オタクな俺のことを嫌いな筈の幼馴染を振ったら ~なぜかタイムリープしてデレデレになっていた~
『アンタ、私と付き合いなさいよ。どうせ誰も相手いないんでしょ?』
『い、嫌だよ。怖いし』
それは俺、森池 達也が高校最後のクリスマスを迎える前の事だった。幼馴染である、藤井 朱音に近所の公園に呼び出されて告白された。
―――――アカネは、小学校から中学1年くらいまでは、良くつるんで一緒に遊んでいたんだ。けれど彼女が段々成長するにつれて、色んな人と遊ぶ様になってしまい。あまり交流がなくなっていた。
一方は俺は、その頃からアニメなどのサブカルチャーにハマり始めてたので、幼馴染のアカネと疎遠になっても特に気にせず過ごして居たんだ。
それから高校に入ってたまたま隣の席になってから良く、アカネが絡んで来る様になった。
高校に入ったアカネは、髪の毛をやや茶髪に染めて、お化粧もする様になり。
胸も大きく。その整った顔立ちが印象的で、特に目の辺りに注目が行く、とても明るくて魅力的な娘になっていた。
俺は、まるでアニメか漫画から出て来たかの様な存在になってしまった幼馴染に対して変に意識してしまい。面と向かって自然な会話が出来なくなっていた。
そうしたら、クラスの陽キャ男子から
『お前たち、昔からの知り合いなんだって、付き合ってんの?』
と聞かれた時に咄嗟に
「いや、付き合ってないよ。俺なんか釣り合うわけないじゃないか」
『そうだよな。お前なんか隠キャっぽいし。アカネさんにとは釣り合わねーよな』
「そ、そうだよ。ハハハ」
自分でもいつからこんなに卑屈になってしまったのかよく分からない。がその時はそう言ってしまったんだ。
そんな会話をしているのをアカネに目撃されてしまってから、彼女は俺に辛辣に当たる様になった。曰く
『アンタね。姿勢が悪いのよ。シャキッとして』
『もっと。髪の毛綺麗にしなさいよ。ウザいよ』
『メガネやめてコンタクトにしたら? メガネ似合ってないしw』
そんな風に俺の外見をバカにする様になってしまった。言う事は一理ある。だからそれからは意識する様になった。
………………まぁ、コンタクトについては試してはみたんだが、つけるのが怖いし目が乾燥する感じがして合わなかったので諦めたんだ。
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そんな風に隣の席の幼馴染との距離感を掴みあぐねていた。
――――――ある日
『は? 何言ってんの? 聞こえないんだけど? はっきり喋りなさいよっ』
『アタシの事無視して、何読んでんのよ。それ貸しなさいよっ』
アカネがそう言いつつ、俺がその日持って来ていた小説を取られてしまった。その時、そう言えばこの娘は昔も俺が貸した物を返してくれなかったな。と思いだしてしまい少し不安になった。
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―――――――数日後、貸した小説をいつ返してくれるのか聞いてみると
「あ、あれの事? 無くした。また買ったら? お金なら返すわよ」
「そういう問題じゃーないんだよ! あれは初版本なんだっ。もう手に入らないんだよっ!」
「そ、それならそんな物をどうして持ち歩いてんのよ! バカじゃない!?」
彼女の言い草に頭に来た俺は、アカネに我慢出来なくなってしまった。
「お前となんかもう口も聞きたくない。絶交だっ!! 話しかけてくるなっ」
「な、なによ。その言い方。お金なら、返すって言ってるじゃない………」
突然、怒鳴ってしまった俺に対して、アカネが涙目になっているが今はその顔を見たくない。
「だからそういう問題じゃないんだ。それが分からない内は話しかけてくるんじゃない」
「えぇっ。そんなぁ。許してよぉ」
「嫌だねっ」
こうして、俺たちは絶交してしまった。それを見ていたクラスの男子からは
『アイツ、バカじゃね? 本くらいであんなに怒ってよ』
