ブリア村への道で
午後も辺りが薄暗くなるまで歩き続けた。
「今日はここらで寝るとしよう」
二人は街道から外れた草地を歩く。
ちょうどいい窪地を見つけ、ノニは小枝を集めて火をおこした。火に鍋をかけ、豆と干し肉を煮込む。パチパチと音をたてるたき火の前での食事はおいしかった。
空を見あげれば、満天の星がきらめいている。風は少し冷たい。
アラカは痛くなった肩をほぐした。ノニは知らん顔して、熱いお茶をすすっている。
「外で寝るのは初めてよ」
「何もかも、初めてじゃないかね。寝袋があっても、固い土の上で寝るのは辛いぞ」
ノニは立ち上がり、袋の中から寝袋を出して土の上に広げた。
「じきに慣れるわ」
揺れる炎の向こうに、口だけで笑っているノニの顔が浮かんで見えた。
アラカも寝袋を用意する。ノニは何も言わず、さっさと寝袋に潜り込んでしまった。
「見るほどの景色じゃなかったわ。街の方がずっとおもしろいのに。先が思いやられる」
メイがふてくされたようすで囁く。
「何もしなくていいのだもの。文句言わないでよ。荷物は重いんだからね。でも私は野原の景色だって好きだわ」
「呆れた! あんなに都会で遊び回っていたあんたがねぇ。ミルナスが懐かしくならないの?」
アラカは仰向けになって空を見上げた。月が幾千の星を従えて大きく輝いていた。
「懐かしくないって言ったら、嘘になる。でも……いいことなんてあんまりなかった。なんで懐かしいって思うんだろう。生まれ故郷だから? 自分でも分からないわ」
「どこかであんたは、父さんや母さんを懐かしんでいるんじゃない? どんな親だって、やっぱり親だものね」
アラカはメイに背中を向けた。
「あら、すねてる。こっちを向いてくれないなら、勝手に寝るといいわ」
メイの言葉通り、そのまま目を瞑った。
アラカが目を覚ました時、ノニはすでにお茶を飲んでいた。起き上がろうとして、背中のあちこちが痛むのに気付く。顔を歪めているのを横目で眺めながら、ノニはお茶の入ったカップを差し出した。立ち上がらず、這いずるようにして、カップを受け取る。食事は昨日の夜と同じものだった。
「これからはお前が食事の用意をしておくれ。火の起こし方も教えよう。さっさと食べないと、片づけてしまうよ」
アラカは返事もせず、口いっぱいに豆をほおばった。
火を消し、荷物をまとめ、二人は歩き出した。
しばらく行ってからノニが尋ねた。
「おや、人形はどうした?」
「袋に入れたわ。面倒くさいもの」
「そうかい。苦しいって言わないといいけどね」
アラカは立ち止まって、動揺を隠しながら返事した。
「人形がそんなこと言うわけないわ」
声が少し震えていた。
ノニは口を曲げて笑い、アラカの先を歩き始めた。
「お前がそう言うなら、そうなんだろう」
後ろも振り返らず、独り言のように呟く。
昼食の時も、夕闇が訪れた時も、二人は黙ったままだった。
次の日、ようやく街道から細い一本の道が、森の中へと分かれていく所にやってきた。
「この道を行けば、ブリア村だよ。まだだいぶあるがね」
道にしてはずいぶん荒れている。草が伸び放題で、人が行き来しているようすがない。
「本当にこの道?」
アラカは思わず聞いてしまった。
「間違いないさ。めったに人は通らないからね。さあ、鈴をつけてあげよう」
ノニは自分が肩から下げている袋の中から、紐に結わえられた鈴を二つ取り出した。
「こんなもの役に立つの?」
「たいていの生き物は怖がりなんだよ。あっちだって人間になぞ、出くわしたくないのさ。だからこの鈴をつけて知らせてやるんだ」
アラカのベルトに鈴をつけてから、ノニはさっさと細い道を歩き出した。




