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オレの彼女は辰巳さんに毒されている

作者: 緖篠 みよ

岡田 湊太かなた26歳。この街の消防士になって4年が経つ。一年前から付き合っている彼女が、2歳年下の古川 結衣。


大学時代に利用していたコンビニの1つに、彼女がヘルプバイトに入っている。


本当ならコンビニでバイトしなくてもいいのだが、専門学校卒業後に大手アパレル会社に就職したが、半年で辞め今は実家の洋品洋服店を彼女の母親と二人で営んでいる。真面目で頑張り屋の結衣が辞めると決めたのだ、深く聞くまい。


どこのコンビニも人手不足で、このコンビニでもそうらしく高校生の時アルバイトとして馴染みの店長に頼まれて、ヘルプで入っている。


空いてる時間だけと頼まれたようだが、実際空いてる時間なんて無いだろうに、家業もお母さんと二人で切り盛りして商店街も高齢化して頼られる事も多くなる。馴染みの店舗が閉まっていくのが辛そうだ。


後継者の問題だけでなく、仕入れ先の代替りや客層の代替り支払いの形式の変化に、組合の調整等は両親サラリーマンの家で育ったオレには分からない。


「育った環境が違うから分からなくても仕方ないよ。湊太くんが大変だなと聞いてくれるだけで、私は嬉しい」

と、彼女の結衣は言う。


「それはそうだけどな、一般的なニュースになっていることが結衣の生活に関係してるなんて、思わなくて正直無知すぎて落ち込むよ」

と、湊太が言えば、


「私もさ、アルバイトや家の仕事をしてみて社会とか国日本とか考えるようになったかなぁ。お父さんがニュース見てて何が面白くて毎日見てるのか、分からなかったし」

と、結衣が言う。


「結衣がアルバイトをしてたのは確か、学費を貯める為だったよな」


「そうだよ。被服学デザイナーに憧れて専門学校に入りたかったから、家に迷惑かけないように自分で頑張ろうと飛び込みでアルバイト募集のコンビニに行ったのが始まりだね」


「高校生からその意識は、オレはすごいと思うよ」

と、言えば結衣は顔を赤らめて


「湊太くんはいつから、消防士になろうと思ったの?」

と、聞いてきた。そう言えば付き合い始めた時には、消防士になっていたし、結衣と話すようになった時は試験と内定は終わってたしな。


「オレも憧れから消防士になったくちだよ。オレは弟が怪我をして救急車に初めて乗ったんだ。その時に漠然と将来救急車に乗って怪我した人や病気の人を病院に連れて行く仕事だと、人助けになると思ったからね。


まさか救急車に乗っている人が、公務員っていう仕事だと知らなかったし、あんなに勉強しないと成れない仕事とは子供の頃は知らなかった」

と、湊太が説明する。


「本当に知らないことばかりで嫌になる。私ね家が商店街でお店しててお婆ちゃん一人で出来る仕事なんて甘く考えてた。それよりか馬鹿にしてたと思う。


お店に人が来たときに相手すれば、誰だって出来るし、愛想良くすれば良いんでしょ。お婆ちゃんは客でもない人とおしゃべりばかりして楽な仕事選んだんだと、思ってたんだ」


「家族の結衣がそう思っていたのなら、そう見せていたということか?」

と、湊太が結衣に聞く。結衣のお婆さんには会ったこと有るが、いつもニコニコした柔らかそうな人だ。


「元々内は、早くに死んじゃったお爺ちゃんのお父さん、私にしたら曾祖父ちゃんが戦後出したお店だったんだって。

後を継いだお爺ちゃんが若くて死んじゃて、お母さんを子育てしてたお婆ちゃんは、何も知らずにお店を手伝ってたらしいの。その頃は信じられないけど子供が沢山いて制服を扱っていたから忙しくて目が回ったって言うのよ。扱いきれなくて商店街の他の洋品洋服屋さんと手分けして揃えてなんて言ってるけど、私はそんなの信じられなくて、今では競争して値引きしながらお客さんを繋いでいるのに、そんな昔話をされても良いこと無いと思ってた。

でもね、何も知らなくても丁寧に接客したお客さんは覚えていてまた来てくれるの。その時は何も買わなくても必要な物が出来たときに、内を選んでくれたら嬉しいって、最近分かったわ。

コンビニでアルバイトして物流の事や接客の事を知らず知らず私が知っていたのは、日頃何気ない会話の中に入っている事が合ったなんて、気がついた時にビックリしたし」


「どういうことだ?」


「接客って簡単に出来ると思うでしょ、でもね、私より年上のアルバイトのお姉さんやお兄さんが、敬語が喋れない事に驚いた」


「はぁあ?」


「いつも話してないと出てこないものよ。出てきた言葉が間違ってたり使い方が変だったり、馬鹿丁寧に話す必要が無くても同じ日本人かと情けなくなったけど、その人達を教える店長が大変だったよ。