『それより今ならアカネさんと付き合えちゃうかもっ』
と、噂話をされてしまった。
それからのアカネは色んな男子に告白される様になった。どうやら今までは、幼馴染である俺にずっと構ってたから、付き合ってるんだと誤解されていたらしい。
でも、そんな事はもうどうでもいい。もう二度と人に本なんて貸さない。そう心に決めた俺は、人と関わるのを極力減らして過ごした。
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――――――――それからの俺はボッチだ。
だけれど成績はまぁまぁ良い方だったので、いい大学には受かれそうだ。
「俺をバカにしてた奴らを見返してやる」
ただそれだけが今の俺の行動原理だった。目標が定まると、勉強に対して途端にやる気も出て来た。
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――――――――それから色のない生活を過ごし高校三年生になった。
この頃にはなんだか、受験勉強をするのが楽しくなってゲームの攻略をしているかの様だった。そうなってくると先生からの覚えが良くなり、クラスでも褒められる様になったんだ。
『アイツすごくね? いつも成績トップクラスじゃん』
『しかも、ドンドン上がってるよな。スゲェな』
男子からはそう言われ。
『もしかして、優良物件?』
『隠キャだと思ってたけれど、よく見ると背も高いし♡』
女子からはこう言われた。
俺には付き合ってる女の娘も居ないから、最近はたまに告白される様になった。
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―――――――ある日
俺の机に手紙が入っていた。どうやらラブレターらしい。余り気乗りはしないが、無視して周りから叩かれるのも避けたい。なので呼び出しには応じることにした。
「達也君のこと、前から気になってたの。だから付き合って貰えないかな?」
「ごめん。俺、他に好きな人がいるから」(嘘だけど)
「えっ、そうなの? それって誰?」
「それって話す必要ある? 今まで、君と話したこと無かったと思うけれど」
「そう、だよね………ごめんね………呼び出しちゃって」
申し訳なさそうに目の前の娘は言うが、そもそも今までロクに話したことがないのに。突然言われても困る。
「いや、良いよ。改めてごめんな。OKしてやれなくて………それじゃ」
「う、うん…………」
多分、俺がいい大学に入れそうだから、今のうちに繋がりを持っておこうとしているんだろう。そんな下心のある娘となんて付き合いたくない。
――――そう思っていた。冬の寒いある日。
幼馴染であるアカネに呼び出された。本当は会いたくなんてなかったんだが、大学に入った後はもう疎遠になってしまうだろう。
そう思うと会ってみても良いかなと思ってしまったんだ。
「アンタ、私と付き合いなさいよ。どうせ誰も相手いないんでしょ?」
アカネはあれから、何人かの男子と付き合ったり、別れたりを繰り返してたらしい。本当かどうかは分からないけれど、たまに仲が良さそうな連中と連れ立って遊びに行くのは見かけた。
「い、嫌だよ。怖いし」
「は? 何が怖いの?」
「どうせ、近くに他の人が居るんだろ? それで、オーケーしたら俺の事バカにするんだろ」
「そんな事あるわけじゃないでしょ。ほんとバカなの?」
「それにもう付き合ってる娘ならいるから」(嘘だけど)
「え? 嘘でしょ。なんで……」
「それじゃ、アカネ。もう話しかけないでね」
「そんなっ嫌よ! まってよ!!」
「こっちも嫌だよ。いまさらなんだよっ。それにビッチはお断りだっ」
そう言い放って、俺は自宅に向かった。これが俺と仲の良かった幼馴染との最後となるのか、そう思うと心に棘が刺さったかの様な痛みを感じた。
その時にアカネが
「(………ビッチじゃないもん…………)」
