1/13
雨
とぼとぼと駅へ向かう道、太一は雨に打たれる音をただ聞いていた。
傘を持つ手は冷たく、胸の内には言いようのない空虚が広がっている。
ホームに立ち、電車を待つ間も、どこか現実感が薄れていた。
その時、視界の片隅に、白髪の 女性の姿が映り込んだ。
彼女はベンチに腰掛け、雨に濡れる線路をじっと見つめている。
青い瞳が、どこか遠い場所を見ているようだった。
太一は立ち止まり、わずかに息を吸い込んだ。
言葉が浮かんでは消え、それでも傘を差し出しながらぽつりと言った。
「雨、冷たいですね。」
老女はゆっくり顔を上げた。
その微笑みは、どこか懐かしさを帯びている。
「ありがとう。でも、あなたにこうされるのは、きっと二度目ね。」
じゅんは言葉を失った。
雨音が鼓動に混じり合う中、彼の記憶の奥で、何かが小さく揺れ動いていた。