それを教えるのって家族だったり、学校や学びの場でしょ。私はお婆ちゃんがその都度教えてくれた。素直に聞いたかと言うと、とても良い子として聞いてなかったけど、社会に出た時に私が恥ずかしく無いようにって言ってた」

と、結衣は言う。


「確かに、態度の悪い店員いるなぁ。言葉も知らなかったり。外国から来てるアルバイトの子の方がちゃんとしてる事有るな」

と、オレが言うと


「接客1つでもそうなんだし、世間を知らないなんて笑ってられない。私の同級生でもそうなんだから皆社会に出て一から勉強してるはずよ」


「まぁそれが育った環境の違いなんだろうな。オレは両親が共働きで普段親が居なかったけど、近所に親戚の伯父さんが居て、その伯父さんがミニバスのコーチをしていたんだ。礼儀や言葉はそこで教えてもらったようなものだし先輩後輩ってのもあったな。良くも悪くも」


「湊太くんが優しいのは、やはり環境のせいかな?」

と、結衣が聞いてくる。


「優しいかどうかは、分からないけど、結衣がそう思うなら、オレが知らず知らず誰かから教えて貰ったことなんじゃないか、例えば辰巳さんからとか」

と、答える。


「藍ちゃん………」


「結衣、影響受けてるだろう。辰巳さんと関わって」

と、問えば


「影響処か、私より年下であんなにちゃんとした子が………今どこにいるか分からないなんて………」

と、泣きそうな顔をしてくる。泣かしたい訳じゃないけど、辰巳さんを基準にして物事を計ったりするのは違うと思う。

辰巳さんのちゃんとしたところを、近くで見てきて他の人を比べたら駄目だ。


「結衣が心配してるのが悪いとは言わない。オレだって心配だ。

だけど、結衣が辰巳さんの真似をする必要は無いと思う。オレも辰巳さんから影響を受けた方だから分かるけど、結衣と辰巳さんは違うから一緒じゃないからそれでいいから、そのままの結衣でいいから」

と、結衣を抱き込む。


「私、藍ちゃんを真似してたの?そう見てるの?」

と、胸の中で聞いてくる。


「辰巳さんは人を惹き付ける。良くも悪くも本人は自覚無いけど。影響が大きんだ。

悪口じゃないから怒るなよ。冷静に聞いて欲しい。

辰巳さんは自分を理解しているようでしていない天然だと、オレは思う」


「ぷっ、何となく分かる」


「あの人の行動や言葉は向けられると、向けられた方は気持ち良くてずっと側に居たいと思わす毒の様なもの」

と、言ったら結衣の身体が熱を出す、だから悪口じゃないから落ち着け!

抱き込む腕を緩めて抱き直す、悪口じゃない。


「辰巳さんは人の気が付かない事も、気が付いて口にして褒めてくれる。良いことだよ正しい事だよと凄いことだよ、自己評価を上げてくれるんだ。

言われて自信に繋がったり傲慢になったりは、その人の性格に寄るけど、結衣の場合は自信と傲慢が半々だと思う。

辰巳さんは結衣を良く見て褒めていたがそれに気が付く辰巳さんが凄いんだ。良いところを見つける天才だよ。それなら悪いとこも分かっているはずなんだ。

でも辰巳さんは悪いとこが自分に向かってのことなら何も言わないし、伝えない。陰でも言わないから伝わらない。

でも他の人に向けられるとちゃんと伝える。言い方を変えよう。その人の気持ちも考えようと巧みなんだ。そんなの辰巳さんしか出来ないよ。

結衣は結衣のやり方をすればいいし、今無理することじゃない。影響を受けているのは分かっていたけど結衣らしさが無くなるのオレは嫌だ」

と、結衣に伝える。


「私らしさ?」


「警戒心が強くて、正義感が強くて、他の人に何と言われても平気と自己犠牲にするとこ。

オレは好きだから。

オレは理解しているから」

と、伝えた。


「それって可愛くないよ。湊太くんの彼女として可愛くないよ」

と、言ってくる。


「悪い。オレは可愛さを求めてない。けど…別に結衣が可愛くないと言って……いるんじゃなくて」

と、どう伝えるかとウダウダしていたら、


「一端呑み込んで行動している私が嫌だと言ってるの?」

と、結衣が聞いてきた。


「うん、たぶんそれだ!」


「そうか、真似か!私も無意識にしていたことだけど、湊太くんがそう見えたならそうなんだね。

藍ちゃんならどうしてるかな、どう答えるかなと考えてたことあった。これも憧れから来るのかな?

