別れ
しとしと降る雨が時間の流れをゆっくりすすめる。
太一の心の中は空虚だった。
まるで失恋したかのようななにか自分の大事なものを失ったような
計り知れない深い悲しみと同時に虚しさに包まれていた。
でも、それが何かはどうしてもわからないのだ。
「あなた。それでいいの?」
白髪の女性はそっと呟いた。
「どうなんでしょう。。」
太一は女性の一言にも驚きもぜず、ただ応えていた。
なにか通じるものがあったのかもしれない。
雨がその手助けをしていたのかもしれない。
二人は、すべてをお互い知っているかのように、雨の中に佇んでいた。
「二度目とはどういうことですか。」
太一は冷静に彼女に返した。
「わたしにもわからないわ。でもね、そんな気がしたの。」
「そうですか。。」
太一は雨の向こうの海を見ながらこたえた。
「電車、遅れているんですかね。」
すると女性はこう応えた。
「あなたは次の電車には乗れないのよ。だから、電車が来たら目をつむるの。
約束よ。」
太一は彼女が何を言っているのか理解する以前に、なぜか彼女の言う言葉が
心にすっと入ってきて、なぜかそのとおりに受け入れていた。
しばらくして近くに踏切の鳴る音がした。
太一は踏切の方へ視線を向けたが、電車は来る様子はない。
「目を瞑って」
その声がした。太一はそのまま目を瞑った。
その瞬間、雨音が全くしなくなった。
そして女性がベンチから立つ気配がした。
踏切の音が止み、また雨が降り始める。
太一は目をそっと開けると、女性はいなくなっていた。
ふと傘の柄の部分に目をやると、きらきら光るイルカのネックレスがかかっていた。
太一は不思議に思い、ネックレスを手にした。
今の太一には何も考えることができなかった。
彼女はどこへ消えたのか。自分はまた空想の世界を見ているのか。
ただ、その中で初めて、なにか心が少し動いた気がしていた。