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ラドムへの旅支度

通信障害の為、先週は投稿できませんでした。申し訳ありません。

今日は、エピソードを二つ投稿いたします。よろしくお願いいたします。


 馬車の中でもアラカは眼を閉じたまま、どうすることもできない絡み合った感情と戦っていた。ノニにも様々な思いが去来しているのだろう。むっつりと黙ったままだ。

 やがて馬車はオルギンの邸宅に着き、二人を下ろして去って行った。

 オルギンは家にいて、二人の帰りを待っていたようだった。


「どちらへお出かけかと思ったら、なんと宮殿だったとは! ノニ、話してくれないか。俺に手伝えることはないか? 一体何が起こっているんだ!」

 息せき切って、オルギンは質問を重ねる。ノニはそれには答えず、

「ラドムへ行くんだ。馬車を用意してくれないか。食料もね」

 と言った。

ノニの言葉にオルギンは眼を丸くした。


「ラドム? どうしてそんな所へ? あそこには怪物が住んでいると聞いたことがある。人の何倍もあり、手足がいくつもある恐ろしい怪物だと。……いや、待て。そうか! ラドムにはあの男がいたな。名前は何と言ったか……そう、クハンだ」


 ノニは表情を変えず黙っている。アラカはノニの顔をのぞき込んだ。オルギンは目を細め、額に手をやった。

  

「もう死んでいるかもしれない。あんたと大して年は違わないだろう? ラドムじゃ、元気な者も生き永らえるのは難しいからな」


「馬車を用意してくれるかね?」


 ノニがぽつりと言った。


「もちろんだ。だがわけを聞かせてもらおう。クハンに会うためとは思えない。グルアナを退治しに行くとでも言うのか?」 


 ノニは否定するようにゆっくり首を振る。


「マサナ村の畑は荒れ始めている。お前さんのビティス畑も実りが悪いと言ったね。海は荒れ、交易船も寄りにくくなっている。ピサドに陰が差してきているんだ。なんとかしないとね」


 あっけにとられたように、オルギンがノニをしげしげと見つめた。


「なんと、なんと。ノニがこの国を救おうとしているとは! 商人としては聞き捨てならん話じゃないか。だが、その話とラドム行はどんな関係があるんだ?」


「今は何も聞かないでおくれ。お願いだから」


 懇願するノニの表情にオルギンは渋々頷いた。


「旅の用意は任せてくれ。明日までには準備できるだろう」


「有難い。頼んだよ」 


 オルギンは安心させるようにノニの背中を軽くさすった。


「さあ、昼食にしよう。腹が減ってるだろう。俺は腹ペコさ」


 オルギンは満足そうにいつもの笑顔を見せる。三人は食堂に向かった。

 食事中、アラカは珍しく静かに口を動かしているオルギンにたずねた。

  

「あなたもラドムに行くの?」


「俺は商人だ。危険な場所などごめんだね。ラドムは湿地帯でね、国から追われた者が隠れ住んでいるところだ」


「追われた者? 何か罪を犯したってこと?」


 オルギンはちらっとノニを見つめ、肩をゆすった。


「俺から聞くより、ノニにゆっくり話してもらうといい。ラドムまでの道は長い」


 ノニはひたすらスプーンを動かし、オルギンとアラカの会話に口をはさむ気はないようだった。

 オルギンは食事が終るやいなや二人を残して食堂を出て行った。しばらくして、スプーンを握りながらノニがつぶやいた。


「オルギンが余計なことをしなきゃいいんだけどね。私もずるい人間だ。説明もろくにせずに利用するだけして。オルギンと大差ないね」


 何処かでオルギンを気遣っているのだとアラカは思った。ノニの深い皺に孤独が刻まれている。背を丸めたノニの心の痛みがアラカにもひしと押し寄せてきた。


 その夜、アラカはメイを相手にベッドで話し込んでいた。


「国を追われるくらい悪いことって何をしたのかしら? ノニも関わったのかしらね。オルギンともどうやって知り合ったんだろう。私ったら、ノニのこと何も知らないわ。どんな人生だったのかしら?」


「あたしはラドムなんて行きたくないわ。それにね、ノニに興味ないし。ノニもこの国もどうなろうとかまわないじゃない。それよりハルファとアドラルの仲を裂いてやれば?」


 メイはからかうような声で言った。


「止めてよ! そんなことしたくない。ハルファを助けたいと思ってるだけ」


「嘘、おっしゃい! ハルファとアドラルを妬ましく思ってたくせに」


 その通りだった。けれども、ハルファの辛い顔は見たくない。


「もっと上手に王様と話ができたかもしれない。そしたら……」


「彼を助けるなんてできっこない。それに、いい子のあんたはちっとも面白くないわね」

 メイをじっと見つめて、アラカは吐き出すような声で言った。


「いい子なんかじゃない。オルギンが私を、子どものくせに意地の悪いしたたか者と言ったけどその通りよ。でもそれって私の性格が悪いから? それだけ? 違うわ。そうなったのは誰のせい? 子どもは親を選べない。でしょ?」 


「うんと親を憎めばいいわ。それでこそあたしのアラカよ」

 

 アラカはなんだか悲しくなり、メイから目を離した。


「だけどね、心の片隅に何か今までとは違う思いが湧いてきてるの」


 クルアーンの声を聞いたことで、この旅はノニだけではなく、自分の旅でもあるように思える。


「もやもやしていてはっきりしないけど……。メイは気に入らないかもしれないね」


「何があんたに起こっても、過去は変わらないのよ。いつまでも刻み付けておくことね。それじゃなきゃ、あたしが思い出させてあげる。なんて顔! 今までと違う思いなんて捨てちゃえ」


 呆れたようにメイが呟いた。



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