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1-6

 その日の夜。

 自室のベッドに横たわり、両腕で顔を覆いながら、まなかは自身を責め続けていた。

 自分の弱さ、鈍さ、身勝手さ、無知さ……。静橋にかけた迷惑の大きさを思うと消えてしまいたかった。

 昼休み、昨日に続いて過呼吸を起こした静橋は何人かの男子生徒に支えられながら保健室へと運ばれた。まなかももちろん同行した。

 男子たちが教室に戻ったあと、当事者であるまなかが保険医に経緯を説明した。前日の過呼吸のことも話した。

 そうこうするうちに、こはくが保健室にやって来た。待ち合わせの場所に来ないまなかと静橋の様子を見るために教室に行き、そこで事情を知ったらしい。

 静橋はベッドに寝かされ、眠っていた。昨日の今日で身心に負担がかかっていたのだろう。

 白衣の保険医はまなかとこはくに告げた。

「過呼吸は緊張とか不安によって引き起こされるの。思春期にありがちな症状だから深刻に考える必要はない。とは言え、頻繁に起こるようなら専門医に診てもらう必要はある。そういう位置づけ」

「……はい」

「どれくらいの頻度で起きるのかは後で本人に確認するけど、とりあえずそういう知識は持っていてほしい。と言うのも、辻ヶ花さんの話から判断して、静橋クンが過呼吸を起こした原因はあなたたちにあると思うから」

「ごめんなさい」

「すみません」

「あなたたちのように可愛い女子からアプローチされたら、男子はどうしても緊張してしまう」

 保険医の言葉にこはくが首を振る。

「まなか先輩はそうですけど、私は可愛くありません。それでも過呼吸になっちゃうんですか?」

「実際になったでしょ? それに橘さんも充分に可愛いけど?」

「むう」

 照れているのか不本意なのか、こはくは微妙な表情を浮かべた。

「ともかく接する時は自然体で、あまり積極的にならずにね。スキンシップもなるべく控えたほうがいい。静橋クンのほうでも、そのうち慣れてくると思うから」

「はい」

「分かりました」

「あ、あともう一つ。過呼吸の時にビニール袋を使うのはいまはNGだから。危険なのよ、あれ」

 保険医のその忠告もまなかの自己嫌悪をふくらませる要因となっていた。昨日、静橋が過呼吸を起こした時、まなかは知らず彼を危険な目に合わせていたのだ。

「はあ〜〜〜」

 何度目かの溜息をついたあと、まなかはベッドから起き上がり、机に向かう。

 引き出しにしまっていたノートを取り出して開く。そこに書かれている自分の文字を見ながらつぶやく。

「私は静橋クンに甘えていた。こんなの、自分でがんばらなきゃ何も始まらないのに」

 ノートを閉じて引き出しの奥にしまいこむ。そして明日からの自分の振る舞いを考える。


 ◇


 次の日、まなかは「昨日はごめんなさい」とだけ告げ、以降は静橋に話しかけなくなった。次の日もまた次の日も。

 クラスメイトたちは最初、固唾を飲むように様子をうかがっていたが、三日目あたりから関心を向けなくなった。

 静橋はまなかが話しかけなければ自ら会話を交わそうとはしてこない。授業中以外はスケッチブックに向き合っていた。高梨もまなかのことを気にしているのか、静橋に近づこうとはしなかった。こはくにも教室には顔を出さないようにと釘を刺していた。

 静橋は安息の日々を取り戻したことになる。

 まなかは授業と授業の合間の休憩時間には本を読み、昼休みは一人で弁当を食べ、その後は図書室でやはり読書をした。放課後はすぐに下校をし、書店には毎日立ち寄った。

 帰宅後は部屋着に着替え、机に向かって文章を綴っていく。途中、集中力が乱れてきたら簡単な体操をして気分転換をした。腕立て伏せも日課とした。

 静橋ほど徹底しているわけではないが、自分なりに実践を開始したのだった。


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