森の駅
次の電車がホームに着き、太一は電車に乗り込んだ。
窓際の席に座り、濡れた傘を畳んだ。
窓からは霞がかった海が流れている。
ガラスに張り付いては消える雨粒が、なぜか自分の心とシンクロしていた。
いまはただ遠くへ行きたい__。
そんな気持ちが太一の心の中をいっぱいにしていた。
どれだけ走っただろう。あたりは暗くなっていた。
電車は終点についたようだ。
改札を出ると駅には誰もいなかった。
無人駅のようだ。
駅の外へ出てみると、そこは森の中だった。
道も何もない。
ただ真っ暗な森が果てしなく広がっているように感じた。
しかし、今の太一には恐怖の感情すらなかった。
駅舎内に戻り、ベンチに寝転んだ。
寒さで凍えそうだった。
「このまま俺は死ぬのか。。」
そう思ったが、ポケットに入れたあのネックレスが気になった。
彼女はなぜこれをくれたのか。。
太一は見つめていると、自分の足を誰かがつっついているような音がした。
「こんこん。こんこん。」
足元を見ると、そこには小さな毛むくじゃらの何かがいた。
「えっ。。」
太一はびっくりして飛び起きた。
「ねーねー。こんなところで何してるの_?」
その生物、、犬でもない猫でもない、二足歩行のけむくじゃらの生物は
太一を見てそう問いかけた。
「き、、君は、その、、何?」
太一は恐る恐る声をかけた。
「おかしいなあ。しゃべれるんだあ。でもね、
人間がここきちゃだめなんだよって、お母さんが言ってたもん。」
「あ母さん?君にはお母さんがいるの?」
太一は何がなんだかわからなかった。
「僕ね、ちゅむって、言うの。ここの駅員の仕事してるの。」
「そ、、そうなんだ。。」
太一は目を丸くして言った。
「人間が来るところじゃないんだよ?ここにいちゃだめ。早く戻って。」
太一は困惑した。戻ると言ってもどこから来たかもわからない。
どうやらとんでもない世界に迷い込んだことだけは理解しはじめていた。
これもまた妄想なのか、もうどうでもいい。
「ちゅむさ、じゃあ君が戻してくれない?人間の世界へ。」
太一がそういうと、
ちゅむはすぐこう応えた。
「だめかも。君、もう死んでる。」