と言っていたのは俺には聞こえなかった。それが、もし聞こえていたら未来が変わっていたのかもしれない。
――――――――チュンチュンチュン
次の日、俺が朝起きるとその日はなぜか真冬の寒い時期ではなくて、春の麗らかな陽気が訪れようとしているのを感じた。
突然の事でなにがなんだか分からないが、スマフォを取り出して日時を確認すると。
「なんで、二年前の登校初日に戻ってんだよっ」
訳が分からないが、どうやらタイムリープ? してしまったらしい。
日付が間違いないか念のため親に聞いても
「お前、頭大丈夫か?」
と言われてしまい。もう何がなんだか分からない。
しかし、現実に2年前に戻ってしまっているんだ。もう学力的には学校なんて行かなくてもそのまま大学入学資格検定が取れてしまう。が、親をどうやって説得したらいいか分からない。
仕方なく、学校に登校したらそこには前回と違う幼馴染が居た。
「おはよう。たっくん♪ 元気?」
「た、たっくん?」
「そう。達也だからたっくん。前からそう呼んでたでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど」
俺が戸惑ってしまっている姿を見ながら、とても晴れやかなアカネ。
でも、高校に入ってから、そんな風に呼んでくれてなかったよな? そう思ったし。彼女の雰囲気もどこか違う。こんなに好意的ではなかった気がする。
戸惑いつつも、新しい高校生活が始まってしまった。俺にとってはもう二度目なので、勉強なんて楽勝だ。すぐに成績は学年トップになっていた。
そうすると今回はクラスの皆んなから、勉強を教えて欲しいと言われたり、女子が話しかけて来ようとするが、それをいつもアカネが邪魔をする。
「たっくんは、騒がしいの嫌いだからみんな静かにしてね?」
「たっくん、カッコ良くなったよね」
「たっくん、ココ教えてくれない? よくわかんなくて」
そんな俺たちを周囲はお似合いのカップルだと言うんだ。一体どうなってるんだ。そう思ってアカネに聞いても。
「たっくんが何言ってるのか分かんないよ。アタシはアタシだよ」
としか言ってはくれない。そしてある日、どういう事なのかが知りたくて、一回目の時にアカネに貸してしまった後、帰ってこなかった本を持って来る事にしたんだ。
「また、それ持って来てるんだ」
「また? どういう事だ?」
「なんでもない」
「なんでもなくはないだろ。いい加減教えろよ」
「その本貸してくれたら、教えて、ア、ゲ、ル♡」
アカネがそう言いつつ指を口に当てて囁いて来た。
そんなアカネは、楽しそうに笑っているんだ。でも、なぜだかその笑顔は悪い物じゃない気がした。
「わかったよ。貸せばいいんだろ貸せば。ホラ」
「ありがとっ。嬉しいっ♪」
「じゃぁ、良い加減教えろよ」
「そしたら、アタシの家に来てくれない? そうしたら分かるから………ね?」
「えっ」
――――――アカネの家に行くなんて小学校の時以来だ。
俺にはもう魅力的に育ってしまった幼馴染の家に何も期待しないで行く事なんて出来ない。前回はアカネと喧嘩してしまったけれど。今はまだ喧嘩してないんだ。
それに本を貸して欲しい理由だって教えてくれる。って言ってる。今の時点で彼女を嫌いになろうとする俺の方がおかしいに違いない。
今の俺は期待してしまっている。幼馴染の家に行く事と、そして彼女の気持ちを知れると言う二つの事で、胸が高鳴っていた。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、アカネは俺の手を握ってきたんだ。なんで、そんなに男と手を握れるんだ。そう思ってアカネの顔を見てしまった。
「たっくん緊張しているの?」
「そりゃ緊張してるさ。同級生の女の娘の家に行くんだぞ。緊張しない男子高校生がいるわけがない」
「なにその早口。カワイイ♡」
「お前こそ緊張しないのかよ………」
「んーん。たっくんだし」
そ、それって男として見られてないって事なのか?
