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本音と建前のお話

作者: 下菊みこと

私はルシア。侯爵家の娘。侯爵家の娘であること以外は取り立てて特徴のない平凡な娘。侯爵家の娘だからこそ贅沢な暮らしが出来、良い友人に囲まれている、ただそれだけの存在。


婚約者はレドモンド様。公爵家の長男。美形で優秀、とても人から好かれる人でもある。私との婚約は、正直言って釣り合いが取れないレベルで素敵な人。


私の婚約者であるレドモンド様には、それはもう可愛い従妹がいる。この国の王女様でもある従妹アリス様は、愛らしくてそして少し性格が悪い。けれど性格の悪さ以外には欠点がないくらい才能にも恵まれた方。


アリス様はレドモンド様に惚れている。アリス様は将来隣国の王子に嫁ぐお方だが、レドモンド様に人知れずアプローチを掛けている。レドモンド様もアリス様には甘い顔をしてあまり咎めない。


しかし私は思う。『人知れず』アプローチを仕掛けている分には良いではないかと。実際周りからは『仲の良い従兄』としか見られていないから国際問題にはなるまい。


「だから、放っておいていいと思うの」


「おやまあ、酷い人だ。その方がいずれ国を離れて知らない男に嫁ぐアリス様が傷つくと知っていてそれとは」


そう。


アリス様はほぼ見ず知らずの状態の隣国の王子に嫁ぐ。


その時、まだレドモンド様を好きなままなら傷は深くなるだろう。


アリス様を思えばこそアリス様に苦言を呈すべきなのだが。


「私はアリス様のために、アリス様の不興を買う度胸も理由もないわ」


「まあ、でしょうねぇ。アリス様は嫁ぐのを拒否するほど愚かではないが、レドモンド様への思いを簡単に捨てられるほど淡白な方でもない。アリス様に何かを言えば貴女が目をつけられてしまう」


「今でさえレドモンド様の婚約者というだけでありとあらゆる嫌がらせを受けているもの。信頼できる友人達が庇ってくれたり守ってくれるから助かっているのよ。それでアリス様にレドモンド様は諦めろとか言ったら、もっと嬲られてるわ」


だから私は何も言わない。


レドモンド様と腕を組んで、豊満な胸をレドモンド様に押し付ける姿を見ても何も言わない。


その様子を見て『仲の良い従兄』判定するお花畑な連中にも何も言わない。


明らかに女性として誘っているアリス様に対して『可愛い従妹』としか認識していないレドモンド様には…ちょっと頭をひっ叩きたくなることはあるが、やっぱり何も言わない。


浮気ではないかと咎めようとする父や兄はむしろ毎回止めるし、気を遣ってレドモンド様の代わりに謝ってくれるレドモンド様のご両親にはお気遣いなくと微笑む。


「まあ、本音を言えばアリス様のこちらを見る勝ち誇った顔は『うわぁ…』ってなるけど、言わぬが花よ」


「本音と建前、ですね。人間とは難儀なものだ」


「そんな人間に救われたのはどこの誰かしら」


私の言葉に、目の前の天使は笑った。


「わたくしですよ。悪魔との戦いで羽根を傷つけたわたくしに治癒魔術をかけてくれた貴女。可愛い貴女。だから不貞を働く婚約者から貴女を助けて差し上げようと思ったのに、まさか断られるとは」


「家同士の利益を考えての婚約だもの。アリス様はいずれ隣国に嫁ぐのだから、勝手に自分で心にダメージを負って苦しむだけ。レドモンド様は頭をひっ叩きたくなるけれど、アリス様の乙女心を意に介さないあんぽんたんなところがアリス様へのダメージを増す結果になるし。助けは無用だわ」


「では、わたくしは貴女に何を返せるでしょうか」


私は笑った。


「ならば、私の従兄になって。人間社会に溶け込むための催眠はお得意でしょう?」


「おや。貴女の従兄になるのは楽しそうだ」


そして目の前の天使は、大規模な催眠を国中の人間にかけて私の『従兄』になってみせた。











アリス様は隣国へ嫁いだ。


みんなアリス様の幸せを願って見送る。


けれど馬車の中のアリス様の目は死んでいた。


レドモンド様への思いがまだ捨て切れていないからだろう。


これから彼女が幸せになれるかは彼女次第だが、今の彼女を見られたのは彼女の次くらいには性格の悪い私にとってご褒美である。


「ルシア」


「レドモンド様」


「王女殿下は嫁がれた。次は俺たちの結婚だな」


「そうですわね」


「そこで相談なんだが、王女殿下も俺から離れたことだし君も従兄離れしてみないか?」


彼の言葉にわざとらしく首をかしげる。


「何故ですか?従兄とはレドモンド様と王女殿下のような健全な関係ですのに」


私は従兄となった天使の彼と、レドモンド様とアリス様のような関係を作り上げた。


いつも一緒にいて、平然と腕を組み、猫なで声で甘えてみせる。


そんな私に眉をひそめるレドモンド様に内心くすくす笑いながら。


けれどそんな感情はひた隠しにして。


「それは、その」


「ねえ、レドモンド様。問題ありませんよね?」


「…そう、だな」


次は彼が我慢する番。


都合が悪くなれば天使の彼は記憶の操作もできるので、彼以外の人間の中から天使と私がイチャイチャしていた記憶を消せばいいだけ。


彼はどう転んでも永遠に悶々としたまま日々を過ごすことになる。


貴方様も本音と建前を、うまく使えるとよろしいですね?

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました


という連載小説を掲載しております。完結済みです!よろしければご覧ください!


あと


美しき妖獣の花嫁となった


【連載版】侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました


酔って幼馴染とやっちゃいました。すごく気持ち良かったのでそのままなし崩しで付き合います。…ヤンデレ?なにそれ?


ちょっと歪んだ性格の領主様が子供を拾った結果


という連載も掲載しております!


よろしければお付き合いください!


下のランキングタグにリンク貼ってます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 互いに婚約者がありながら燃え上がる真実の愛!に溺れて、ヒロインは冴えないから美しい従妹の面影を秘める婚約者を受け入れるしかないと上から目線の二人。 その前に超イケメンでヒロインを溺愛する従兄…
[一言] 自分の従姉妹が嫁いだらお前も従兄弟離れしろって言われても「なぜ?」と聞かれたら特大ブーメランになるから何も言えないよね。 居なくならずにそばにい続ける自称従兄弟にこれからずっとモヤモヤすれば…
[良い点] お嬢さま、ご謙遜が過ぎますわぁ。 絶対に貴女のほうが上ですよ! 自滅が見えている王女だけじゃなく、婚約者にもきっちり落とし前つけるために従兄を持ってくるとは、最高じゃないですか。 王女…
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