡してこう言った。


「そういえば思ったけど意外と綺麗にしてるのね。男の子の部屋ってもっと汚いイメージあったんだけど」


「昨日新しいクッション買ったから置くついでに掃除した。昨日まではイメージ通りだと思う」


 苦笑交じりにそう言う。いや、イメージ以上の汚さだな。


「ま、いいんだけど。それよりもあんたの家デカくない? 見てびっくりしたんだけど」


 生まれた時からこの家に住んでるし、友達の家に行くこともあんまりなかったからな~。

 比較対象にできるものが少ないんだけどそんなもんなのか?


「6部屋あるからな。あと裏に入口があるんだけど地下にちょっとしたスタジオが」


「なんでそんなのがあんのよ?! スタジオどんなのか見せて!!」


 スタジオ、の一言に想像以上の食いつきを見せる藍那。

 まさかバンドに転向するってか? 勘弁してくれよ。


「いいけど、掃除してないから埃とかあっても怒んなよ?」


「いい、いい! 大丈夫! 早く見せて!」


 そう言うと藍那は勢いよく立ち上がり、ベッドに横になっていた俺の手を引っ張って立ち上がらせる。


「ちょっ、ちょっと藍那さん? 女の子がはしたなくってよ?!」


「はぁ? 何変なこと言ってんの? それよりも早くスタジオ!」


「わかったわかった、行くから手ぇ離して」


 テンションMAX、といった藍那に対して若干驚きつつも俺はそれに従って部屋を出るのだった。





「ここが、スタジオね」


 部屋を出て、階段を降り、リビングの棚から鍵を取り出す。

 その後勝手口から家を出ると一見物置に見える小さな建物がある。

 そこがスタジオへの出入り口。藍那と2人でドアを開けると流石に何年も掃除をしていなかったせいか埃っぽい。

 軽くせき込みながらドアの横にある照明のスイッチを手探りで探すとすぐに見つかる。

 ぽん、と軽く叩くと少し間を置いてスタジオに明かりが点いた。


「けっこう広いわね。どれくらいあるのかしら?」


「10畳くらいって前に聞いたけどよくわかんねー。俺が使ったことないし」


「へぇ~。スピーカーがあるってことは音が出せるのよね?」


 スタジオは入口から見て右側の壁が鏡張りになっていて、左側は普通の壁。

 奥行きからして真ん中あたり、右側の鏡の前に左側の壁を向くように並べられた小さいスピーカー。

 それに対をなすかのように左側には大きなスピーカーが1番奥と1番手前のところに右側の壁を向くように置いてある。

 左側の奥のスピーカーの隣にはホームセンターで売ってるような鉄のラックが1つ。

 その横に台があって、その上には布がかけられている。


「たぶんあれが機材だと思う。見てみるからちょっと待って」


 俺はたぶん布がかけられてるあれが機材だろうとスタジオの中に入っていく。

 埃で汚れるのは嫌だけど、靴箱が入り口横にあるってことは土足厳禁のはずだから仕方なく靴を脱いで。

 埃が舞うのも嫌だし、慎重に布をめくると何が何だかわからないけど音響用っぽい機械があったからとりあえず藍那を呼ぶことにした。


「藍那~、これっぽいけど何が何だかわかんねーからちょっと確認してくんね?そこで靴脱いで上がってきて」


 スマホを触っていた藍那がぱっと俺の方を向くと、素早く靴を脱いで俺の方に小走りで近付いてくる。

 ええい、埃が舞うからやめたまえ!


「藍那!埃が舞うからやめ……へっくしょい!!」


 藍那を止めようとするもその前に鼻がムズムズしてくしゃみが飛び出す。


「ちょっ、汚いわね! やめてよ!」


「いや、藍那が走ってこなけりゃくしゃみ出なかったからね?!」


 静かに歩いてきてくれたらくしゃみだってきっと出なかったのだ。

 それをあんなにパタパタと音を立ててこられたら埃も舞うし、くしゃみも出るよ。


「俺、埃に弱いからさ。あんまり埃がすごいとへぶしっ! ……くしゃみ止まんなくなるの」


「そうだったの? なんかごめん」


「言ってなかったからしゃーないけどさ。ちょっと気を付けてくれると助かる」


 念のために持ってきていたポケットティッシュで鼻をかんだら仕切り直し。

 布をめくって機材らしきものと藍那のご対面だ。


「ふぅ、すっきりした。これなんだけど何かわかる?」


 俺たちの目の前には色んなつまみやボタンがついたのと、よく見てみるとCDプレーヤーっぽいのが横並びになって置いてある。

 台の下の段にはマイクの箱が3つ。あと色んなケーブル。

 それを見た藍那は目をくわっと開いてあからさまに驚いていた。


「えっ? ちょ、ちょっと! これすごい! え? なんでこんなに揃ってるの?」


「これそんなにすごいの?」


「すごいに決まってるじゃない! スピーカーが4つあった時点でそうだとは思ってたけど、普通にライブハウスの音響設備とほとんど同じなのよ?」


 ……なんですって?

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