そう思って落ち込んだが、どうもアカネの様子がおかしい。手が段々と汗ばんで来てるんだ。そして改めて彼女の顔を見ると頬が紅潮していた。
どうやら緊張していたのは俺だけじゃなかったらしい。そう思ったら、とても嬉しくなった。
そして、ついに訪れたアカネの家。彼女の自室には、肌色の多い本が山の様に置かれて居た。
一体どういう事なんだ。アカネがオタクだったなんて知らなかったぞ。
そう思ってアカネの顔を見た。そうしたら彼女はとても晴れやかな顔で喋りだした。
「たっくんの趣味に合わせたんだよっ! こういうの好きでしょ?」
「えっ。好きとかじゃないよ」
「ウソだっ。この本だって、女の娘がいっぱい出てるじゃない!?」
そう言って、俺から借りた本を取り出した。確かに肌色は多いが中身は健全なライトノベルだ。単にそういう本も読むってだけだ。
「それ、別に変な本じゃなかっただろ。それに読んだんだろお前?」
「確かに、そういうのはなかったけれど。でも、女の娘がいっぱい出てるじゃないっ」
「それは、そういうもんなんだよ。別にそれを求めてる訳じゃない。と言うかなんで、お前もう読んでるんだ? 今日貸したばかりだぞ?」
「あっっ」
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――――――俺たちはベッドで横並びに座って落ち着いて話しをする事になった。
話を聞くとどうやら、彼女は俺よりも前の時間にタイムリープしていたらしい。
中学生3年の時に、すぐに俺に話しかけたらしいんだが俺の方が記憶がまだ戻ってなかったから話しが噛み合わなかったそうだ。
だからもう一度、近くなるタイミングを高校生の時に隣の席になるのを待っていたんだとか。
まぁ、途中で薄々そうじゃないかとは思ってたんだ。だってアカネは前回と違いすぎた。なんと言うか、より俺好みの女の娘になってたんだ。
「なぁ、前回のは、結局どういう事だったんだ?」
「アタシにも分かんないけれど。アタシたちが最後に喧嘩した日にね。あの後、過呼吸で気を失ってしまったのよ。そしたらタイムリープしてた」
「は? 過呼吸? なんでさ?」
「アンタに振られたからに決まってるじゃないっっ!! 本気の告白だったのにっ!!」
「いや、あんな言い方で分かるわけないだろ。ツンデレじゃあるまいし」
(今、思い返しても全然分からないぜ…………)
「だって、この本の娘はそういう感じだったじゃないっ。だから練習したのにっ」
そう言って、俺が貸した本を見せて来た。このライトノベルのヒロインは肌の露出が多くて、主人公に対してツンデレをするキャラクターなんだ。
最後にこのヒロインと主人公は結ばれる。が、その途中でなんども喧嘩をするんだ。なにもそこまで再現しなくていいじゃないか………。
「いや、あれはフィクションだから良いんであってな。現実だと痛いだけだぞ?」
「ふぇぇっ。そ、そうなの!? アタシてっきりこう言うのが好きだと思って、なんども読んで練習したのにぃ」
どうやらアカネはドジっ子だったらしい。真実を知った今なら前回の事がなんだか全て可愛く思えてくるけれど。知らなければ単に痛いだけだ。
「それで、どうして本を返してくれなかったんだ。返してくれたらあんなに怒らなかったのに」
「なんども読んでる時に、本を汚しちゃって………新品買った方が喜ばれるかなぁ。って思ってました。ごめんなさいぃ」
それならそうと言ってくれっ。なんで、そこでツンデレをしようとするんだっ。ちょっと疲れて来たぜ……………。
「もう、わかったよ。いいよその事は………」
「許してくれるの? それなら、よかった♪」
俺の言葉でアカネの表情がコロコロ変わっている。そんな彼女は、今とっても嬉しそうだ。
―――――そうやって、俺たちは約3年弱の時間を使ってやっと仲直りが出来た。
今回の高校生活はとても幸せな日常になりそうだ。
「それじゃ、アタシと付き合って貰えませんか? たっくんの事がずっと、ずーと好きだったの」
「ありがとう。嬉しいよ。今は、君のちょっとドジっ娘な所もとても魅力的に思えるよ」
「何よっ。その言い方っ。イジワルっ」
そう言って、そっぽを向いてしまった彼女。その横顔も今は愛おしい。
俺たちは今度はきっと間違えない。そう思って、どちらかともなくお互いの温もりを感じるためにハグをした。
初めて感じる彼女の感触はとても心地よく、そしてとても良い匂いがした。
おわり