私らしく無くなっていたのなら、それしかない」


「すごく影響があるんだ。辰巳さんは。

消防にも内勤の人がいるんだけど、その人も辰巳さんの事知ってて、心配していたけど昔から辰巳さんを知ってるらしいけど会ったことは無いんだ」


「………???」


「分からないだろう。オレも何を言ってるのか分からなくて、からかわれているのかと思ったら内勤の人は皆知っているんだ。辰巳さんのこと救急発見器って言われてる」


「良く分からない湊太くんの言ってること」


「辰巳さんは身体が弱くて病気になりやすい移りやすいと、順一先生その前の先生かも知れないけど教えられたんだ。だから病気の人病気に掛かっている人病気に気付いてない人が分かるらしい」


「あっ!」


「もしかして結衣の側でも合った?」


「うん、合った」


「身近な人は辰巳さんに避けられると、気が付くらしいけど、どこの誰か分からない人の時は、前もって救急センターに連絡が来るんだって、幼い声で倒れそうなお婆さんが歩いているから助けて欲しいと」


「それが藍ちゃんなの?」


「らしいよ最近はその連絡は無くなったけど、いつも泣きそうな声でかけてくる携帯番号が一緒らしくて、内の範囲だけでなく余所でもあったらしい」

と、湊太が言う。


「藍ちゃんは一人でいることなかったと思うけど、いつも湊達やお兄さん達がついてたし」


「誰が信じる。小さい子が歩いてるお婆ちゃんが倒れそうだと言っても、見かけで判断している訳じゃ無いみたいでさ、具合の悪るそうな人なら他の人も分かりそうなものだけど、数時間後救急搬送されるお婆さんの特徴と連絡が合った時の場所が一致してたらしい」


「それが藍ちゃんと分かったきっかけは?」


「救急に掛かって来た番号が残るのは知ってる?」


「そうなの?」


「始めは悪戯だと思った内勤の人がかけ直して注意したらしいよ。子供が悪戯電話をしたら駄目だよ本当の救急と消防が必要な時に繋がらなかったら困るからと」


「その人は尤もな事を言っていると思うわ」


「そうなんだ、警察でも消防でもそれは一緒だからその内勤の人は正しい事を言っているし、注意されても仕方ないことなんだけどね。

誰だか分からないと泣いて謝ってたみたいで、その内勤の人も気にして番号を控えて上司に伝えたみたいで、その番号からかかる内容がやっぱり後から救急依頼の類いになるらしくて、直ぐだったり二三日後だったり、不気味に思う人もいたらしいけど」

と、言ったら、


「私が見た訳じゃないけど、商店街の八百屋のおじさんが仕事中に倒れたことがあったの、その少し前に湊のお母さんが子供を連れて買い物をしていたら、子供がおじさんのエプロンを引っ張って病院を行こうと誘っていたって。

それって藍ちゃんだよね。多分周りに居た人は笑ってはぐらかしたけど、その後おじさんが倒れて長く入院していたと聞いたことある」

と、結衣が言ってくる。


「辰巳さんは独特の感性があるんだよ。センサーみたいな。結衣も言ってたじゃないか辰巳さんは悪くないけど周りが過剰に守っていて近づけなかったって。

それってセンサーに掛からないように他の人に関わらない様にしてた?」

と、聞いたら、


「そうだよ、お兄さん達も香山兄弟もガチガチに守っていて、皆面白くないから藍ちゃんの悪口言って酷かったよ。まぁ私も面白くないと思っていた1人だけど」

と、白状する。


「子供は正直だから特別にされている子に対してひがみや対抗心が出るんだよ。辰巳さんのセンサーの事が分かれば隔離したくなる気持ちは今なら分かる」

と、言ってみた。


「順一先生も言ってたけど、湊はやり過ぎたんだよ。守るのはいいけど分かち合えた方が良かったのに、藍ちゃんは寂しい思いをしただろうな。それも自分を思ってのことだから嫌だとは言わなかっただろうし」


「想像つくわー」


「噂も勝手だしね。私も騙されたけど………湊太くんもう、落ち着いたから離して、なかなか恥ずかしいよ」

と、結衣が言ってくる。


「この前 要さんに合ったって言ったろ」

と、言えば胸の中で頷く。


「その過保護代表者みたいな人が、落ち着いてた。もっと悲壮感を出して辰巳さんを探していると思っていたら、すごく冷静なんだ。

あの冷静さはなんだろう?

でも、だから大丈夫なんだと思えた。要さんとIDを交換したんだ。何かあれば連絡をくれるはずだから心配はしても、悲しむな。待っていような辰巳さんを」

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